久保建英の相棒の適性とは? ソシエダに新FW加入でも、その役割は変わらない
8月27日のリーガ・エスパニョーラ第3節で、久保建英を擁するレアル・ソシエダは、敵地でエルチェを0−1と下している。
この一戦を前に、レアル・ソシエダはスウェーデン代表FWアレクサンデル・イサクをプレミアリーグ、ニューカッスルへ7000万ユーロ(約95億円)で売却した。エースストライカーの電撃的移籍直後のゲームは注目を浴び、結果は18歳の新鋭FWモハメド・アリ・チョが代役をこなし、スペイン代表アタッカー、ブライス・メンデスの得点で勝利している。後半途中交代で出場した下部組織出身ジョン・カリカブルも点取り屋の気配を放ち、期待のスペイン人FWカルロス・フェルナンデスもケガからまもなく復帰する。だが、8月31日の移籍期限まで、クラブは補強に動いている。
久保は変わりゆくチームのなかでいかに適応し、どんなFWと組むことで最高の成果を出せるのか?
エルチェ戦に先発、後半33分までプレーした久保建英(レアル・ソシエダ)
エルチェ戦の久保は、4−3−1−2の2トップの一角として先発でプレーしている。カディス戦、バルサ戦と役割は変わっていない。
試合序盤、人に食いつく相手の守備にチームとして手を焼いていたが、15分を過ぎるとリズムをつかむ。その先鋒が久保だった。17分、ダビド・シルバからボールを受けると、コロンビア代表ホアン・モヒカとの競り合いで負けずにシュートまで持ち込む。直後にも、右サイドで1対1になると、シュートコースを作って左足で打ち込み、GKを脅かした。
トップ下に入ったダビド・シルバとの連係は、すでに極まりつつある。しかし、それだけではない。周りの選手との出し入れの感覚のよさも見える。
19分、前線の久保は、斜めに後方から走り込んできたダビド・シルバと入れ替わって下がる。この動きだけでディフェンスを撹乱。ゴール前でフリーになったブライス・メンデスにスルーパスが通り、シュートを流し込んだ。
32分、久保はマッチアップすることが多かったモヒカを、狡猾に中央へ引き付ける。瞬間的に裏でアリ・チョが抜け出し、慌てたモヒカに倒され、PKになった。PKはミケル・メリーノがパネンカ(GKの裏をかいて中央を狙ったキック)で外してしまったが......。
相性がいいのは調和力が高いタイプ後半2分にも、久保はダビド・シルバからのパスを受け、素早くブライス・メンデスに叩く。再びダビド・シルバに渡ったところ、ゴール前にタイミングよく入ってリターンを受け、間髪入れずに左足アウトでシュート。GKの好セーブに防がれたが、この瞬間、背後から倒されていた。
「仲間」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、そのひと言で選手評を表記しているが、関係性のよさを物語る。
久保はエルチェの選手を翻弄していた。自らが潰されそうになると、ボールに触らずに味方をフリーに。チームメイトとの関係を分断されたら、個人の突破、仕掛けで苦しめた。この日はジャッジレベルがかなりラフで、背中を押され、足を引っかけられても笛が鳴らなかったが、果敢なシュートも含め、常に危険な存在だった。
周りを生かすことで、自らも輝く。それが久保の本性だろう。その点で久保の相棒となるFWは、調和力が高いタイプが好まれる。
その意味でイサクは満点に近いFWだった。久保にはない高さやスピードというダイナミズムを武器にする一方、エゴが少ない。長身を生かしたポストワークだけでなく、サイドにも流れ、流動的な関係を作ることができた。その上で、シーズン2けた得点を見込めたのだ。
代わりに先発したアリ・チョはセカンドトップと言える選手で、イサクに似た役割はできる。事実、連係は合格点で、スピードを生かしたランニングは味方に活路を与えていた。しかし、ストライカーの気質はなく、得点のポイントに入る動きに粘りがないし、センターバックとの駆け引きで相手を消耗させることもできない。その点、後半から入ったカリカブルは、ターンからのシュートだけでもストライカーの気風を感じさせたが、イサクのような器用さは望めないのだ。
シーズンの長丁場を考えると、やはり補強が必要になる。アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)の復帰など、さまざまな候補が紙面で踊ったが、インテリジェンスがあってチームに溶け込める実務的FWが優先される。
そしてクラブは、昨シーズンまでライプツィヒからのローンで在籍していたノルウェー代表アレクサンダー・セルロートと再契約を結んでいる。昨シーズンは8得点だが、大柄で献身的、チームプレーヤーとしての評価は高かった。選手本人も、イマノル・アルグアシル監督も残留を希望し、1600万ユーロ(約22億円)という買い取り完全移籍では交渉が暗礁に乗り上げていたが、再びのローン移籍となった。
クラブはもうひとり、フリーのウルグアイ代表エディンソン・カバーニと交渉を続けていたが、合意に達しなかった。そこで、アルメリアのナイジェリア代表ウマル・サディクに切り替え、移籍期限ぎりぎりで契約内定にまで漕ぎつけている。移籍金は2000万ユーロ(約27億円)と言われ、4年契約になるという。
ともあれ、久保は3試合を経て主力として定着しつつある。クラブの強化方針は明確で、誰が来ても混乱は起きないだろう。
「久保は足が地についた。プレーに適応し、チームに加わった感がある」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の評価だ。
9月3日、第4節は本拠地に強豪アトレティコ・マドリードを迎え撃つ。昨シーズン、久保はマジョルカの選手としてアトレティコ戦連勝の立役者になった。あらためて"相性のよさ"を見せつけることができるか。