中井卓大が18歳でたどり着いたレアルへの登竜門。カスティージャの戦いとは何か
リーガ・エスパニョーラ3部が8月27日に開幕している。レアル・マドリードのセカンドチームに当たるカスティージャは、本拠地ディ・ステファノ・スタジアムでリネンセと対戦。終了間際に追いつかれて2−2で引き分けたが、昇格の有力候補としてポテンシャルの高さを示した。レアル・マドリード伝説の背番号7、ラウル・ゴンサレスがチームを率いて4年目になる"精鋭予備軍"だ。
レアル・マドリードに最も近い選手たちとも言える。
「カスティージャ出身選手は、王者マドリードの血を引く。どのチームでも戦えるタフさがある」
そんな定評どおり、アルバロ・モラタ、パブロ・サラビア、ラウル・デ・トマス、マルコス・アロンソ、マルコス・ジョレンテ、ディエゴ・ジョレンテ、ダニ・パレホ、セルヒオ・レギロンなど、レアル・マドリード所属以外でも、代表クラスの有力選手を数多く輩出している。
今シーズン、中井卓大(18歳)がユースから昇格し、そのカスティージャのメンバーに登録された。9歳でレアル・マドリード下部組織に入団。いよいよ登竜門にたどり着いたことになる。
開幕戦こそ招集外だったが、中井にとって、あるいは日本サッカー全体にとっても、この1年は大きな転機になりそうだ。
レアル・マドリードのユースからカスティージャに昇格した中井卓大
今年4月、スペインユース国王杯決勝戦は、中井にとってひとつの分岐点になった。
エスパニョールユースとの対戦で、中井は後半19分に途中出場している。投入された当初は1−1と試合は膠着しており、攻守のバランスを崩せず、ボランチに近いポジションだった。しかし、徐々に攻撃的なポジションをとるようになる。インサイドハーフ、トップ下に近く、積極的に攻撃に参加。FK、CKのキッカーも任され、精度の高いボールで絶好機も作っている。
特筆すべきは、攻撃に対する旺盛な自信だった。3人に前を阻まれながらも、強気でドリブルで持ち込み、左足を振り抜いている。ひとつひとつのプレーに確信が見え、失敗を恐れない。
指揮官ラウルの期待これぞレアル・マドリード伝統の「王者の資質」だ。
そして延長前半5分だった。味方が自陣からドリブルで持ち上がると、左サイドから抜け出そうとして、エリア内でボールがこぼれた。中井は目の前に転がってきた瞬間を逃さず、躊躇なく右足でボールを叩き、ゴールの上に向けて突き刺した。これが決勝点になった。
「重要な試合で勝負を決める活躍」
そこを重んじるレアル・マドリード関係者にとって、そのインパクトは大きかった。14回目となるスペインユース国王杯優勝で、チームはカップを掲げ、歓喜に沸いた。ひとつのタイトルを自分の力で手にすることができたら、その次の道が開けるのだ。
「中井のテクニックレベルの高さは、育成年代でずっと注目されてきた。17歳にしてカスティージャで親善試合に出場し、公式戦の招集メンバーにも3試合選ばれている。すでにトップチームの練習にも呼ばれた経験があって、今回のカスティージャ昇格となった」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の評価も高い。
「カスティージャの監督であるラウルは、中井の理解者と言える。ユースを率いていた時代もポテンシャルを確信し、引き上げている。2020年のユースリーグ決勝大会には、当時カテゴリーで2歳下の選手だった中井を、思いきって招集した。特に攻撃センスの高さに期待し、目をかけている」
今回のカスティージャ昇格は、「試験的で、成長を停滞させないための抜擢」とも言える。年代的にはまだユースでプレーするのが通常だ。20〜21歳の選手が中心のカスティージャで、焦りは禁物だ。
しかし、年少選手だからといって、気は抜けない。
たとえば、昨シーズンまでのエースFWファンミ・ラタサがヘタフェへ移籍した代わりに、レバークーゼンのスペイン人、17歳のFWイケル・ブラーボも獲得が内定。ブラーボはバルサの下部組織ラ・マシア育ちだが、ドイツに渡ってブンデスリーガ史上3番目に若い16歳298日でデビューし、そのポテンシャルは次世代のスペインを担うと言われる。
アンチェロッティも視察した開幕戦エリート軍団の神髄は、下剋上にあるのだ。
中井は競争のなかで、自分の力を最大限に高め、殻を破る必要がある。ラウル監督は4−2−3−1、4−3−3を併用するはずで、トップ下、インサイドハーフ、あるいはセンターハーフでポジションを争う。まずは出場時間を得て、定位置をつかめるか。
最大のライバルになりそうなのが、セルヒオ・アリーバスだ。アリーバスは、すでにトップデビューも飾っている実力者。20歳の左利きのアタッカーで、昨季も15得点7アシストとエース的活躍を見せている。今シーズンの開幕戦では10番を背負い、まさに無双感があった。
ルーキーの中井は、まずは一歩を踏み出すことが大事だろう。
カスティージャでの活躍は、少なくとも1部や2部の有力クラブでの抜擢に結びつく。実際、昨シーズンまでの主力のアントニオ・ブランコは1部カディス、マルヴィン・パルクは2部ラス・パルマスにローン移籍。タイミング次第では、トップチームからも声がかかる。
「マルコ(・アセンシオ)がチームを去ったとしても、誰かを獲得するつもりはない。必要ないからだ」
カスティージャの開幕戦を視察したレアル・マドリード指揮官カルロ・アンチェロッティの言葉である。
絶え間ない競争を刺激に、中井はどこまで化けるか。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」の言葉のように、シーズン終了後には、日本サッカー界を背負って立つ輝きを放っているかしれない。