「クリスティアーノ・ロナウド(37歳)の新天地は?」

 ここ数カ月、メディアはその行方をさんざん報じてきた。しかし、実際は何も起こらなかった。結局、所属先のマンチェスター・ユナイテッドに残留。移籍期限終了を前に、喧騒はほぼ幕を閉じた。

 大山鳴動して鼠一匹。まさに、そんな感じだ。世界最高のサッカー選手を自負してきたロナウドを巡る移籍騒動とは、一体何だったのか?


マンチェスター・ユナイテッド残留が決まったクリスティアーノ・ロナウド

 ロナウドのユナイテッド退団希望がニュースとして盛んに報じられるようになったのは、今年7月になってからだ。プレシーズンの練習帯同が遅れ、本人の移籍希望は外部に対しても明確なものになっていった。

「チャンピオンズリーグ(CL)に出たい」

 それをプレー条件にするロナウドにとって、CL出場を逃したユナイテッドに残留する選択肢はなかった。

 バイエルン・ミュンヘン、ドルトムント、チェルシー、レアル・マドリード、FCバルセロナ、アトレティコ・マドリード、インテル、パリ・サンジェルマン、スポルティング・リスボンなど、次々と有力クラブの名前が移籍先候補として挙がり、派手に紙面を飾った。大物代理人ジョルジュ・メンデスが暗躍し、CL出場権を持つ有力クラブと交渉を続けた。

 しかしながら、思った以上に合意は遠かった。ひとつは、高額のサラリーがあるだろう。2900万ユーロ(約40億円)という年俸を受け入れられるようなクラブはなかった。たとえばドルトムントは1200万ユーロ(約16億5000万円)が限度だったと言われる。

 また、別格のスーパースターだけに、入団によって騒がしくなるという混乱も危惧された。よくも悪くも、ロナウドの存在感は大きい。マーケティングだけでなく、現場の戦術自体も引きずられる。彼自身の得点力に疑いの余地はないが、チーム全体として動きに合わせざるを得ず、負担やデメリットも大きくなってしまう。

「(ロベルト・)レバンドフスキの退団はあるが、だからと言ってロナウドという選択肢はどうか。プレー面だけでなく、経済的にも折り合いをつけるのが難しい。戦力は充実しているから」(バイエルンのハサン・サリハミジッチSD)

ロナウド中心の戦いにならざるを得ない

 クラブと監督、どちらもが合意し、獲得に積極的になるところが現れなかった。アトレティコは、ディエゴ・シメオネ監督は前向きだったが、クラブは後ろ向き。チェルシーはクラブが興味を示したが、トーマス・トゥヘル監督が反対した。プロの第一歩を踏み出した古巣スポルティング・リスボンへの復帰は美談に思えたが、高額のサラリー以上にルベン・アモリム監督が「ロナウド獲得なら辞職する」とまで反対し、暗礁に乗り上げることになった。

 ロナウドとメンデス代理人が最後まで望みを託したのが、セリエAのナポリだった。クラブの会長が強い関心を示しただけでなく、ルチアーノ・スパレッティ監督も「ロナウドを指導することは、監督人生の逸話になる」と語り、相思相愛の関係に見えた。かつてディエゴ・マラドーナが熱狂を巻き起こしたクラブは、2018年にもロナウドにオファーを送っていたが、当時はCL出場権がなかった。

「ヴィクター・オシムヘンを1億ユーロ(約140億円)で売却、代わりにロナウドを獲得し、年俸は1700万ユーロ(約24億円)」

 具体的な条件内容の報道もあったが、8月31日にはすでにその線は消えていた。

 誤解を恐れずに言えば、どのクラブもロナウド獲得に逡巡した。望みどおりの金額のオファーを用意したのはサウジアラビアの金満クラブだけだった。

 時代の変化を感じさせる。かつてロナウドはリオネル・メッシと双璧をなし、シーズン50得点も見込める世紀のヒーローだった。今も、そこまで衰えていない。ユベントスでも一昨シーズンにセリエA得点王になっているし、昨シーズンはユナイテッドでカップ戦を含めると24得点を叩き出している。しかし高額な年俸もそうだが、彼中心の戦いにならざるを得ない戦術的犠牲が見合わなくなってしまった。

「もうイタリアでは見たくない。彼がやってきて、クラブ内でさまざまな問題を引き起こした。その結果から、クラブはまだ立ち直りきれていない。ひとりだけ年俸3400万ユーロ(48億円)で、他がせいぜい600万ユーロ、700万ユーロだったら、摩擦が起きるのは当然だ」

 ユベントスの元会長ジョヴァンニ・コボッリ・ジッリのコメントは痛切だ。

 駄々をこねたスーパースターは、CL出場のないユナイテッドで頑張るしかない。当然ながら、OBも含めて辛らつな声が聞こえてくる。常人なら気まずさを覚えてどうにかなりそうだが、ロナウドはストレスを感じることはないのか。

「ロナウドはチームの一員である。すべての試合で能力の高い選手が必要だ」

 ユナイテッドのエリック・テン・ハーグ監督は言う。

 窮地に立たされた時、ロナウドはいつもその力を示してきた。再び眩しい輝きを放つことができるのか。そんな関心もスーパースターのなせる業だ。