※この記事は2015年10月30日にBLOGOSで公開されたものです

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クライブ・オーウェン、モーガン・フリーマンら豪華キャストを配した紀里谷和明氏のハリウッド進出第一作『ラスト・ナイツ』が11月14日（土）から公開される。

西洋的な架空の国家を舞台に、騎士たちを描いた作品だが、根底に流れるのは明らかに日本的な『忠臣蔵』の物語だろう。忠義や自己犠牲の精神を、日本の"時代劇"としてではなく、西洋的な雰囲気の中に織り込むという伝え方がとてもユニークだと感じると同時に、海外の観客たちがどう受け止めるだろうか、とても気になった。

紀里谷監督に狙いを尋ねると、「その点を評価していただく方も多いが、たまたま巡りあった脚本が"忠臣蔵"をベースにした物語だっただけ。自分は粛々と、フラットに映画作りをしているつもりです。ただ日本人として見てきたものがそこに織り込まれていくだけ」と語り、「どんな映画も、当たり前のことを当たり前に言っているだけだと思う。この作品では、"筋を通す"というシンプルなもの」と、あくまで自然体で臨んでいることが伺えた。

10代半ばで渡米、海外で生活してきたこともあり、テレビ番組で日本のエンターテインメント業界に対する辛口コメントを連発、話題を呼んだ。編集部では、そんな紀里谷監督に日本社会への熱いメッセージを聞いてきた。

「楽しみ」ではなく「喜び」を感じろ

ー昨晩は仙台でプロモーションのための名刺配りをなさったあと東京に戻られて、今日は朝からこのインタビューを受けていらっしゃいます。かなり大変ですよね。

いや、「大変」じゃないんですよ。今、全国各地で1000枚ずつ名刺とチラシを配るキャンペーンをやっているんですが、みんな「監督自らやるんですか！大変ですね」とびっくりするんですよね。でも、なんでそんな風に思うのか、逆にこっちがびっくりしちゃうんです。

そりゃ大変ですよ。配ってて無視されたらやっぱり傷付くし、嫌ですよ。昨日も高校生に「いや、俺いいっす」って断られて（笑）。

でも、作品を見てもらうために自分で思いついたことだから一生懸命やっているだけの話です。それを「凄いですね。普通、監督がそんなことやんないですよ」って言うのは、要するにその人は「俺はそんなことやらない」と言ってるようなものなんです。

目の前のことに情熱を持って、率先して取り組むというのが、本来の仕事に対する向き合い方だと思います。それに対して「熱いですね」とか「意識高いですね」といった論調が出てきちゃうのは、多くの人に「喜び」が足りていないからだと思います。「楽しい」ことに一生懸命で、「喜び」の経験があまりにも少ないように思います。カラオケも遊園地に行くのも「楽しい」だけのことで、お金を払えばできることです。でもそうじゃなくて、お金では買えないのが「喜び」だと思うんです。

「たまたま親にお金もらって遊園地に行きました。あー楽しかったね。」というのと、遊園地に行きたい子が一生懸命バイトして、旅費・宿泊代込みでお金を貯めてやっとの思いで行くのとは違う。後者には「喜び」があるわけじゃないですか。

この「喜び」というのは、何かに没頭して、全てを注ぎ込んで初めて得られるものだと思うんです。

多くの人が「労働」というものに対して非常にネガティブな見方をしている気がします。でも、この「喜び」を味わうと、労働に対する見え方も違ってくると思うんです。

もちろん、「喜び」を得るためには代償が伴う。どんな仕事だって苦しいと思います。クリエイティブも、苦しいことしかない。作業が終わって、誰かに観てもらえてはじめて「喜び」になります。

「映画は自分の子どもだ」といつも言うんですけど、親はみんな、生まれてくる前は「男の子が良いよね」とか「こういう大人になってほしい」「こういう職業に就いてほしい」って思うでしょう。でも、いざ生まれる時になると、お母さんはものすごい苦しみと痛みを味わう。その時には、そんなことは吹っ飛ぶと思うんです。ただただ、「生まれてきてくれて、ありがとう」だと思うんです。

最初から最後まで必死に映画を作る、ただそれだけなんです。無駄なところも至らないところもたくさんあるかもしれないけれど、自分の子どもなので、「見どころは？」って聞かれても、一言では言えない。「その子のどこが好きですか？」って聞かれて、「左足が好きです」とか「口が好きです」なんて言う人はいない。どんな顔・形でも、どんなやんちゃな子でも「全てが好きだ」と言うはずなんです。そんな感じですね。

ーだから当然、作品を観てもらうためには自ら何でもすると。

はい。何でもします。企業だって、プロジェクトもそのくらい大事だと思えるようにしなきゃいけないと思います。別に家なんか帰れなくたってって思えるくらいになったりする。すると「ブラック企業だ」って言われるから、「帰ってください」って言わなきゃいけないんですが（笑）。企業もこの「楽しみ」と「喜び」が混同している気がします。
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"既得権益"について思うこと

ーこれまでも日本の映画界について感じた事をお話されてきていますが、作り手として、映画製作の上で海外との違いをどのようなところに感じますか？

僕がとにかく嫌だなと思うのは"既得権益"なんです。それは映画会社がということではなく、作り手として、「自分は何年やっているから」という事を前に出して、限られたコミュニティなのに、そこにいることに満足して、外から来ようとする人を拒絶する。新たな可能性を無くしてしまっている気がします。

大体、「◯◯先生」って呼ばれ出すと、衰退が始まっていると言わざるを得ない。「ああ、この人、ダメなんだ」と僕は思ってしまいます。

アメリカで仕事をしていると、どんなに一流のスタッフでも非常に前のめり。なぜなら、できない奴と見なされると、すぐクビになってしまいますから。助監督はもちろん、監督ですらそうです。どんどん提案をしたり、工夫していかないと、次から呼ばれないんです。代わりもすぐに見つかるくらい人材が豊富だし、才能があれば外の人間でもどんどん入れていく。違う業種であろうと、国籍がどこであろうと関係ない。そういう感覚だから、みんな仕事を得るためにすごく貪欲。

IT業界だってそうじゃないですか。ものすごく回転が早いし、少しでも油断すると、すぐに足元をすくわれちゃいますよね。映画業界だって、全く観たことが無いような作品を出し続けない限り、観てくれなくなってしまいます。チャレンジングな作品は、ハリウッドじゃないからできない、予算がないからできないではなく、頑張って、頭使って作りあげたのが、2004年の『CASSHERN』だったわけです。

ーHulu、Netflix、Amazonなどが独自に映像コンテンツの制作を始めることが話題になっています。これまでプラットフォームだったIT企業がどんどん参入していることについてどうご覧になっていますか。

ソフトバンクの孫正義さんの後継者が決まったとき、「外国人？」「そんなに金払うの？」ってみんな言ってましたよね。「そんなの世界では当たり前。世襲制ではないから。」って思います。それも"既得権益"ですよね。「日本人」「日本語」という"既得権益"なんですよ。「邦画」というジャンルも、それに守られて存在しているに過ぎないと思います。

何を撮っているのか。何を作っているのかを蔑ろにしたまま、システムだけで食べようとする"既得権益"がある。「私はカメラマンだから」「私はミュージシャンだから」「私は映画業界だから」…と、ブラックボックスの中で油断していたから、デジタルの普及と共に破壊されてしまった。

今までのようにクリエイターが活躍できる場は少なくなっていくでしょう。どんどん食えなくなっていく。僕がいたカメラマン業界もすでに悲惨な状況だし、グラフィックデザイナーもウェブデザイナーも、ミュージシャンもそう。だから映画業界もそうなっていくでしょう。それはしょうがない。しかし、本当に素晴らしいコンテンツさえ作れば全然生き残れると思うんです。やっていける人はやっていけるし、売れる人は売れる。クリエイター業界が格差社会になるのも自然なことだと思います。

ー「それは海外生活をしていらっしゃったから、そういうことが見えてくるんじゃないですか」と言われませんか？

皆さんそういう風におっしゃるんですが、普通のこと、当然のことだと思うんです。例えば企業で、何億もお金注ぎ込んだのに結果を生み出さないとなったら、海外行ったことあるなしにかかわらず、何やってんの？ってことになりますよね。僕の地元の熊本の会社でだってそうなります。「日本から出たこと無いから」っていう理由でそんなこと言ってたら、なんでも言い訳できちゃいますよね。 

「クール・ジャパン」のシステムについて

ー日本人はチャレンジしない、リスクを取らない、という話がありますね。

雜誌を読んでても、みなさんが「イノベーションが必要だ」「リスクを取らなければいけない」とおっしゃる。しかし、なんで実現できないのか？これは全ての業界に言えることだと思いますが、海外では新しいものを次から次と取り入れて使っていかないと取り残される。使っていかないといけない。なのに、日本のおじさん達は、新しいテクノロジーが出てきても「俺、スマホわかんねーからさ～」とか言えば、それで済まされちゃうことがあると思います。その時点で大丈夫なのかなって思っちゃうんです。

でも、高度経済成長期の日本。本田宗一郎さん、盛田昭夫さん、井深大さんたちは、そうじゃなかったと思います。とてもアグレッシブに、イノベーション起こしてましたよね。

ーそれで「ハードじゃない、これからはソフトだ」という議論がありますね。

クリエイティブにお金を投資すれば新しいクリエイティブが生まれる、というのは大間違いだと思います。お金じゃないです。クリエイティブに何が必要かと言われれば、"自由"ですよ。どう自由でいられるか、企業がどう自由を許すのか、ということだと思います。しかしながら、今の風潮で行くと難しい気がします。

ー「クール・ジャパン」（政策、システム）でコンテンツを輸出、というお話もあります。

「クール・ジャパン」関連で、実際の成功した具体例を知りたいです。どれだけの予算を費やしているのか。

本来だったら『ラスト・ナイツ』も「クール・ジャパン」で支援されるべきコンテンツだと思うんです。なんとかサポートしてもらおうとしたけど、制度が複雑過ぎて先に進みませんでした。「どこどこの車を使って、それがその会社のアジア戦略に合致するのであれば、良いかもしれません」くらいの話でした。つまり、プロダクト・プレイスメントなんですよね。クリエイティブ向けではなくて企業の方を見ていて、結局コンテンツにはお金を出さないんです。そんなところに税金が使われて、潤っている人がいて…。

ーありがとうございました。

インタビューを終えた紀里谷監督は、「なるべくそのまま書いてくれると有り難いね。でも、こんな話で良かったの？俺、こういうことばっかり言うからダメなんだ」と笑顔で語っていた。

プロフィール （きりや かずあき）1968年、熊本県生まれ。15歳の時に単身渡米し、マサチューセッツ州にある全米有数のアートスクールでデザイン、音楽、絵画、写真などを学び、パーソンズ美術大学では建築を学んだ。ニューヨーク在住時の1990年半ばに写真家として活動を開始。その後、数多くのミュージック・ビデオを制作し、才気あふれる映像クリエイターとして脚光を浴びる一方、CM、広告、雜誌のアートディレクションも手がけ、最近では三代目 J Soul BrothersのPVが話題に。2004年には、斬新なヴィジュアル感覚で実写映画化したSFアクション『CASSHERN』で映画監督デビュー。続いて時代劇の枠に収まらない奇想天外なアドベンチャー活劇『GOEMON』（09）を発表、監督第３作『ラスト・ナイツ』でハリウッド・デビューを果たした。

・映画『ラストナイツ』公式サイト
・KAZUAKI KIRIYA-紀里谷和明オフィシャルサイト-