甲子園を沸かせたスラッガー5人を分析。名打撃コーチ・内田順三が浅野翔吾らの長所と課題を語る
甲子園球場に3本のホームランを叩き込んだ浅野翔吾(高松商)ら、今夏の全国高校野球選手権大会も大舞台で爪痕を残した好素材がいた。鈴木誠也(カブス)や岡本和真(巨人)ら数々の強打者の育成に携わった名打撃コーチ・内田順三氏が、甲子園を沸かせた5人の打者をアナライズ。各選手の長所と今後の課題について語ってもらった。はたして名伯楽をうならせた打者はいたのか?
今夏の甲子園で3本塁打を放った高松商の浅野翔吾
上背はないですが、ボールを遠くへ飛ばすパワーも技術も持っています。甲子園では146キロのスピードボールをバックスクリーンに放り込むなど速い球にも対応できて、ボール球になる変化球を振らない選球眼も印象的でした。
体の小さな選手が遠くに飛ばそうとすると、アクションが大きい反動をつける打ち方になりがちです。ところが、浅野くんの打ち方は大きな反動をとりません。トップ(バックスイングを終え、振り出す位置)の位置からミートポイントまでボールとの距離を保った状態で体重移動をして、前のカベ(体の左側)をギリギリまで開かないよう我慢してから回転運動ができる。だから爆発力があって、フォロースルーの大きなスイングができます。
ハンマー投げをイメージするとわかりやすいですが、大きな力を出そうとする時に、上半身と下半身を反対方向にねじる「ツイスト動作」が起きます。浅野くんはツイスト動作のあるスイングができるので、飛距離が伸びるのでしょう。
課題を挙げるとすれば、右腕の使い方が少し硬く見えること。金属バットを使う高校野球では打てても、木製バットを使いこなすには両腕をバランスよく扱う必要があります。といっても、鈴木誠也も広島入団直後は右手のほうが強すぎて、少し遠回りするスイング軌道でした。そこからバットヘッドを体の近くに通すような、インサイドアウトのスイングを習得していったのです。
浅野くんの素材は疑いようがありません。いずれはホセ・アルトゥーベ(アストロズ)のような大打者になってもらいたいですね。
3回戦の長崎海星戦で満塁本塁打を放った近江・山田陽翔
山田陽翔(近江/投手/175センチ・78キロ/右投右打)
投手としてプロ注目の選手だそうですが、打者としても非凡な才能を感じます。いかにも背筋に力がありそうで、投打にその背筋力を生かせています。
重心を落としてボールを呼び込む変則的なタイミングのとり方が特徴的です。「1、2、3」ではなく、「1、2のぉ〜、3」と割れ(上半身は捕手側、下半身は投手側に向かう状態)の時間を長くとれます。背筋が強く、胸周りが柔らかい点は投手ならでは。大谷翔平(エンゼルス)のスイングもそんな強さと柔らかさがありますから。
課題は浅野くんと同様に右手の使い方です。右手が強いがゆえに、「金属バット打ち」になりやすい。本人は強い投手志望と聞きましたが、打者としても豊かな潜在能力を感じます。
聖望学園戦で2本塁打を放った大阪桐蔭・松尾汐恩
松尾汐恩(大阪桐蔭/捕手/178センチ・76キロ/右投右打)
細身な打席でのシルエット、打撃スタイルは中村奨成(広島)を彷彿とさせます。今夏の甲子園で2本のホームランを打ちましたが、長打力以上にシュアさが印象に残りました。
左手の小指をグリップにかけ、バットを長く持つスタイル。大振りをせずに芯でとらえるので確実性が高く、変化球を拾うのもうまいです。
テイクバックの際に右ヒジが少し体の内側に入り、上体をねじる動作もありますが、そこを含めて自分の打撃のリズムになっているので変に直さないほうがいいでしょう。今後プロで速いボールに差し込まれる可能性もありますが、工夫次第で克服できます。たとえば吉川尚輝(巨人)も同様に後ろ腕のヒジが内側に入るタイプでしたが、構える際に両腕を体の前へ伸ばすように出すことで後ろヒジが入らないようになりました。
知り合いのスカウトから聞くと、捕手としての守備能力も相当に高いようですね。遊撃手もできるそうですから、ドラフト上位指名は堅いでしょう。
強肩・強打の外野手、大阪桐蔭の海老根優大
海老根優大(大阪桐蔭/中堅手/182センチ・85キロ/右投右打)
大阪桐蔭の打者は他校に比べてレベルが違うと感じますが、海老根くんも素晴らしい素材です。スイングを見ての率直な感想は「手が速い」ということ。ボールを呼び込むまでの動きは大きくても、大振りではなくボールまですごい速さでとらえられる。バットの出方がいいのです。
自分の間合いでリズムをとれるので、受け身になることなく打つべき球をセレクトできる。多くの打者は「ストレートに差し込まれたくない」「変化球にも崩されたくない」と受け身になって、結果的に中間球を待って中途半端なスイングになってしまいがち。でも、海老根くんは自分の間合いがある上に、トップからインパクトまでのスピードが速いので強烈な打球を生み出せます。
惜しいのは構えでグリップが低めの位置にあるのに、右ヒジを高く上げようとして少し窮屈な形になっていること。腕に余計な力が入って、打撃を難しくしています。大谷翔平に代表されるように、いい打者は構えた際に後ろ脇(右打者なら右脇)に空間をつくっています。この空間があると、結果的に下半身と上半身が連動したスイングになり、出力が上がるのです。グリップを高くして構えるなど、右脇を空けて自然な形で構えることを勧めたいです。
俊足・巧打が持ち味の九州国際大付の黒田義信
黒田義信(九州国際大付/中堅手/180センチ・73キロ/右投左打)
広角にヒットゾーンへと運べそうな、打撃センスのよさを感じます。体のバランス、構え姿の背中のライン、確実性の出そうなスイングもいい。さばくのが上手で、若林晃弘(巨人)によく似ていると感じました。
ひとつ気になったのは、低いトップからさらにヒッチ(バットのグリップを上下動させる動き)が入ること。丸佳浩(巨人)のように構えでグリップが低くても、最終的にトップで上がっていれば問題ありません。黒田くんはトップ時にヒッチが入るので、ストレートの速い投手には差し込まれる危険があります。線の細い打者ほど、どうしても反動を使って飛ばそうとしますが、プロでは余分な動きが命取りになります。
このヒッチが入ることでバットが遅れて出てきて、遅い変化球にも対応できる利点もあります。とはいえ、今後を考えると矯正したほうがいいでしょう。肉体的な伸びしろもあるので、これから大人の体になった時にどんな打者になるのか楽しみです。
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プロに進むどの選手も、一番大切なのは「スピードに慣れること」です。高校野球とプロでは投手のレベルがまったく違います。ストレートのスピードが速いうえに、変化球だって比べものにならないくらいキレが増します。投手は打者にフルスイングをさせまいと、さまざまな手を使ってタイミングを外してきます。
そこで投手に合わせてコンタクトしようとすると、打者として小さくまとまってしまいます。まずは空振りを恐れず、プロの速いボールに対して自分のスイングをすること。それがプロで活躍できる強打者への第一歩です。
うまいバッティングをしようとせず、大学へ行ったつもりで力強いスイングを身につける。今回分析した選手には、そんなプロ生活を送ってもらいたいです。