J1リーグは残り6〜8試合(9月8日現在)になり、いよいよ熱を帯びてきた。

 横浜F・マリノスを中心にした優勝争いはもちろんだが、2チームの自動降格と1チームの残留プレーオフの「降格回避争い」は白熱。11位の清水エスパルス(勝ち点31)から16位のガンバ大阪(勝ち点28)まで、数字上は1試合でひっくり返る僅差だ。最下位18位のジュビロ磐田(勝ち点23)も、まだ諦める状況ではない。

 クラブの運命を左右するだけに、興味は高まる。残留戦の攻防は、J1の焦点となりそうだ。では、その戦いの決め手となるのは?


横浜F・マリノスに3−0で完敗した湘南ベルマーレだが、戦いのビジョンは見えていた

 今シーズン開幕前、多くの専門家が降格圏に予想したのが、現在7位のサガン鳥栖だった。予算規模から算出した「戦力」では、降格圏のチームだったと言える。個人的に7位と予想したのは異色で、「過大評価」と言われた。

 しかし、サッカーの世界ではマネジメントがモノを言う。クラブがどんなサッカーを志すか、それを実現できる指揮官を招聘し、そのための選手を予算内で集め、集団を鍛え上げ、個人が技量を高める。その仕組みを作れるかどうか。結果を出すには運も必要なのだが、少なくとも鳥栖は強くなる準備ができていた。

「負けて言うのもなんですが、鳥栖は魅力的なサッカーをしていて、そこは川崎にも負けない」

 王者・川崎フロンターレに完敗した後、鳥栖のMF森谷賢太郎はそう語っていたが、その確信がトレーニングそのものに集中させ、試合の自信を高めているのだろう。選手が充実感を覚えているか。そこに迷いがないことで、自然と強さは生まれるのだ。

 その一方、降格圏に足を踏み入れたチームの選手たちは、どこかズレたマネジメントに迷いが生じている。その迷いはシステムの運用精度の低さに出るし、本来の力を出せない構造を生む。一発はあっても安定した攻守に欠け、場当たり的な戦いになるのだ。

 現在17位のヴィッセル神戸(勝ち点24)は典型だろう。

 直近の2−0で敗れた京都サンガ戦。神戸は開始1分、スローインから単純なポストプレーで守備ラインを突破され、折り返しを簡単に入れ替わられて失点。8分には自陣でパスを引っかけられた後の動作が緩慢で、ことごとく後手に回り、2点目を蹴り込まれた。

戦力で劣ってもビジョンが明確なチーム

 その後は個の力量差で優勢に試合を進めたが、後半に入ってDF小林友希が自陣で味方のインサイドへのラフなパスにもたつき、相手を引き倒してレッドカード。これで試合は決まった。今季4人目の監督のもと、お互いがやるべきことが徹底されておらず、練度の低さを突かれた格好だ。

 G大阪も「不安定さ」は共通している。

 直近の0−3で完敗した鳥栖戦。監督交代したG大阪は残留戦と割り切り、リスクの少ないロングボールを入れ、セカンドでの勝負に切り替えていた。しかし、それだけでは手詰まりになるし、能力値の高い選手は多いだけに工夫を加えようとする。そこで連係の未熟さが出た。

 相手にはめられるなか、DFクォン・ギョンウォンは自陣でパスミスを誘発され、ショートカウンターで先制点を失った。2点目もクロスに対して人はいても寄せが甘く、3点目もカウンターで裏返しにされ、相手を自由にしすぎていた。攻撃では食野亮太郎の仕掛けは迫力があったが、単発に終わった。

 神戸にもG大阪にも敵を凌駕できる人材はいる。十分に勝ち点を見込めるし、十分に巻き返せる。ただ、攻撃に再現性が乏しく、守備はぜい弱さを抱え、結果的に厳しい順位にいるのだ。

 残留争いにある各チームだが、それぞれ事情は違う。

「何もないゲームになってしまいました」

 首位、横浜FMの本拠地に乗り込み、3−0と敗れた湘南ベルマーレ(14位、勝ち点29)の山口智監督は開口一番にそう語ったが、戦力的に見れば十分に健闘を示したと言える。

 チームとしての戦いのビジョンが見え、後半序盤までよく耐えていた。むしろ彼らのリズムとなって攻める形が生まれてきたなかで、色気が出たか。後半11分、DF舘幸希がボールを中へコントロールするリスクを冒し、手元が狂った。これをかっさらわれて、あっさりカウンターで失点した。

「守りきっている感覚はあったので、みんなの気迫に水を差すようなプレーをしてしまった。スキを見せて、申し訳ない」

 舘の反省の弁だったが、判断は別にして、技術的ミスを責めるべきではない。彼を含めて、チームとしてライン間で相手をすりつぶしながら、中央では堅固にクロスを跳ね返し、プレーのイメージは明確だった。戦力的には劣勢でも、勝ち負けに論理性があるチームだ。

 12位の北海道コンサドーレ札幌(勝ち点31)、13位の京都(勝ち点29)も、湘南と分類上は似ている。札幌はより攻撃的で、京都は強度が強い、というキャラクターの違いはあるが、戦力的限界はあるにせよ、プレーのガイドラインが見える。また、15位のアビスパ福岡(勝ち点28)もやるべきことは明白で、前と後ろのパワー、高さに特徴があるチームだ。

 清水は前半戦こそ戦いの形が見えなかったが、早めに監督交代に踏み切り、乾貴士など即戦力を入れたことが功を奏している。同じ静岡のライバルである磐田は、昇格組の勢いを継承できなかった。伊藤彰監督は優れた戦術家だが、クラブのカラーに馴染めず、ヘッドコーチから昇格した渋谷洋樹監督が采配を振るう。

 最終節は11月5日。それまで、どこが残留を確定できているだろうか。