※この記事は2015年11月07日にBLOGOSで公開されたものです

日本芸能実演家団体協議会など、10の芸術団体が記者会見を行い、首都圏でライブやコンサートを行うことのできる会場が足りないと訴えた。(*1)

　背景には2016年以降に首都圏の大きなライブなどができる会場が、次々と改修を予定していることがある。

　様々な問題が報じられている国立競技場は、2020年の東京五輪に向けてすでに取り壊されているし、青山劇場も閉鎖された。中規模のライブが行われる渋谷公会堂は10月以降に閉鎖し、2018年度に再開を予定しているという。

　横浜アリーナや、さいたまスーパーアリーナといった大箱も数ヶ月の改修工事が行われ、代々木競技場や日本武道館も次々と改修を予定している。

　最近の音楽産業は、ライブの重要性が高まっていると言われている。インターネットの普及により、音源が様々なサイトで、著作権を無視した形で拡散されるようになった一方で、多くの人が音源を耳にすることになり、プレミアムとしてのライブの価値が高まっている。

　最近は映画館でのライブビューイングなど、収益性を高める工夫は行っているが、それができるのも本体のライブあってこそである。一時的であるとはいえ、大きなライブができる開場が減ってしまうことのダメージは計り知れない。

　今回の記者会見に対して「首都圏でできないなら地方でやってほしい」という地方のファンの声もある。

　しかし、ライブはどうしても人が物理的に動くことでしか、開催や集客ができず、収益としては主に首都圏のライブに頼らざるをえない現状がある。それは客の集まりやすさという点でもそうであるし、スタッフの交通や宿泊などの費用を考えても、東京中心にならざるを得ない。

　もちろん、地方でも熱心なファンを都心から集めるようなことができるビッグアーティストなら話は別だが、その他の中堅どころのアーティストや、声優主体のアニメやゲームのライブにとっては、首都圏がダメなら地方でと単純に切り替えるのも難しいであろう。

　さて、この話を聞いて、僕が最初に思い浮かんだのが、各地のトンネルの老朽化問題である。2012年に中央自動車道の笹子トンネルの天板落下事故を皮切りに、多くのトンネルの老朽化が報じられるようになった。

　高度経済成長時代に一気に作られたトンネルが老朽化し、補修などに多くの費用が必要になっている。それは同じ建築物であるライブ開場も同じで、やはり経済が好調な時期に作られた建物が、こちらの景気などという事情に関係なく、徐々に劣化していっているというごく当たり前の現実がつきつけられている。

　それによって、芸能業界ではライブが重要になっているにかかわらず、ハード面がそれを支えることができないという残念な状況が生まれている。

　実は、このニュースを聞く前に、僕が今週の記事として考えていたのは、JR東日本が「歩きスマホを辞めましょうキャンペーン」を始めたというニュースであった。(*2)

　これについても、論旨としては、輸送の混雑は相互乗り入れを始めとした列車の運行上の工夫で解消することができるようになったが、駅の狭いホームという物理的な課題は、なかなか抜本的な解決をすることができず、乗客に対して道徳論を説くことでしか解決できないキツさということを書こうと考えていた。

　これもやはり「ハード」の問題である。土地や建物といったハードは容易に更新できず、時代の変化になかなかついていくことができない。特に保守管理の部分は景気に左右されがちで、今なお続く、長い期間の不況を経験し続ける日本社会にとって、ハードの更新は喫緊の課題である。

　今回、ライブ開場の改修問題ということが出たことを踏まえ、これを単純にライブだけの問題として考えるのではなく、これまで続いた、かつての経済成長時代の延長としての日本の終焉が迫る中で、これからの社会に合わせた日本の形に適切に変更していくためには、どのような形でのハードの更新や改修が必要かということを考える、よい契機としていきたい。

*1：ライブ会場が足りない　「２０１６年問題」歌手ら訴え（朝日新聞デジタル）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151105-00000067-asahi-musi
*2：＜歩きスマホ＞「やめましょう」…ＪＲ東がキャンペーン （毎日新聞） - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151102-00000086-mai-soci