9月8日、ヨーロッパリーグ(EL)の本戦が火ぶたを切る。

 優勝候補の本命は、イングランドのマンチェスター・ユナイテッド、アーセナルなどのビッグクラブか。しかし、実力差は伯仲。PSV(オランダ)、モナコ(フランス)などはチャンピオンズリーグ予選で敗退し、ELに回っているだけに対抗馬と言える。また、昨シーズンのカンファレンスリーグ(ECL)で優勝した、ジョゼ・モウリーニョが率いるローマ(イタリア)も侮れない。

 個人的には、スペインのベティスを推す。フランス代表ナビル・フェキルは、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)、ウスマン・デンベレ(バルセロナ)と並ぶスペクタクル。マヌエル・ペジェグリーニ監督の選手の個性を生かした集団戦術は極まりつつあり、41歳になるホアキン・サンチェスは最後の花を咲かせるか。

 日本人選手では、冨安健洋(アーセナル)、南野拓実(モナコ)、原口元気(ウニオン・ベルリン/ドイツ)、堂安律(フライブルク/ドイツ)、町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ/ベルギー)、田中亜土夢(HJKヘルシンキ/フィンランド)、そして久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)と7人が出場予定。まずは決勝トーナメント進出を目指すことになるが、昨シーズンは鎌田大地、長谷部誠のふたりの日本人を擁するフランクフルトが優勝している。W杯シーズンの今季は、欧州最前線を彼らが逞しく戦うことで希望も見えてくる。

 大会開幕節の注目カードは、久保を擁するレアル・ソシエダが敵地オールド・トラフォードでユナイテッドに挑む一戦だ。


アトレティコ・マドリード戦では70分からの途中出場だった久保建英(レアル・ソシエダ)

 9月3日、久保は国内リーグのアトレティコ・マドリード戦で、70分からの途中出場となった(結果は1−1)。開幕から3試合連続先発出場だっただけに、「新加入選手のせいで、先発から押し出された?」という心配もあるが、あくまで「コンディション調整」と捉えるべきだろう。ELも並行して戦うなか、疲労が溜まって筋肉系のトラブルになるのを防止する必要があるのだ。

ELの舞台で殻を破れるか

 久保の途中出場は合格点だった。

 ダビド・シルバとの交代で、初めてトップ下としてプレーした。ライン間に入り、あるいはサイドに流れてボールを引き出し、的確にパスを流し入れた。とりわけ、移籍期限ぎりぎりで入団したナイジェリア代表、ウマル・サディクにダブルタッチで出したスルーパスは芸術的だった。寄せてきたスペイン代表MFコケを翻弄。サディクのゴールはオフサイドで取り消されたが、魔法的プレーで観衆を沸かせた。

 守備面でも貢献していた。アトレティコのMFジョフレイ・コンドグビアを封じ、攻撃を分断。プレスバックでうしろからボールを突き出したシーンでは、押し込まれかけていただけに危機を防いだと言える。

 久保はダビド・シルバの代役としても働けることを証明した。ボールも集まっていて、信頼を得ているのだろう。セットプレーも任され、右CKでは左足で直接狙ってファーポストをかすめた。

 EL開幕戦の焦点は、レアル・ソシエダがユナイテッドを相手にどこまでボールを握って、攻める時間を増やせるか、になるだろう。受けに回ると、ブルーノ・フェルナンデスなど強力な攻撃陣に蹂躙される。ボールを動かし、主体的にゲームを進められる点では上回るだけに、どこまで怯まずに戦えるか。

「舞台慣れ」

 その点では、スペイン代表やマンチェスター・シティでタイトルを勝ち取ってきたダビド・シルバがキーマンになるだろう。アトレティコ戦も、サディクのゴールの起点になった。彼にボールが入ることで、プレーの渦が起き、相手を飲み込むことができる。

 久保はチーム内で、そのダビド・シルバと最も調和を感じさせる。左利き同士、世界観が交わる。サッカー漫画のようなゴールデンコンビを形成しつつあるのだ。

「この夏は、ずっとシュート練習をしていた」

 開幕戦でゴールを決めた久保は語っていたが、覚醒の予感がある。18歳で一気にスターダムを駆け上がった後も成長を続けてきたが、ややその速度が落ちていた。それだけにELの舞台で、もうひとつ殻を破れるか。

 ユナイテッド戦でもうひとり注目したいのはサディクだ。10代からゴールゲッターとして潜在能力の高さが注目されていた(リオ五輪では日本戦でゴール)が、イタリアでは鳴かず飛ばずだった。その後、スペイン2部アルメリアで1年目から20得点、2年目も18得点を挙げて昇格に貢献。長い手足を使ったプレーはスケール感があり、アトレティコ戦では移籍後いきなり貴重な同点ヘッドを決め、違いを示した。

「(2020−21シーズンに同大会で0−4とユナイテッドに負けているが)リベンジというのはない。あの時とは状況も違うし。過去のことは関係なく、互角に真っ向勝負を挑む」

 守護神であるアレックス・レミロは言うが、アトレティコ戦で見せたような神がかったセービングも勝利の条件となるかもしれない。

 ELは5月31日、ブダペストでの決勝戦まで熱闘が続く。