プラグイン・ハイブリッド車（PHV）開発のルーツと50年目の現在地 - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2015年10月08日にBLOGOSで公開されたものです
かつては政府関連機関である産業技術総合研究所に在籍し、現在では早稲田大学環境総合研究センターの招聘研究員として活動する清水健一氏。約50年間に渡り自動車の動力源やエネルギー、それらを取り巻く環境問題について研究を重ねてきた清水氏に、PHVやEVの生い立ちや社会的役割について訊いた。自動車の電動化への取り組みは、実は約半世紀前から行なわれていた！
“ガソリンエンジン車以外の選択肢”として今や当たり前の存在になっているPHVやEVだが、その開発はいつから始まったのだろうか？
『19世紀末にガソリン車よりやや早く誕生したEVは、ガソリンエンジン車のスターターモーターの開発を機に表舞台から姿を消しましたが、自動車の大量普及によって公害対策や省エネルギーを目的に電動車の普及を図る動きが20世紀後半から始まりました。
その大きな波はふたつあって、ひとつめの波は、1970年の米国・大気浄化法（通称・マスキー法）に端を発する排ガス問題対策。日本のある自動車メーカーがこの排ガス規制をクリアしたマスキー法合格第1号のCVCCエンジンを発表し世界的に注目を集め、低公害車に対する関心が一気に高まりました。
その後、通商産業省（当時）主導のもと電気自動車大型プロジェクト（通称・EV大プロ）が実施され、国レベルでEVの開発が進められたんです。ここでEVとして一から開発されたEVの性能は、1990年代まで記録が更新されなかったほど世界的に見てもレベルが高いもので、この普及のため日本電動車両協会が設立され、標準化活動や購入時の補助金助成などが始まりました。ところが、いざ市販されたEVはガソリン車の改造EVで、この性能が非力だったため、その波は次第に終息していったのです。
これ以降、日本ではあまりEVの研究が行なわれなかったのですが、90年代後半に米国・カリフォルニア州のゼロエミッション法（通称・ZEV法：排ガス公害対策として、排ガスの発生しない車両の一定比率での販売を義務付けたもの）への対応を目的として、国内メーカー3社（トヨタ、日産、ホンダ）がEVの開発及び販売を行ないました。これがふたつめの波ですね。ちなみに、この時のEVは、モーターが直流機から交流機（永久磁石式同期機） に、電池が鉛酸電池からニッケル水素電池やリチウムイオン電池に替わり、電池管理システムが導入されました。つまり、今のEVの基礎ができた時期と言えます。ただ、当時の電池が高額だったことや、ZEV規制の基準が厳し過ぎたことなどから、ZEV規制の後退とともにまたしてもEVは消えていきました。
一方で、EV大プロ後に盛んになったハイブリッド車の開発は、急速充放電に適した電池を搭載した初代プリウス（97年）や初代インサイト（99年）の登場によって、この頃実を結びました。現在は、自動車の電動化の普及の三つめの波に相当し、これまでのEVやハイブリッド車から技術的なフィードバックを得た新たな選択肢として、また脱石油化を図る一次エネルギーの多様化という観点から、PHVが注目されているわけです』
市販化されていることこそがプリウスPHVがプリウスを超えた証
長期間の研究開発で得た自動車の電動化のノウハウが多くあったにも関わらず、ハイブリッド車の登場を待って、PHVが登場したのには、何か理由があるのだろうか。
『そこはやはり電池の問題が大きいと思います。ハイブリッド車の電池は加速時のモーターでのアシストと制動時のエネルギー回生に使用され、充放電量はこの大きさが目処になるので、電池の搭載量が少なくて済むうえ、エンジンで発電することもあって電池の残存容量は50%付近を上下する電池寿命の面で有利な制御が行えます。なので、ハイブリッドであれば自動車自体の寿命分ぐらいは電池の性能を保証することも可能で、現に今そのレベルまできていますね。
かたや、EVは電池のエネルギーだけで走行するので、たくさんの電池が必要な上、100%に充電した電池をかなり低い残存容量まで走行に使用し、再度100％まで充電することを繰り返すという容量変化幅の大きな使用法となっています。この方法は電池寿命の点で不利である傾向がありますので、ユーザーのさまざまな使い方によっても、寿命を含む性能が充分確保できるか否かが市販時の課題となります。
PHVも電池のエネルギーを消費して走行するので電池は同じ不利を抱える可能性があります。ただ、PHVが市販化されたということは、それらの課題をクリアしたうえでハイブリッド車以上の性能を発揮することが可能になったという証ですし、発売開始からこの3年の間に膨大なデータを得られているはずですから、電池の改善も含めこれからもさらに進化し続けていくと思います。従来、カタログには無縁であったエアコン使用時の燃費を改善するため、ハイブリッドシステムの制御手順を改善して実用時の効率を改善する研究例などは、進化の良い例でしょう。
余談ですが、我々日本のユーザーはカタログ値を重視する傾向があるとも思います。なので、メーカー側も定められた状態での性能であるカタログ値を少しでも向上させるのにかなりの努力をします。特に電池に関してはこの傾向が強く、高性能を探求するあまり、量産効果が出てくる機会を逃がしているように見えます。
一方、アメリカや中国などでは日本製よりカタログスペックは劣るものの、比較的タフで安価な電池というのが広く流通していています。つまり、実用しながらのトライ＆エラーで使い方のノウハウや問題点の洗い出しが早くできてしまうので、どんどんレベルが上がるのです。日本では、優れたガソリン車があるので航続距離や充電作業で不便や苦労を増やしてまで買う必要がないという考え方が一般的で、トライ＆エラーがなかなか成り立たない。それではより良い電池も開発されないですし、いつまで経っても大量普及もしないというジレンマがありますね』
＜後編に続く＞
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