大学ラグビーの雄「ワセダ」は強くなったのか。監督が「あえて完成度を高めていない」と言った意図は?
9月10日・11日、今季の大学ラグビーがいよいよ開幕した。昨季の大学選手権決勝に進出したのが帝京大と明治大だったことからもわかるとおり、今季も関東大学対抗戦を軸に大学日本一の座は争われることになるはずだ。
HOに転向して早稲田大FW陣を牽引する佐藤健次
昨季、4シーズンぶり10度目の日本一に輝いた「紅き旋風」帝京大。名将・岩出雅之監督が勇退し、コーチを務めていた元日本代表のOB相馬朋和氏が監督に就任した。
新監督は昨季までのラグビースタイルを継承し、フィジカルを活かしたセットプレーで前に出て、スペースにボールを運ぶラグビーを展開する。今季も春・夏を通して負けたのは1敗のみで、相馬監督の対抗戦初陣となった開幕戦も14トライを挙げて88−0で立教大を一蹴した。
「なんとか勝利で終われることができてホッとしています。学生一人ひとりが頼もしく、誇らしく感じる一日でした。これをスタートに今年も一歩一歩、進んで行ければいい」(相馬監督)
帝京大のあとを追うのは、やはり「臙脂」早稲田大、「紫紺」明治大の伝統2校だ。
昨季2位の早稲田大は、開幕戦で青山学院大と対戦。1年前は61−13で快勝した相手に今季は38−8とやや苦戦し、特に前半は7−3とクロスゲームとなった。
ただ、就任2年目を迎える大田尾竜彦監督に焦りはなく、逆に納得した表情を見せていた。
「一番よかったのは試合を通じて規律が非常に高く、反則を3つしか取られなかった。夏に時間をかけたディフェンスも穴がなく、安定して見ていられたかな。セットプレーも駆け引きのなかで反則しなかった。修正すべきところは、接点の2人目、3人目のワーク(働き)。接点で前に出られず、アタックのポジショニングが遅くなってオプションが使えず、単調になった」
昨季、就任1年目の大田尾監督が感じたのは、帝京大の伸びシロだったと言う。
「優勝するチームは秋からすごく伸びるなと感じた。昨年の帝京、初戦はあんまりでしたよね(対筑波大/○17−7)。チグハグだったけど、終わって見れば別のチームになっていた。伸びる材料がいっぱいあって、それの精度を高めていって選手たちも結束していった。すごいサイクルだなと」
ワセダは完成度50%くらいそれを踏まえて今季、大田尾監督は「意図的に完成度を高めていない」と語る。
「春からフィジカル、ディフェンス、セットプレーと、今年のほうが伸びていく材料がある。今の時期にどれだけ強みとなり得るパーツを作れたか、というところで今日(対抗戦開幕)を迎えている」
今季は「1/1000のこだわり」というスローガンを掲げた。
まず監督がこだわったが、スキルがあってもフィジカルで負けては意味がないため、「体を大きくすること」だった。たとえばFL(フランカー)であれば体重95〜100kgなど各ポジションで目標体重を定めて、全体練習を1日2回から1回に減らして、その分、体を大きくする時間を作った。
また、元日本代表PR(プロップ)でヤマハ発動機時代の盟友・仲谷聖史コーチにフルタイムでの指導を依頼し、スクラム練習の時間を増加させた。さらに6月からはトヨタヴェルブリッツでプレーしていた佐藤穣司コーチも加わり、さらなるFW強化を図っている。
No.8(ナンバーエイト)からHO(フッカー)に転向した佐藤健次(2年)を中心とするFW陣は、スクラム、ラインアウトともに「完成度は50%くらい」と話す。「公式戦で新しい(FW)パックで組んでみて、ここからかなという感じ。伸びシロはまだまだある」(大田尾監督)と自信をのぞかせた。
早稲田大自慢のBK陣は、SH(スクラムハーフ)宮尾昌典(2年)、SO(スタンドオフ)伊藤大祐(3年)、CTB(センター)野中健吾(1年)、松下怜央(4年)、WTB(ウィング)槇瑛人(4年)、岡粼颯馬(3年)、FB(フルバック)小泉怜史(4年)と、大学随一のポテンシャルとタレント性を持った選手が揃う。
「本当に一戦一戦が大事になってくる。(大学1年時に続いて)もう一度、日本一を獲りたい」
早稲田大史上初の「親子主将」となったNo.8相良昌彦(4年)はそう意気込み、王座奪還を目指す。
メイジは夏に思わぬ落とし穴一方、昨季3位だった明治大も今季の優勝候補だ。対抗戦初戦は難敵・筑波大と接戦を演じるが、後半に「大学生唯一のオリンピアン」WTB石田吉平(4年)がトライを挙げて33−22で退けた。
昨季の明治大も、早稲田大と同様に神鳥裕之監督が就任1年目のシーズンだった。
春から走り込みを重ねて、フィットネスに自信をつけて臨んだ。だが、関東対抗戦、大学選手権決勝でともに帝京大に敗退。その反省を踏まえて、今季は走り込みをやりつつも、ウェイトトレーニングを週5回・1時間半に増やしてフィジカル強化も図ってきた。
スクラムやラインアウトといったセットプレーは、変わらず滝澤佳之コーチの下で継続的に強化。春は帝京大に35−26で勝利し、地力があるところを見せた。ただ、夏合宿ではコンディション不良の選手が続出し、天理大に12−12、帝京大に19−54と、プランどおりの強化は果たせなかった。
ただ、今シーズンの明治大の戦力は厚い。PR為房慶次朗(3年)、LO山本嶺二郎(3年)、N0.8木戸大士郎(2年)、SO伊藤耕太郎(3年)、CTB廣瀬雄也(3年)と、昨季や一昨季から試合に出ていた世代トップクラス選手が揃う。個々の能力や経験値は高いだけに、対抗戦を戦いながら夏合宿の遅れを取り戻していけば頂点も見えてくるだろう。
昨季4位だった「黒黄」慶應義塾大は開幕戦、日本体育大に43−8で快勝した。伝統的にタックルを武器とするチームは今季、FL今野勇久主将(4年)を先頭に「タックルだけでなくボールを奪い返すこと」に注力してきた。
また、SO永山淳(3年)のロングキックを武器に、相手陣で戦うことを意識しているという。得点源であるFWのモールだけでなく、BKにはFB山田響(3年)などスピードのある選手も多いので、トライを取りきるアタック力は魅力だ。栗原徹監督体制も4年目を迎え、勝負の年を迎えている。
東海大はまさかの黒星発進昨季4季ぶりに大学選手権出場を逃した筑波大も、今季は春から調子を上げている。掲げたスローガンは「バチバチ」。主将PR木原優作(4年)を中心にスクラムやセットプレーの強化に努め、武器としてきた接点でバチバチ攻める。今季はFL茨木颯、SH高橋佑太朗、SO楢本幹志朗ら有望な新人も加わり選手層も厚くなったので、今季はひと味違った筑波大を見ることができそうだ。
大学ラグビーは、関東リーグ戦も同時期に開幕。5連覇を目指す東海大は昇格組の東洋大に24−27で金星を許し、いきなり波乱のスタートとなった。今季は群雄割拠の様相を見せており、最後まで優勝争いはもつれそうだ。
対抗戦の開幕から遅れること1週間後、9月18日には関西大学Aリーグも始まる。昨季23シーズンぶり5度目の優勝&大学選手権ベスト4の京都産業大を中心に展開されることは間違いない。
今季の大学ラグビーはディフェンディングチャンピオンの帝京大に、早稲田大や明治大、京産大など東西の強豪校が挑む構図となりそうだ。