巨人・坂本勇人の「後継者」を本気で探してみた。現役高校生・大学生で唯一候補に挙がったのは、あの名門校の元主将!
編集部から依頼された「巨人・坂本勇人の後継者を本気で探す」というテーマには、正直まいった......。「本気で」というところが思考を硬直させ、強烈なプレッシャーになった。
今はいない、いるわけがない......と。
2016年にセ・リーグ初の遊撃手での首位打者を獲得するなど数々の偉業を達成してきた坂本勇人
坂本は2006年にドラフト1位で光星学院(現・八戸学院光星)から巨人に入団すると、2年目の2008年から遊撃手のレギュラーを獲得。以来、昨年まで通算打率.291、2118安打、261本塁打をマークしながら、優勝を義務づけられたチームの主力を務めてきたスーパープレーヤーだ。
バッティングもさることながら、めったにエラーしない守備力がまたすごい。とくに昨年、一昨年と110試合以上に出場して、ともに失策数わずか4個は、もはや完璧の守備力と言っていいだろう。
あの王貞治、長嶋茂雄の「ONコンビ」やイチローに後継者が現れなかったように、坂本も球史に残る傑出したプレーヤーである。プロ野球という球界の頂点で、しかも巨人というもっとも伝統ある常勝チームの遊撃手。それだけでも相当なプレッシャーだが、打線の核としても15年にわたって機能し続ける。そんな離れ業をやってのける"ショート"など、そうそういるわけがない。
プロ16年目の今季、腰を痛めたりしてなかなか思うようなプレーはできず、打率.279、5本塁打、28打点の成績だが、それでも坂本がいるといないとでは、打線のすわりというものが違う。それこそ本物の"レギュラー"というものだろう。とはいえ、いつまでも坂本に頼ってばかりもいられない。
2年前、2020年のドラフトで巨人は中京大中京の遊撃手・中山礼都を3位で獲得した。たしかに、プロでレギュラーになる選手には違いないかもしれないが、「坂本勇人の後継者」というイメージはなかなかつくれなかった。
スケール感が違った高校時代後継者というからには、それ相応の存在感やスケールがほしい。坂本の高校時代のプレーは、うまく説明できないが、伸びやかさのようなものがあって、型にはまったところがなかった。
花巻東時代の大谷翔平(現・エンゼルス)もそうだったが、坂本も光星学院という全国屈指の強豪校の主力でありながら、「勝たなきゃ、勝たなきゃ......」という、窮屈で緊張過多の野球では決してなかった。
目の前の1勝とか、目の前の大会とか、目先のものではなく、もっともっと先を見据えたような野球を、練習でも実戦でも体現していた。
たとえば、大谷のシートバッティング。次の大会のことだけを考えるならば、ジャストミートのライト前ヒットが打てたらそれでいいはずだ。しかし、彼は右翼手が打球を捕った瞬間に一塁ベースを蹴って二塁に突進して、ライト前を"二塁打"にした。
「走りながらライトの顔を見たら、チラッと一塁ベースを見ていた。これは一塁を回り込む自分を刺しにくるな......と思って、二塁に直行しました」
あとでそのワケを聞いたら、当たり前のような顔で、そんな説明をしてくれた。
高校時代の坂本は、空振りしたあとの顔が気持ちよさそうで、すごくよかった。そりゃそうだろう。振りきったあとの姿がまったく崩れず、それだけでカッコよかった。
バッティング練習では、センターから右中間ばかりにライナー性の打球を飛ばしていた。たまに打ち損じると「うわっ!」と叫んで、それまたいい顔をしていた。
「あっちの方向に打てていれば、バットが遠回りしてくることは絶対にないので......安心なんです」
ここ数年、坂本は鮮やかな内角打ちのテクニックが話題になっているが、高校時代に培ったインサイドアウトのスイング軌道という下地があるからなのだろう。
そして長い手足。腕の長さが印象的で、柔軟な身のこなしと運動量抜群のフィールディングは、当時から185センチほどの長身だったのに、私には175センチぐらいのショートの動きに見えていた。それほど無駄がなく、自由自在に身体を操っていた。
ドラフト候補に後継者は?今年のドラフト候補にも、優秀な遊撃手は何人もいる。
大阪桐蔭では主将を務めていた大阪商業大2年の薮井駿之裕
高校生なら、天理・戸井零士(180センチ・85キロ/右投右打)の安定した捕球とフィールディング。履正社・光弘穂高(178センチ・80キロ/右投左打)の強く投げなくても糸を引くような強肩。このふたりはバッティングを含めた総合力が高い。
スケールなら、両親がナイジェリア人の誉高校のイヒネ・イツア(184センチ・83キロ/右投左打)。躍動感あふれるアクションとプロでも売りものになる"猛肩"だ。腕が長く、ゴロをさばく柔軟なバンドリングがすごく映える。バッティングも春から随分と精度が上がってきた。今は粗削りでも"夢"を見たいならこの選手だ。
ディフェンス能力なら、横浜商の長野圭汰(181センチ・70キロ/右投右打)。こんな華麗な身のこなしができる高校生遊撃手を見たことがないと思うほどの実力者である。また、見るたびに「うまいなぁ......」と感心し、思わず見とれてしまうのが神戸国際大付の山里宝(169センチ・65キロ/右投右打)だ。
もしかしたら、高松商の浅野翔吾ならやれるんじゃないかと思ったりもしたが、ショートというポジションを、しかもプロの世界で長年守り抜くというのは並大抵のことではない。
大学生にも敏捷性抜群でパンチ力もある天理大・友杉篤輝(172センチ・70キロ/右投右打)など、可能性を秘める選手はいる。
ただ"後継者"となると、今年、そして来年まで見通しても、それらしき選手は見当たらないように思うなかで、ひょっとしたら「坂本勇人の後継者」になれるかもしれないという大学生2年の遊撃手がいる。
大阪商業大2年の薮井駿之裕(179センチ・78キロ/右投右打)だ。
大阪桐蔭時代に控えの主将として、2020年の独自大会に出場していたから名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれない。この選手の何がすごいかと言えば、「プレーに対する弾けるような生命力」である。薮井のプレーを見ていると、とにかく元気になれる。大阪商業大は全国にも出てくるチームだし、機会があれば、ぜひ彼のプレーを球場で見てほしいと思う。
坂本のすごさとは、卓越した野球技術とともに心身の飛び抜けた強靭さだ。レギュラーになってからの15シーズンで、およそ1900試合に出場......。ということは、少なくとも10年ぐらいはフル出場している計算になる。体に負担のかかるポジションで、この事実はただただ驚く。「後継者」というのは、少なくとも「先代」と同じことができること。
いくら練習してもへこたれない。できないことは練習でクリアしていける。ケガをしても復帰するのに時間をかけない。その心身の強靭さこそ、「坂本勇人の後継者」の最大の条件なのかもしれない。だからこそ、薮井のたくましい生命力に期待したいのだ。
答えが出るまでまだ数年かかるが、それでも「本気で探す」というテーマなのだから、それなりの自信と責任は感じている。