「夏の甲子園ベストナイン」を記者3人が選出。唯一、満票一致で選ばれた選手は?
仙台育英の初優勝で幕を閉じた第104回高校野球選手権大会。今年も多くのスターが誕生し、また下関国際がセンバツ王者の大阪桐蔭を下すなど、大会は大きな盛り上がりを見せた。そこで今大会を取材した3人の記者に「ベストナイン」を選出してもらった。
甲子園では全5試合にリリーフとして登板した下関国際の仲井慎
戸田道男(編集者兼ライター)
投 手/仲井慎(下関国際)
捕 手/後藤叶翔(一関学院)
一塁手/片井海斗(二松学舎大付)
二塁手/秋元響(仙台育英)
三塁手/藤田大輝(旭川大高)
遊撃手/戸井零士(天理)
外野手/浅野翔吾(高松商)
外野手/山田陽翔(近江)
外野手/橋本航河(仙台育英)
投手は準優勝・下関国際の仲井慎。記者席のあるネット裏からではよくわからなかったが、テレビ中継のセンターからの映像で見ると、ダイナミックな投球フォームと落差の大きい変化球の迫力がより伝わる。これはかなりの好投手では......と気がついた時には大阪桐蔭、近江を倒していた。
捕手は、初戦で京都国際を倒した一関学院の後藤叶翔。パワフルな打撃で4番を務め、2回戦の明豊戦と合わせ2試合で9打数6安打。守備の印象はあまりなく、大会を代表する捕手として推すのは心もとないが、自分の郷土のチームという私的な理由も加味して選出させてもらった。
一塁手は、二松学舎大付の1年生4番の片井海斗。2回戦の社戦で左中間に本塁打。東東京大会の途中に抜擢された4番打者ながら、175センチ、97キロの体格からの長打力であっという間に打線の顔になった成長スピードが印象的。
二塁手は好守、好打を見せた仙台育英の秋元響。大会前のアンケートに書いた将来の夢が「都市対抗優勝」。社会人野球が好きという理由からしていぶし銀だ。三塁手は旭川大高の藤田大輝の打棒が印象深い。3番を打った大阪桐蔭戦で右腕・川原嗣貴からの本塁打をはじめ5打数4安打。チームは初戦で敗れたが、横綱・大阪桐蔭を相手に堂々の戦いを演じた。もっと見たい選手だった。
遊撃手の天理・戸井零士、外野手の高松商・浅野翔吾を順当に選出し、近江の山田陽翔も外野手で入れる。外野の残りひとりは仙台育英の1番打者・橋本航河。5試合中決勝を除く4試合で初回に出塁するなど、通算24打数12安打。まだ2年生。来年の夏、また深紅の大優勝旗を返しに来てほしい。
大阪桐蔭のエース・川原嗣貴から本塁打を放った旭川大高の藤田大輝
田尻賢誉氏(ライター)
投 手/香西一希(九州国際大付)
捕 手/松尾汐恩(大阪桐蔭)
一塁手/石浦暖大(近江)
二塁手/高中一樹(聖光学院)
三塁手/藤田大輝(旭川大)
遊撃手/仲井慎(下関国際)
外野手/浅野翔吾(高松商)
外野手/三好元気(聖光学院)
外野手/石川ケニー(明秀日立)
能力というよりも、個人的な好みも大きく反映させて選ばせてもらった。投手は技巧派左腕の香西一希(九州国際大付)。甲子園では140キロが当たり前になっているなか、120キロ台で打者を手玉にとる投球は弱者の参考になる。
捕手は打撃とバックアップの姿勢を買って松尾汐恩(大阪桐蔭)。強気の性格の松尾と香西のバッテリーが合うかはわからないが、どのようにしてリードするのか興味は尽きない。
一塁手はしぶとい打撃と選球眼で8打席連続出塁を記録するなど出塁率の高い石浦暖大(近江)。センバツまでは控えだったが、夏に大きく成長した点も評価ポイント。二塁手は小技あり、長打ありと何でもできる高中一樹(聖光学院)。
三塁手は「大阪桐蔭が圧勝するだろう」という大方の予想を覆す展開に持っていく本塁打を放った藤田大輝(旭川大高)を抜擢。9回二死から内野安打を放って意地を見せた。ショートは、今大会バッティングはもうひとつだったが、強肩に加え、相手のセーフティーバントにもショートからしっかりとダッシュをかける仲井慎(下関国際)。また投手としても大阪桐蔭・松尾にどんどん内角を突いていった強気な性格も二重丸だ。
外野手は文句なしの選出が大会ナンバーワンスラッガーの浅野翔吾(高松商)。近江の山田陽翔から放った本塁打は「山田投手が大橋(大翔)捕手を見ながら、笑いながら頷いていたので、もしかしたら直球で押してくるんじゃないかというのが頭にあった」とストレートを狙い打ってのもの。能力だけでなく、観察眼を備えているところも非凡。
三好元気(聖光学院)は強肩強打に加え、レフト前ヒットやレフトへの二塁打でしっかりバックアップに行く姿勢もよい。石川ケニー(明秀日立)は強打を評価しての選出。投手として140キロを投げる肩の強さもある。
最速148キロを誇る興南のエース・生盛亜勇太
菊地高弘氏(ライター)
投 手/生盛亜勇太(興南)
捕 手/片野優羽(市船橋)
一塁手/山田空暉(愛工大名電)
二塁手/高中一樹(聖光学院)
三塁手/藤田大輝(旭川大高)
遊撃手/中澤恒貴(八戸学院光星)
外野手/遠藤太胡(仙台育英)
外野手/前田一輝(鳴門)
外野手/松永陽登(日大三島)
「インパクト」をキーワードに選ばせてもらいました。この夏を思い出した時、プレー姿をありありと描ける選手。また、打者は「打球の音」を聞き比べて圧倒された選手をピックアップしました。
その意味では右打者として甲子園球場右中間スタンド最深部に放り込みながら、「少しこすった」と発言して度肝を抜いた浅野翔吾(高松商)を選ばなければおかしいのだが、この1年で浅野の常人離れしたプレーや発想に触れてきたなかで「これくらいはやるだろう」と感じていたため、あえて外させてもらいました。
投手は登板したなかでもっともストレートが速く見えた興南の生盛亜勇太。昨秋以降は故障に泣き続け、存在自体を甲子園で知ったが、ミサイルのように捕手に突き刺さる球筋は衝撃でした。大学4年間で力をつけ、ドラフト上位指名を受けてプロに進んでもらいたいです。
打者で印象に残ったのは「鳴門のラオウ」こと前田一輝。バッティングは課題だらけですが、山田陽翔(近江)から放ったライトオーバーの三塁打とシートノックで見えた猛肩にロマンを感じて選出させてもらいました。