野党再編、選挙協力は2016年参院選に間に合うのか - 西田亮介 - BLOGOS編集部
※この記事は2015年10月05日にBLOGOSで公開されたものです
安倍総裁の無投票再選に終わった自民党総裁選を経て、政局の次の関心の中心に移りつつある。とはいうものの、直近の政治日程のなかに、他にめぼしいトピックが見当たらなくなったから、消極的に野党に焦点があたっているともいえる。関心の中心は、大別すると2つである。ひとつは民主党を中心にしたものである。維新の党、共産党を含む野党の選挙協力、場合によっては野党再編がありうるか否かということである。
もう一つは、維新の党と、維新の党の創設者でありながら同党を飛び出した橋下徹大阪市長らの関係であろう。こちらは新たに大阪に「おおさか維新」を立ち上げ、さらに古巣の維新の党を舌鋒鋭く、しかも名指しで批判するなど、話題に事欠かない。批判された維新の人たちも当然反論し、盛り上がりを見せている。ただし、背後には政党交付金をどう処理するかという古典的な政治とカネの問題が横たわっている。
問題は、双方になんら展望が見えてこないことである。前者においては、政策的主張が、現政権に対峙するというものしか見えてこないことが主たる問題であろう。反安倍内閣の掛け声こそ勇ましいが、具体的に何を政策の柱にするのかということ自体が検討中ということだが、果たして、良かれ悪しかれ保守色で結束を強める安倍自民党に対峙できるのだろうか。
野党内／間での結束理念も見えず、体外的な主張や政策もまちまちだとすれば、現在の野党第一党の民主党の輪郭をそのまま広げたようなものである。有権者の信頼や共感を得られるのだろうか。
民主党に関しては、最近興味深いインタビューが公開された。
民主党復活のカギは国会でどういう戦いをするか作家の塩田潮氏による、民主党副代表で、元防衛大臣を務めた北澤俊美氏へのインタビューである。なかでも2つの注目すべき点がある。一つ目が、民主党自身の党勢に関する自己分析で、もう一つは民主党に対する有権者の「誤解」を問う姿勢である。
http://president.jp/articles/-/16329
民主党の党勢の低迷を指摘する塩田氏に対して、北澤氏は以下のように答えている。
今はメリハリをつけて安保、雇用や労働法制で安倍政権と対決する。支持率は簡単には上がらなくても、選挙になれば、どっちに投票するかという話になり、無党派の人たちは必ず応援してくれます。2009年に政権を取る前も、1993～94年に政権を担った後、野党に転落し、立ち直ってきたとき、支持率の何倍もの得票が出ました。この認識は、どの世界でも良いが「デビュー前の期待の大型新人」と「デビュー後の、活躍しそこねた、かつての大型新人」を混同している。
業界関係者は、まだ打席に立ったことがない「デビュー前の期待の大型新人」に対して、過剰な期待を寄せる。むろん政治の世界も例外ではない。活躍できれば、その期待は信頼に変わるが、もし期待に応えられなければ、期待は失望へと転換し、より厳しい戦いが求められる。
作家の比喩でいえば、売れなければ市場評価をもとに、印税などでより厳しい条件で次の本を出さなければならないし、企画が通りにくくなり、次の作品を世に問うことが難しくなる。野球ならば、ファームで、注目されないなかでトレーニングを積みながら、実績をあげ、かつ一軍選手が疲れてくるのを待たなければならない。
現在の民主党はどうか。2009年の政権交代以前は、「デビュー前の期待の大型新人」だった。だが、現在は違う。「デビュー後の、活躍しそこねた、かつての大型新人」である。フリーハンドで政権運営に取り組むことができた期間が短かったことや、未曾有の東日本大震災などの民主党にとっての不運もあった。それでも、やはり一般には活躍しそこねたという評価が一般的ではないか。どうもそのあたりの自己分析がなされていないように感じる。
そうだとすれば、単に自民党が失策するだけで、有権者が自ずと民主党を選択するということにはならない。安保法制をめぐる一連の過程を経ても、民主党の支持率が顕著に向上していないことからも自明だと思えるのだが、どうか。
鍵は2000年代前半にあるのではないか。当時の政策を取り戻すということではない。今ではすっかり影が薄くなったが、当時の民主党は、マニフェストそれ自体の普及に務めていた。年金問題などで政策論争を展開し、広報戦略と戦術の革新にも務めていた。鳩山内閣後は棚上げしてしまったが、当時ネット選挙の解禁を声高に主張していたのは民主党だった。こうした姿勢を再評価、再検討することが、本質的な再生の端緒となるのではないか。
今の民主党は主張する政策の軸が見えない。安法法制についても、かなり強硬に護憲を主張していた。しかし、そもそも民主党は憲法問題についてどのような態度なのか、理解している有権者がどれだけいるだろうか。
民主党は、かつて「創憲」という言葉を用いていた。鳩山元総理も現役時代に憲法試案を提案している。http://www.hatoyama.gr.jp/tentative_plan/
2013年参院選のマニフェストでも、「未来志向の憲法を構想する」という項目を設け、以下のように記している。
基本姿勢2014年衆院選マニフェストではトーンダウンしつつも、それでも、「憲法対話」を進めると記している（下記、強調部引用者による）。
●現行憲法の「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」という基本理念及び象徴天皇制など日本社会に定着し、国民の確信にしっかりと支えられている諸原則は、これを尊重、堅持します。
●その上で、民主党は、現行憲法の基本理念を具現化し、真の立憲主義を確立するべく、国民とともに「憲法対話」を進め、補うべき点、改めるべき点への議論を深め、未来志向の憲法を構想します。
憲法民主党と自民党で、それほどに異なった主張をしているだろうか。そうでありながら、若年世代をシンボルにした護憲運動への注目に相乗りするかたちで、反安倍内閣の姿勢だけを強調し、野党共闘を強調してみたところで、そもそもの民主党自身のプリンシプルは明らかにならない。これは何も憲法問題に限らない。経済問題についてもほぼおなじことがいえる。アベノミクスの失敗を指摘するのは良いが、では民主党はどうするのだろうか。金融緩和には否定的なのか、それとも肯定的なのか、やはりよくわからない。
●国民主権・基本的人権・平和主義を守ります。
●憲法解釈を恣意的に歪めたり、改正の中身を問うこともなく、改正手続きの要件緩和を先行させることには、立憲主義の本 旨に照らして反対です。
●国民の皆さんと「憲法対話」を進め、補うべき点、改めるべき点への議論を深め、未来志向の憲法を構想します。
●国民投票法の改正を受け、選挙権年齢の18歳への引下げなど、必要な法制上の措置を講じます。
先の北澤氏のインタビューのもう一つの気になった点でもあるのだが、自らのプリンシプルを明確にしない状態で、有権者の民主党に対する「誤解」を強調する傾向も気になる。「自分たちは正しいことをしているのだが、有権者は理解していない」とでもいうべき態度である。以下の様な記述である。
【塩田】政権担当時代、民主党は経済に疎く、国民生活に有効な経済政策を機動的に打ち出すことができず、「経済無策」だったと受け止めている国民が今も多いようです。高校無償化など確かに重要な政策であったが、これらは一般的な意味での経済政策ではなく塩田氏の質問に答えていない。そもそも、これでは、有権者は「もう一度民主党にまかせてみたい」という気持ちにならないのではないか。
【北澤】それは勘違いで、われわれは授業料無償化、地方に対する一括交付金など、国民に投資をすることを基本にした。その結果、国民の生活が安定し、経済のエンジンである個人消費が伸びれば、エンジンが回転していくという政策でした。
かつての名官房長官故・後藤田正晴氏の回顧録のタイトルを「情と理」という。政治の妙をうまく表現しているのではないか。民主党は、自民党とは別の路線で、有権者に再び「情と理」を訴えかけていけるかが問われているのではないか。野党第1党の民主党は野党共闘、野党再編をリードするほかないが、それは付け焼き刃なものではないことを期待したい。
民主党について、つい長く書いてしまったが、もう一つの維新の党と「おおさか維新」はどうか。こちらは前者が野党再編を、後者が安倍内閣と是々非々の関係を築きつつ、近い距離を取ろうとすることの差異が目立つ。政策的な志向はよく似ている。ほとんど差異がないといってもよいのではないか。ただ、首都圏の維新系の人たちと話してみると、支援しつつも大阪の問題をどこか他人事のように見なしていた節は否定できない。
しかし厳しいのは一部の議員を除くと、前者は必ずしも選挙に強くなく、また当選回数も浅い議員が少なくないことであろう。後者は選挙には強いが、ときに派手な動乱で人々の耳目を集め、またそのメディアパワーをも権力の源泉にしている点である。前者は潜在的に選挙の顔となるシンボルやリーダーを後者に希求するが、後者は不安定な闘争こそを欲するという相容れなさを抱えている。おそらくは相容れないだろう。維新の党組が煮え湯を飲み手打ちをするか、穏健保守勢力としてやはり民主党の穏健勢力と共闘するほかないのではないか。
そしてここまで長々と述べてきたような野党の構図が皮肉なのは、こうした状況それ自体が安倍自民党を利するようにも見えるからである。まさに漁夫の利である。安倍自民党からすればこのまま野党がごちゃごちゃしたまま、どの勢力も決定的な自公勢力との競争力を持たないまま、2016年の参院選の時期が来ることが望ましいことは明白である。
もしおおさか維新が躍進するなら、現在連立を組む公明党に対する牽制にもなる。昨今ではいろいろと批判はされているが、それでも公明党は憲法改正や社会保障政策などで重要な役割を担ってきたことはいうまでもない。よく知られるように、改憲は自民党のアイデンティティでもある。参院選でのおおさか維新の勢力如何では、新しい連立や協力関係もありうるだろう。そのような観測気球もあがっている。そのとき、公明党はどのような判断を下すのだろうか。
参議院議員の任期は6年と長い。2016年の参院選で野党の大敗は、安倍自民党以外の政治的選択肢を一掃してしまいかねない。これは現実的な二大政党制と政権交代を通じて、政治的緊張感と政策の切磋琢磨を生み出そうという小選挙区制の理念とは反するものであろう。
東京五輪後の日本社会はダウントレンドが不可避である。その政治的舵取りが困難なものになることは明白だが、その時期に、まったく政権運営経験がない政治勢力がその地位に就くことができる（と有権者は判断する）だろうか。ちょっと難しいような気がする。
そう考えてみると、再び日本政治は自民党一色になってしまうような気がしなくもない。だが、それは果たして、本当に望ましい日本政治の姿なのだろうか。そのような気もするという諦念は、結局良かれ悪しかれ自民党が政治を担ってきたという歴史的事実を踏襲するなら現実的にも思えてくるが、いや、別様の姿もありうるのではないかという期待も少しはしてみたい。
筆者も明確な答えはもたない。だが、せめて、果たして効果的な野党再編、選挙協力は2016年参院選に間に合うのか、と問うてみることくらいはできるだろう。もし自公との競争力を得なかった場合は、物言えば唇寒し、という気がする。よほどの不祥事でもない限り、かなり長い間、日本の現在の政治体制は継続するのではないか。
■プロフィール
（にしだ・りょうすけ）東京工業大学准教授。博士（政策・メディア）。専門は情報社会と公共政策。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。 同助教（有期・研究奨励Ⅱ）、（独）中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授等を経て現職。
