五十嵐亮太が注目する若手選手たち
パ・リーグ編


4年ぶりに勝利を挙げた楽天の藤平(左)と、開花の兆しを見せている日本ハムの清宮(右)

ソフトバンク・大関友久の投げっぷりに注目

――今シーズンに躍進を遂げている新人、若手選手について、前回のセ・リーグ編に続いて今回はパ・リーグ編をお願いします。

五十嵐 まず名前が挙がるのは、間違いなくロッテ・佐々木朗希投手でしょう(8勝3敗、防御率2.14/8月31日時点。以下同)。何しろ完全試合を達成したわけですから(笑)。佐々木は別格ですが、投手ではプロ3年目、ソフトバンクの大関友久投手もいい活躍をしていましたね。

――大関投手は6勝を挙げていましたが、左精巣の腫瘍摘出手術を行ない、現在はリハビリ中です。魅力はどんなところにありますか?

五十嵐 開幕時、「ソフトバンクの今年の先発投手はどんなメンバーなのかな?」と思って見ていたら、彼の名前があったので特に注目していたんですが、本当に投げっぷりがいいんですよ。よくも悪くも、投げっぷりで勝負するピッチャーですね。たとえば、ランナーがたまっている場面でも、チームのムードがよくない場面でも関係なく、いつも自分のピッチングができる。「何も感じていないのかな?」と感じるくらい、堂々としたピッチングができるのが強みだと思います。

――具体的にはどんなピッチャーでしょうか。

五十嵐 最大の長所は真っ直ぐの強さですね。コントロールは多少アバウトなところはあるけど、まったく物怖じせずに攻めていく姿勢を忘れない。自分の調子に関係なく思いきって腕が振れる。3年目なら、それだけでも十分に魅力的な投手ですから、早期の復帰を願いたいです。

――他にはどんな選手が印象に残っていますか?

五十嵐 ソフトバンクでは同じくプロ3年目の柳町達選手(打率.281)もいいですし、ロッテのルーキー・松川虎生選手も若手らしからぬ堂々としたプレーぶりに好感が持てます。僕個人としては、開幕前には日本ハムの北山亘基投手に期待していたんですけど、今は少し厳しい状況ですね。

――ビッグボスの新庄剛志監督から開幕投手に指名され、その後はクローザー、中継ぎとして起用されていました。ここまでは3勝5敗、12ホールド、8セーブという成績ですが、北山投手についてはどう見ていますか?

五十嵐 彼はドラフト8位入団ですが、オープン戦の頃から注目されていました。もし活躍すれば本当に快挙ですから、そういう意味でも期待していたんです。早めに相手チームに対策を練られてしまって、今は厳しい状況ですけど、来シーズン以降に期待したいです。あと、もうひとり、どうしても挙げたい投手がいるんです。

飛躍のきっかけをつかんだ6年目の右腕

――どの投手でしょうか?

五十嵐 プロ6年目なので、「注目の若手」と言っていいのかどうかわからないけど、楽天の藤平尚真投手です。期待されて、横浜高校からドラフト1位で入団したけど、なかなか結果が出ずに昨年はプロ入り初の一軍登板ナシ。背水の陣で臨んだであろう今シーズンに挙げた1勝は、すごく印象に残っています。

――8月21日に5回1/3を投げて、2018年以来の勝利投手となりました。苦労の末の勝利という点は印象的ですね。

五十嵐 もちろん、それもあるんですけど、彼は今シーズンの途中からチェンジアップを投げ始めたんです。このボールがすごくよくて、カウントを稼ぐことも決め球にすることもできるようになった。新しい球種を覚えて結果が出ると、ピッチャーは急に見える景色が変わることがあるんですよ。

――「見える景色が変わる」とはどういうことでしょうか?

五十嵐 新しい球種が「これ、使えるぞ」となると、その先に待つ希望とか喜びがすごく大きいんです。相手もこれから研究してくるから、あのチェンジアップが今後も使えるのかどうかはまだわかりません。それでも長く苦労してきた藤平投手にとっては、これから飛躍するためのきっかけになる気がします。

――五十嵐さんも現役時代、「景色が変わった瞬間」があったんですか?

五十嵐 僕の場合は、アメリカから帰ってきたあとに武器となったナックルカーブですね。このボールをマスターしたことで自分の可能性が広がりました。そういったボールは、苦しみながらも、きちんと野球に取り組んできたことを見ていてくれた"野球の神様"からの贈りものだと思うんです。それをきちんと生かせるかどうかは選手次第ですが、藤平投手もひとまず結果が出ましたから、これを機に大成してほしいですね。

プロ5年目、清宮幸太郎の今後は?

――大きな期待を背負ってプロ入りし、5年目の今シーズンですでに13本塁打。ついにその才能が開花しつつある日本ハム・清宮幸太郎選手についてはどのように見ていますか?

五十嵐 ビッグボスが監督に就任して、出場機会が増えたことが大きいですね。監督命令で体を絞ったり、三振を恐れずに積極的にバットを振ってみたりと、それまで清宮選手のなかにはなかった考え方、気づいていなかったポイントがたくさん見えてきたんじゃないかと。それによって目指すべき方向性もクリアになってきたことも、大きな前進だと思います。

――もし、五十嵐さんがマウンドで彼と対峙するとしたら、どのように攻めますか?

五十嵐 彼の場合は変化球でしょう。僕が現役だった頃もそうでしたが、落ちるボールの見極めがあまりよくない。だから、ボールになる落ちるボールを使っていくと思います。彼がこれから伸びていくためには、アウトコースの変化球、落ちるボールをいかに見極められるかが重要になりますね。

――プロ5年目を迎えていますが、ブレイクの兆しは見えていると言えそうですか?

五十嵐 今年は飛躍したと思いますが、もちろん相手バッテリーも研究してきます。多くの試合に出たことで、相手チームにも「清宮データ」はたくさん集まりましたから、来年は対応能力が問われる年になりますね。ようやく、一流打者としての第一歩を踏み出したということでもあると思います。ここから、落ちるボールにも対応できるように「ボールを長く見る」打撃フォームに改造するのか、それとも別の訓練をするのか。そこに注目したいです。

――清宮選手にとって、本当の正念場が訪れそうですね。

五十嵐 いよいよ勝負の時期がきましたね。ボールを遠くに飛ばす能力、スイングの器用さもあるし、オールスターでMVPを獲得した天性のスター性もある。首脳陣はもちろん、ファンから見ても魅力的な選手なので、期待して見守りたいと思います。

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