「IoT」や「AI」、これらのキーワードは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現において、密接なつながりを持つキーワードです。そして、最近では「5G」といった無線の技術もDX実現の要素として注目を浴びています。

企業はこれらのテクノロジーを用いることで、自社のDX実現に向けて各種施策を進めていると思います。本連載では「製造業におけるデータ利活用」をテーマに、「これからのビジネスを支えていく上で必要不可欠となるIT基盤とは何か」「そのシステムに求められるポイントは何か」について紹介します。

DXを進めるための3つのステップ

「製造DX」について説明する前に、改めて、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉について、おさらいしておきましょう。日本においては、2018年に経済産業省より発行されたDX推進ガイドラインにて、次のようにDXが定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

そして、このDXの進め方の基本は、以下のステップであると一般的には知られています。

DXを進める3つのステップ 資料:経済産業省「DXレポート2中間まとめ」を参考にネットワンシステムズで作成

まず、最初の「デジタイゼーション」を工場で例えるならば、生産設備から生成されるデータをデジタル化して利用可能な状態にすることが挙げられます。そうすることで、生産設備の稼働状態の把握をオンラインかつリアルタイムで可視化することなどが可能となります。

DXを進めるための最初のステップ「デジタイゼーション」

2番目の「デジタライゼージョン」はデジタル化された情報を高度に活用することで、プロセスを効率化することを意味しています。例えば、生産工程においては、製造業務を担う生産設備のデータだけでなく、他のデジタル化されたデータを用いて高度に分析することで、生産能力を極限まで高めていく、といった具合です。下の図では、在庫のデータ、作業員のデータ、生産設備のデータという具合に、異なるデータを分析し、その結果をプロセスに反映することで、生産性向上を実現するイメージを示しています。

DXを進めるための2つ目のステップ「デジタライゼーション」

そして3番目のステップとして、いよいよ「デジタルトランスフォーメーション」(DX)が登場します。前述した1番目、2番目のステップは、部門内での個々の施策となるかもしれませんが、DXを実現するには、企業全体、または企業を超えた取り組みが求められます。

DXを進めるための最終ステップ「デジタルトランスフォーメーション」

上図を用いてDXについて説明します。例えば、左下の資材部門。この部門の業務としては、資材の調達があります。この調達業務を進めるための情報源としては、以下がありますが、これらの情報を社内で把握することが業務を進める上で必要となります。

営業部門からの最新の受注傾向

原材料の在庫状況

現在の生産状況 

さらに、どこから材料を調達していくかを決めるために、実際の調達先であるサプライヤーとも連携できる仕組みが重要となります。これらの情報の把握や調達は、今までは紙ベースで実施されていましたが、DXを推し進めることで、デジタルデータとしてリアルタイムに情報の把握、発注が実施されることになり、資材調達の最適化と省人化を実現できることになります。



DXの効果が上がらないのはなぜ?

DXの基本である、「データとデジタル技術を活用すること」について、はたして、情報システム部門だけで実現することは可能でしょうか。近年、企業においては、複数部門から人材を集めてDXのための推進部門を新設し、DX実現に向けて取り組みを加速させていますが、その効果を実感している企業は少ないようです。当社がお客様から伺った話を整理したところ、DXの効果が上がらない理由として、以下の3つの問題点にまとまりました。

データをリアルタイムで用いることができていない

部門を超えたデータ利活用には程遠い

DX実現に向けた基盤提供が迅速に行えていない

DXの効果が上がらない3つの理由

では順に、それぞれの要因について確認し、対策を説明していきます。

(1)データをリアルタイムで用いることができていない

生産現場においては、DX実現に向けた最初のステップ「デジタイゼーション」の取り組みにおいて、設備からデータを集めて「見える化」する仕組みを実現しようとします。

従来、工場における各設備から出力されるデータの取り出し方法は2パターンあります。1つ目は設備に備えられている外部出力機能を用いることです。接続したPCやUSBでデータを抜き出すことが可能です。この方法は、比較的正確なデータとして活用が可能です。もう1つの方法は、外部出力の機能を持っていない設備等のメーターやランプの状態を目視し、記録することです。記録の表に手書きをし、日次や月次などの様々なタイミングでエクセルのシートでデータ化されます。古い生産設備が多い環境では、このパターンが多いと思います。

しかし、目視で読み取る行為は、100%正確に行えているでしょうか。業務が多忙な時でも、決められたタイミングで記録を続けることはできるでしょうか。また、Excelへ手書きのデータを正しく転記することができるでしょうか。また、最終的に各担当がまとめるエクセルファイルはどのように結合されるでしょうか。

これらを踏まえて、「データをリアルタイムで用いることができていない」を解消するために、先に「良い例」を説明します。ここでは、工場の中にネットワークを構築し、そこに生産設備を安全に、セキュアに接続することで、リアルタイムなデータ蓄積を可能とします。工場にあるお悩みの一つに、古い機器など、ネットワークのポートを持たない機器なども含まれていると思いますが、これらについてもIoTコンバータなどを介することで、リアルタイムにデータとして収集することが可能となります。

データをリアルタイムで用いることができている例

では続いて、データをリアルタイムに用いることを阻害する「悪い例」を紹介します。例えば、生産設備から集めるデータを持ち運ぶため、IT担当者に隠れて、こっそりUSBメモリを用いたりしていないでしょうか。この手法では、リアルタイムにデータを活用できないだけでなく、サイバーセキュリティ上の欠陥を生み出してしまい、非常に危険です。工場では、Windows XPを含む、古いサポート切れOSで稼働する生産設備もあり、場合によっては、ウイルスが混入したUSBメモリが原因で、生産ラインに感染が広がり、生産ラインの停止に至りますので、このようなデータ収集は避けるべきです。

データをリアルタイムで用いることができていない例

(2)部門を超えたデータ利活用には程遠い

先の「悪い例」は、DXの効果が上がらない2つ目の理由「部門を超えたデータ利活用には程遠い」にも関連しています。その理由としては、個別最適と過剰なカスタマイズを繰り返したことで、ブラックボックスと化したシステムが企業内に多く存在していることが挙げられます。

現在、多くの企業は、部門個別に構築されたシステムを用いていることもあり、そこに蓄積しているデータを柔軟に用いることが困難となっているため、データ活用は思うように進まないのが現状です。

(3)実現に向けた基盤提供が迅速に行えていない

このブラックボックス化したITシステムを使うことは、システムベンダーの言いなりで延々と高い保守運用費を払い続けることを意味し、その結果、本来DXで用いたいIT投資の予算を捻出できないという二重の問題を生み出します。



さらに、これは3つ目の問題点でもある「実現に向けた基盤提供が迅速に行えていない」にもつながっているのではないでしょうか。さまざまな環境の変化に追従することが求められる中、事業を支えるIT基盤の提供スピードの遅延はビジネスの機会損失に直結します。よって、この状況の解決も、DXの取り組みを進めていく上で必要不可欠となります。

今後、DXが加速するにつれて、IT基盤上で処理するデータ量はますまず増加し続けていくため、データを蓄積して処理するためのリソースの確保も急務となります。これらも踏まえて、先ほど挙げた3つの問題点を解消できるIT基盤は、どのように実現すべきでしょうか。その解決方法については次回に説明します。

○ネットワンシステムズ株式会社 セールスエンジニアリング本部 市場戦略部 マネージャー 坂口 功

高校生の時からUNIXに触れる。大学を卒業後、外資系UNIXのコンピューターメーカーに10年間在籍したのち、2012年にネットワンシステムズへ中途入社。サーバープラットフォームの保守業務や製品開発を経て、現在は特定市場のフィールドマーケティング業務に従事。展示会やウェビナーでの講演や、各種メディアを通じて、戦略商材やサービスに関する情報発信を行っている