※この記事は2015年09月11日にBLOGOSで公開されたものです

経済アナリストの森永卓郎氏（撮影：田中丸善治）
東京大学出身の経済アナリスト・コメンテーターとしてTVなどでも活躍する森永卓郎氏。実は食玩やミニカーなどのコレクターとしての一面を持ち、自身が50年間で集めてきたグッズの数はなんと10万点!! そのうち3万台はミニカーというから驚きだ。お金の“プロ”であり、物に対して強いこだわりを持つコレクターでもある森永氏、言わば最強の一般消費者である彼の目に、プリウスPHVはどのように映るのだろうか。

ハイブリッド車の優秀さは常日頃から実感


初代のデビューから現在の3代目にいたるまで、爆発的に売れてきたプリウス。そんな現象をエコノミストとして森永氏は予測していたのだろうか？

『環境性能やランニングコスト面など総合的に見てハイブリッド車が、クルマとして非常に優れているということは早い段階からわかっていましたからね。ただ、初代プリウスはトータルコストを見ると必ずしも効率的ではなく、むしろあのころ乗っていた人は時代を先取っている人（アーリーアダプター）だった。それが、代を重ねるごとにとてつもない進化をしていって、もはや同じプリウスではないですよね。

その一番の証拠に、タクシーで使うところが劇的に増えたじゃないですか。タクシー会社というのは商売なので、コストパフォーマンスがよくないクルマは絶対に入れない。イニシャルコストが一般的なガソリン車より高いことを鑑みても、ランニングで十分元が取れる、むしろ安くなるというステージに入ったということなんだと思います。

ちなみに実は私、今はアクアに乗ってるんです（笑）。プリウスでも良かったのですが、自宅の駐車場の大きさを考えるとどうしてもアクアじゃなきゃダメでした。で、その前はカローラ・フィールダーに乗っていたんです。燃費性能を比べてみると、私の実体験としても、やはりハイブリッド車は優れていると思います。』

今最も経済性と実用性のバランスがいいクルマはプリウスPHV


プリウスがデビューから約20年、プリウスPHVのデビューが2011年なので現在で約4年が経過したことになるが、プリウスPHVにはプリウスに匹敵する市場的な可能性はあるのだろうか。

『今の技術体系で最も効率的なのがプラグイン・ハイブリッド車だと思いますよ。確かにランニングコストだけのことを考えたら電気自動車（EV）が一番だと思います。条件によって度合いは異なりますが、一般的なガソリン車と比べると、押し並べて5分の1、場合によっては10分の1のコストで走ることもできるかもしれません。ただ、EVの課題というのが皆さんもご存知の通り、1回の充電で走れる距離がガソリン車やハイブリッド車と比べて短いこと。今のEVは航続可能距離がカタログベースで約200kmのものが多い。これでは遠出するには少し心許ないです。

もちろん途中で充電すればいい話なのですが、今のEVは近距離の移動を主とするシティコミューターとしての役割が中心だと思います。なので、理想を言えばEVとハイブリッド車の二台をガレージに並べるのが一番効率的だと思いますが、私含めて一般の消費者はなかなかそうもいかない。そこに現れたのがこのプラグイン・ハイブリッド車ですよ。

プリウスPHVはまさにその二台のいいとこどり。もちろん使い方は人それぞれありますが、普段はEVモード(※1)で走行し、いざという時にハイブリッド車として遠出もできて、なおかつ外出先で充電もできる、というシステムは経済性と実用性の観点からみて現時点で一番優れているパワートレインだと思います。プリウスPHVが出る以前から、理屈としては多くの人がわかっていたことなんですが、いざ市販化となると電池価格の問題等もあり、非常に生産コストがかかる。そこが大問題だったんですが、プリウスより高いにせよ、現実的に買える価格に収まっていることはすごいと思います。

ちなみに、様々な自動車メディアやジャーナリストの方が、「もうすぐ大容量かつコンパクトで、500km、600km走れる電池が発明される」なんて話をするんですが、私は懐疑的ですね。何故かというと、日本で市販化EVが本格的に開発されはじめたのが1970年代のことだったと思いますが、もう50年前から航続距離の問題が言われてます。にもかかわらず、いまだに既存の電池の枠を超える技術開発の話を聞いたことがない。

もしかすると、青色発光ダイオードのような天才的な発明がなされる可能性はゼロではないでしょうが、少なくともあと何十年かは難しいように思われます。つまり、現実問題として考えられる最も効率的なクルマというのが今はプラグイン・ハイブリッド車だと思います。プリウスに使われているニッケル水素電池に比べ、プリウスPHVが採用しているリチウムイオン電池は、コストはかかる一方、軽量かつ小型ながら大容量の電気をためることができ、さらに自己放電による容量低下が少ないなど、バッテリーとしての性能は格段に上です。大容量リチウムイオン電池を積んだプリウス＝プリウスPHV、という意味でも今考えられる最高の組み合わせだと思います。

さっきも言いましたが私はずっとカローラに乗っていて、「カローラがハイブリッドにならないのかなあ」なんて思っていました。でも「カローラは大衆車の象徴。ハイブリッドシステムのような高価・高機能な技術が搭載されるようなクルマじゃない」って、言っていた人もいたんです。それでも結局ハイブリッドになったじゃないですか。カローラに限らず、他のトヨタ車もどんどんハイブリッド化しています。最初は新しい先進技術であっても、市場に受け入れられれば、どんどんと普及していくわけです。ハイブリッドで起きたことと同じように、他の車もどんどんプラグイン・ハイブリッド化していくと個人的には予想しています。プリウスは切り込み隊長というか、イメージの先端を走っているクルマなのでプリウスPHVもその存在が特異なものとして目立っていますが、プラグイン・ハイブリッドはこれからのクルマのスタンダードになっていくと思います。プリウスがそうなったように。』

※後編「普及のカギは消費者の発想の転換と、PHVの価値を正しく理解すること」は9/17（木）公開予定です

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■充電電力使用時走行距離は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境（気象・渋滞等）や運転方法（急発進・エアコン使用等）に応じてEV走行距離は大きく異なります。
※1 エンジン、リチウムイオンバッテリーの状態、エアコンの使用状況や運転方法（急発進・所定の車速を越える）、道路状況（登坂）などによっては、バッテリー残量に関わらずEV走行が解除され、エンジンが作動します。