今年7月のジャパンツアーで日本のサッカーファンを熱狂させた"新銀河系軍団"パリ・サンジェルマン(PSG)が開幕からエンジン全開だ。

 今シーズン最初の公式戦となったナントとのトロフェ・デ・シャンピオン(フランスのリーグ戦王者とカップ戦王者が対戦するスーパーカップ)を4−0で快勝して優勝トロフィーを掲げると、リーグ・アン開幕から6試合を戦って5勝1分け無敗。特に目を引くのがリーグ戦6試合で24ゴールと、1試合平均4得点を叩き出している攻撃陣の好調ぶりだ。


実は仲良しコンビのネイマール(左)とエムバペ(右)

 もちろんその原動力となっているのが、チームの3枚看板であるリオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エムバペの「MNMトリオ」である。

 そのなかでもネイマールは、PSG加入後の5年を振り返ってもベストの状態と言っても過言ではないほどの絶好調ぶりで、ここまで7ゴール6アシストを記録。コンディションの良さは、5−2で勝利した第2節モンペリエ戦の3点目のシーンにもよく表れている。

 後半51分、アクラフ・ハキミが入れたクロスが相手DFに当たって角度が変わるも、ニアに飛び込んだネイマールがそのボールの変化に合わせてダイビングヘッド。トップフォームでなければあのボールに反応することもできなかっただろうし、おそらくシュートを枠に飛ばすことも不可能だったに違いない。とにかく、現在のネイマールはキレキレだ。

 ちなみにその試合では、エムバペとPKキッカーを巡る争いがあった。現地メディアでは"ペナルティ・ゲイト"としてふたりの関係悪化をクローズアップしたが、ロッカールームではセルヒオ・ラモスが仲裁に入り、騒動の翌日にもスポーツアドバイザーのルイス・カンポスが3人で話し合いの場を設けたことで、あっという間に仲直りしている。

 過去にもお互いのエゴを表にしたことでメディアに不仲説を取り沙汰されたこともあったが、周知の通り、もともとふたりは仲良しコンビだ。今回の件もちょっとした兄弟げんかのようなもので、次の第4節リール戦では、エムバペがハットトリック、ネイマールも2ゴール3アシストをマーク。エムバペの2ゴールをネイマールがアシストしている。

これぞMNMの真骨頂ゴール

 また、ネイマールに負けず劣らず好調なのが、加入2年目のメッシだ。

 昨シーズンのメッシはコパ・アメリカの影響で調整が遅れたうえに細かい故障が続き、さらにシーズン後半戦は新型コロナの後遺症が影響して結局トップフォームを取り戻せず。リーグ戦6ゴール14アシストに終わり、周囲の期待を大きく裏切ってしまった。

 しかし今シーズンは名誉挽回を図るべく、始動日からいい状態でキャンプに入り、ジャパンツアーでも3人のなかで最も早い仕上がりを見せていた。その後も調子を上げて現在はトップフォームに近い状態で、3ゴール6アシストを記録する。昨シーズンのようなボールロストやイージーなキックミスもほとんど見られず、ネイマールとエムバペの引き立て役に徹しているように見えるほど、プレーに余裕も感じられる。

 結局のところ、PSG最大の強みはMNMであることが、ここまでの戦いから改めて証明されたと言っていい。

 たとえば、第5節のトゥールーズ戦の先制ゴールは、まさにMNMの真骨頂とも言えるシロモノだった。この試合のトゥールーズは、通常の4バックではなく、PSG対策として5バックを採用。自陣ペナルティエリアで人数をかけてしのぐスタンスをとったが、37分、3人は彼らでなければできないような方法で、中央をこじ開けて見せた。

 中央にエムバペが、その1メートル右にメッシが、ネイマールはエムバペの左約5メートルの位置でそれぞれマークを背負っていたその場面で、エムバペの後方約7メートルの位置でボールを持つマルコ・ヴェラッティがエムバペに高速の縦パスを供給する。

 すると、マークを背負ったエムバペがメッシにダイレクトでパスし、すかさずメッシがダイレクトでネイマールにスルーパス。エムバペがダイレクトパスした瞬間にマーカーの背後を狙っていたネイマールは、メッシのピンポイントスルーパスを受けると、GKの動きを見ながら冷静にフィニッシュした。

 何もないところからでもゴールを決める......とは、まさにこのことだ。あの場面で3人のイマジネーションを信じて縦パスを入れたヴェラッティもさすがだが、思わず副審がフラッグを上げてしまうほどの一瞬の出来事は、改めて3人の別次元ぶりを物語っていた。

CLユベントス戦での注目点

 一方、クリストフ・ガルティエ新監督のここまでのチーム作りも順調に進んでいる。ジャパンツアーから採用する3−4−1−2(3−4−2−1)の新システムも機能し始め、メンバーもほぼ固定。GKジャンルイジ・ドンナルンマ、最終ラインにはプレスネル・キンペンベ、マルキーニョス、セルヒオ・ラモスのKMRトリオが並び、中盤は左からヌーノ・メンデス、ヴェラッティ、ヴィチーニャ、ハキミの4人、そして前線がMNMという面々が、ここまでのレギュラーメンバーになる。

 さらに、ジャパンツアー直後にはライプツィヒからDFノルディ・ムキエレを獲得したほか、リールからレナト・サンチェス、そして移籍期限ギリギリでナポリからファビアン・ルイス、バレンシアからカルロス・ソレールといった中盤の即戦力も補強。名より実をとる補強戦略が遂行されたことで、選手層はより一層の厚みを増している。

 今後の注目は、これだけの陣容を整えたガルティエ監督が、9月の代表ウィークまでの過密日程をどのようにやり繰りして乗りきるかだ。

 指揮官はローテーションの採用を公言しているが、その場合、毎試合でもプレーしたいタイプのMNMを本当にベンチに座らせることができるのか。就任当初から不安視されているガルティエ監督のマネジメント能力が、改めて問われることになるだろう。

 そして、ガルティエ監督がほのめかしているオプションとしての4バックシステムも、近いうちにお披露目されるはずだ。仮にMNMの起用を前提とした場合は4−3−1−2の可能性が高いと予想されるが、中盤の「3」は、ヴェラッティ、ファビアン・ルイス、カルロス・ソレールで攻守のバランスを保てるのかなど、見どころは尽きない。

 9月6日には、いよいよチャンピオンズリーグが開幕し、PSGは初戦でユベントスをホームで迎え撃つ。国内リーグ第4節のモナコ戦ではハイプレスを仕掛けられて予想以上の苦戦を強いられたが、その試合で露呈した戦術的課題を、果たしてガルティエ監督はどのように修正するのか。

 MNMのパフォーマンスはもちろん、ユベントスとの試合はそこが最大の注目ポイントになりそうだ。