五十嵐亮太が注目する若手選手たち
セ・リーグ編


今年ブレイクしたヤクルトの長岡(左)と、投手に転向した中日の根尾(右)

好素材が続々と台頭したセ・リーグ投手陣

――両リーグにおいて、今シーズンに目立った新人、若手選手について伺います。まずはセ・リーグから伺いたいのですが、五十嵐さんから見て印象に残った選手はいますか?

五十嵐 新人王候補の筆頭として、最初に名前を挙げたいのは巨人の大勢投手ですね。ジャイアンツ自体はなかなか波に乗りきれないですが、大勢投手のピッチングはとてもいい。1年目でいきなりクローザーとして起用されながら、ほとんど失敗もなく30セーブ(8月31日現在。以下同)を挙げている。きちんと気持ちを作って難しい場面で結果を出す、面白い存在です。

――続けて、投手陣で印象的な選手を教えてください。

五十嵐 プロ2年目のヤクルト・木澤尚文投手もすごくいいと思います。昨年まではコントロールに難があったけれど、今年はストレートをほとんど投げずにシュートとカットボールを基本にして、短いイニングを力いっぱい投げていく。勝ち運もあって中継ぎながら8勝(6ホールド)を挙げていますし、特に前半戦で快進撃を見せたチームの、立役者のひとりと言ってもいいんじゃないですかね。

 阪神ではセットアッパーとして台頭した湯浅京己投手(35ホールド)がいいですね。僕自身も経験があるけれど、チームの勝敗がかかった試合終盤の大事な場面でも、まったく臆せずに自信のあるボールを投げ込む姿は好感が持てます。同じく阪神では、西純矢投手も印象的です。昨年、初登板・初先発・初勝利を記録して、今年は勝負の年だったけれど、課題の制球難も克服したし順調に成長していると思います。神宮ではホームランも記録しましたね(笑)。

――次から次へと名前が挙がってきますね。

五十嵐 まだ勝利はありませんが、中日の上田洸太朗投手もぜひ推したいです。育成枠からはい上がって支配下登録されたばかりとは思えないほど、彼には試合勘がありますね。

 たとえば、(8月21日の)ヤクルト戦でも村上宗隆選手に対して、結果的にはフォアボールになったけど、しっかりとインコースに投げ込むことができていました。それは、その後の村上選手との対戦も見据えての"意識づけ"で、それを理解した上できちんと投げていた姿が印象に残っています。決してボールは速くないけど、緩急の使い方が上手だから、実際のスピード以上に速く見える。若いのに見所のあるピッチャーだと思いました。

根尾昂の投手転向について思うこと

――野手陣はいかがでしょうか。

五十嵐 筆頭はヤクルトの長岡秀樹選手です。過去2年間で11試合しか出場していなかったのに、コロナでの療養期間を除いてずっとレギュラーで出場を続けています。決して打率はよくないけど思いきりがいい(打率.239、7本塁打)し、何よりも凡打の内容がいい。野手の正面に飛んでアウトになったケースでも、しっかりと捉えられています。打席での立ち方を見ていても、非凡なものを感じますよ。

――バッターボックスの立ち方で、どんなことがわかるんですか?

五十嵐 立ち位置を見てほしいんですけど、長岡選手はホームベース寄りでラインぎりぎりのところに立っているんです。かつて、真中満さんもそうだったけど、あれは、よっぽどインコースのさばき方に自信があるバッターじゃないとできないですよ。上手に腕をたたんで、ライトポール際に大きな打球を打てる点も魅力的ですね。かなり技術があると思います。

――さて、ここからはシーズン途中に正式に「投手転向」となった中日・根尾昂投手について伺います。この選択、決断についてはどう思いますか?

五十嵐 驚きましたね。これまで、「投手から野手」というケースはしばしばあったけど、「野手から投手」というのは珍しいですから。打者としては、これまでかなりチャンスをもらっていましたし、今年の中日では岡林勇希選手の台頭もあった。このあたりで「投手に専念しよう」と考えるのは悪い決断ではないと、僕は思いますね。

――現在、中継ぎ投手としての登板が続いていて、19試合に登板して防御率4.19、1ホールド。五十嵐さんは彼のピッチングをどのように見ていますか?

五十嵐 今年の春のキャンプでは、投手としての調整はしていなかったはずなのに、いきなり中継ぎで起用されてきちんとストライクが入るということに、まず驚きました。普通は、かねてから準備をしていないとなかなかストライクを投げられないものなんですが、彼は150キロを超えるストレートも投げている。やっぱり、ポテンシャルは非凡なものがありますね。

――もちろん、まだまだ課題もあるでしょうし、これからさらに伸びていくものと思われますが、根尾投手の今後についてはどう考えていますか?

五十嵐 これから、投手としての体の使い方をどんどん覚えていくでしょう。「どうすればキレのあるストレートを投げられるのか?」「変化球の精度を上げるにはどうすればいいのか?」といった、細かくて微妙な体の使い方を学んでいくと思います。そして、それは彼にとって新たな効果も生み出す可能性もあります。

――「新たな効果」とは、具体的にはどんなことですか?

五十嵐 理想的なピッチングフォーム、自分の理想の感覚を掴むことが、バッティングにも生かされるんじゃないかと。そういったことは、ピッチャーだった選手がバッターをやる時によくあることですが、根尾選手のようにバッターからピッチャーになる場合でも、同じようなことがあると思います。昔、石井弘寿さんも同じようなことがありました。

細かい微調整を重ねて「投手投げ」の確立を!

――五十嵐さんと一緒に「ロケットボーイズ」で活躍した、現東京ヤクルトスワローズ投手コーチの石井弘寿さんですね。

五十嵐 一時期、石井さんに「野手転向」の話があったんです。それで、春のキャンプでバッティング練習をしまくっていたら、逆にピッチングが急激によくなって、ピッチャーに専念することになりました。ちょっとした体の動かし方でパフォーマンスが大きく変わることもありますから、そういう意味で根尾投手は楽しみしかないでしょうね。

――現状では中継ぎ登板が続いていますが、彼の長所、短所はどんなところでしょうか?

五十嵐 長所から言うと、シンプルに「球が速いこと」でしょう。あとは「器用さ」かな? ただ、まだいわゆる「野手投げ」に近い部分もあるので、ここからの取り組み、調整が大切になってくると思います。

――「野手投げ」から本格的な「投手投げ」にするには、大がかりな修正が必要なのか、それとも微調整で済むものなのでしょうか。

五十嵐 微調整が続くと思います。ポイントは、下半身の使い方です。踏み出した左足が着地してからの粘り、リリースポイントまでもっていく体のプロセスなど、細かいポイントがたくさんある。時間がかかる可能性もあるけど、現段階であれだけのボールを投げているから、そんなに大きく変えることなく結果が出せるようになると思いますよ。

――シーズンオフの秋季キャンプ、来春のキャンプで投手としての練習を重ねていけば花開く可能性は大きいでしょうか?

五十嵐 大きいと見ています。球速も、今より3〜5キロはアップするはずです。出力が増せば、先発として起用しても面白いでしょうし、セットアッパーとしてもクローザーとしても期待できますね。

――根尾投手の場合は先発タイプなのか、中継ぎタイプなのか、五十嵐さんはどのように見ていますか?

五十嵐 まだわからないですね。ただ、最初の段階では「長く投げること」を意識したほうがいいと思います。イニングもそうだし、球数もそうだし、ストレートにしても変化球にしても、たくさん投げることで体に沁みつくものがありますから。それがあれば先発でも、中継ぎでもどちらでもいけると思うので、今は「どっちかに決めなければ」と考えることなく練習してほしいですね。

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