「あらゆるものを“ニュース”と呼ぶと本来必要な言論活動が埋もれてしまう」～「THE PAGE」編集長・奥村倫弘氏インタビュー～ - BLOGOS編集部

2022年3月30日 0時0分

※この記事は2015年08月24日にBLOGOSで公開されたものです

「気になるニュースをわかりやすく」を合言葉に、政治や経済に関わるニュースの解説記事を提供している「THE PAGE」。同ページの編集長を務める奥村倫弘氏はダイヤモンド・オンラインに掲載された連載で現状のネットメディアが抱える課題を指摘し、注目を集めた。奥村氏に、現在のネットメディアの問題点や「THE PAGE」の運営などについて話を聞いた【取材・文　永田正行（BLOGOS編集部）】

ネットの出現で「ニュース」の定義や概念が変わった

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－まず「THE PAGE」の運営体制を教えてください。

奥村倫弘氏（以下、奥村）：社員10人のうち編集に携わっているのは、私を入れて５人です。このメンバーで月間300本程度の記事を作成しています。

媒体のコンセプトとして、ニュース解説を軸にしているのですが、それ以外に大阪、愛知、東京の３つの拠点の地域ニュースも発信しています。

－奥村さんは、ダイヤモンド・オンラインで「ネットジャーナリズムの光と影」という連載をお持ちでした。その中で、PV（ページビュー）至上主義に対して懐疑的な意見を述べていましたが、「THE PAGE」が重視している指標はPVではないとすれば、何なのでしょうか。

奥村：記事配信と広告でマネタイズをしているので、会社としての利益が一番重要だと考えています。

－最近では、バイラルメディアなどに代表されるように、Youtube動画や他サイトの引用を中心にして、コンテンツにかかるコストを最小限に抑えようとするメディアもあります。専門的な解説記事の作成には、コストもかかると思いますが。

奥村：「THE PAGE」は、おかげさまで様々なメディアに記事の有料配信をさせていただいているので非常に助かっていますし、事業としてもキチンと成立しています。

私がダイヤモンド・オンラインの連載の中で言いたかったのは、「コンテンツを作るのにお金をかけるな」ということではなく、結局「ニュースとはなんぞや」という話なんです。今、「世の中の人が考えているニュース」と「インターネットが出現する前のニュース」とでは、「ニュース」の概念や定義が変わってきているという話が前提にあります。

インターネットが出現する前のニュースは政治や経済、社会に対して課題を訴えていくといった性格のものだったと私は認識しています。ところが、インターネット後の世界になると、こうしたジャーナリズム的な部分が埋もれていってしまった。何に埋もれていったかというと、普通のコミュニケーションです。「あの記事おもしろかったよね」「あそこでこんなことが書いていましたよ」と話をすることは、自分が取材しているのでなければ、普通のコミュニケーションですよね。

そのコミュニケーション自体が悪いわけではありません。ただ、どこかで得た情報をあたかも自分が取材してきたかのように話したり、書いたりして人を貶めているケースもネット上では見受けられます。中国人や韓国人の悪口を書いて、日本人がそれを見て溜飲を下げることで、ビジネスを成り立たせている媒体も残念ながらあります。

そういうものはニュースでもなんでもないですし、単なる悪意のようなものですが、ＰＶを稼げるので、お金儲けの方法になってしまっている。そういうものを「ニュース」と呼んでいいのか、という問題意識があるんです。

例えば、Youtubeにアップされている可愛い猫の動画があります。私自身もそういうものを見て笑ったりもしていますが、中には人の撮影したものをあたかも自分が作ったかのように紹介していたりするケースもあります。バイラルメディアなどが、こうした単なるコミュニケーションのようなものを「ニュース」と言ってお金儲けをしていることに対して、「それニュースじゃないよね？」という話をしているのです。

少々抽象的かもしれませんが、「ニュース」の本来的な価値は一次情報に接触して、その情報を伝えるところにあるので、そこを忘れたニュースサイトには、「あなたがやっているのはニュース配信ではなくコミュニケーションでしょ」と言いたいのです。

－現実問題として、そのバランスは難しい部分があるのではないでしょうか。例えば、「安倍首相が●●した」といったものが、これまでの一般的なニュースだとしたら、現在では、「今日はあなたの友達の●●くんの誕生日です」といったコミュニケーションの一環となるような情報も含めて「ニュース」と呼んでいる部分があります。

また、多くのネットメディアでTwitterまとめや猫画像紹介といった記事が作られている現状もあると思うのですが。

奥村：私は、あくまで「“ニュース”とは何ですか」という話をしているだけで、「コミュニケーションが悪い」という話はしていません。もちろん、パクリや剽窃は良くないと思いますが、コミュニケーション自体は、まったく否定していないんです。

ただ、「“コミュニケーション”と“ニュース”は違うよね？」という問題提起はしたいと思っています。確かに、ニュースの定義は多様化しているかもしれませんが、そうした違いはあると思います。「友達が誕生日を迎えました」というのは、狭い意味での「ニュース」とは言えないのではないでしょうか。

ニュースの本来的な役割、意味は、究極的には市民の自由と自治を守るための情報だと思います。それを考えずに、あらゆるものを「ニュースだ」と言っていると、本来必要な言論活動が埋もれていってしまう。そのことに危惧を感じているだけで、友達の誕生日のような情報をウェブに掲載することを否定しているわけではありません。

－ネット上に存在する多くのサイトが、「ニュースサイト」「ネットメディア」といった言い方をしています。ですが、どこのサイトも多かれ少なかれコミュニケーション的な要素をもった情報を掲載しています。

そうした中で、「THE PAGE」は、本来的な意味での「ニュース」の提供にこだわっているのでしょうか。

奥村：そこはこだわっています。やはり安保法制を始め、様々な政治や社会問題についてのニュースをしっかり解説するように心がけています。

今のお話で言うと「ネットメディア」と「ネットニュース」という言葉が、同じものとして使われていることに違和感を覚えるんです。「ネットメディア」の中には、コミュニケーションがあってもいいし、ニュースがあってもいい。何があってもいいと思います。しかし、「女の子のお洋服の着こなしについての情報もニュースでしょ」と言われると、私の感覚では、「それはニュースじゃないよ」となってしまう。「ネットメディア」としては成立する情報だけど、それは「ニュース」じゃないよねと。

先程も申し上げたように、「ニュース」というのは、住民の自由や自治、あるいは健康や財産、生命を守るための情報だと思います。そうした本来的な「ニュース」の部分が、現在のインターネットのビジネスシーンにおいて、軽視されている。儲からないと言って、おろそかになっている。それが問題だと言っているわけで、他を排除しろと言っているわけではありません。

女の子の服の着こなしや猫画像があってもいいのですが、「ネットメディア」が情報を編制する時に、本来的な意味での「ニュース」を出さずに、「女の子にモテる５つのコツ」といった情報を“ニュース”として提供していたら、生きていくために必要な大切な情報が、結果として押し隠されてしまうことにならないだろうか。これが私の問題意識で、編制の問題なのです。

重要な問題を取り上げない“流通”に存在意義はない

－ただ、これは「ニワトリか卵か」というような話なのですが、もしユーザーが猫画像の方に興味がある場合はどうなのか、という議論があります。「安保法制について知っておいたほうがいいよ」というのは、メディア側の“おせっかい”でユーザーに「そんなの知らなくても生きていけるからカワイイ猫が見たい」と言われたらどうでしょう。本来的な意味での「ニュース」が本当に求められているのか、という疑問です。

奥村：これは、「ニュース」の生産側と流通側で問題を分けて考える必要があると思います。

流通側というのはYahoo!やSmartNews、Gunosyのような自分たちで記事を作らないで、配信するサイトやアプリのことですが、彼らは「ユーザーが何を欲しているのか」を考えながら、記事をピックアップしている。

ユーザーが民主主義や経済の話題を好むのであれば、流通側はそれを持ってくるでしょう。ただ一方で、「政治や経済の話題は受けないから取り上げない」ということも、流通側が意志を持ってやっている。彼らがそこに何ら責任を感じる必要はないのでしょうか。

ニュースを流通させる人たちが、「お金が欲しいだけなので、ユーザーが求めるものだけをどんどん提供しています」というのであれば、その流通に存在価値はあるのでしょうか。それは結局、ユーザーのことを考えているようでいて、自分のビジネスを成り立たせるために一番都合の良い情報を集めているだけなのではないでしょうか。この点をダイヤモンド・オンラインの連載では指摘したかったのです。

確かに、政治や経済のニュースを取り上げるのは興味のないユーザーにとっては”おせっかい”かもしれません。しかし、流通をやっている以上、“おせっかい”も必要だと思います。今、数字が取れないからといって、新国立競技場や安保法制の問題を取り上げる必要がないのか、といえばそうではない。こうした問題を取り上げることは”おせっかい”ではなく、ユーザーたちが考えなければいけないことだから取り上げるんだと思います。それを儲からないからといって切ってしまうのであれば、私はそういう流通は存在する意味がないと思っています。

－ただ、難しいものを難しいまま投げていても届かないので、伝え方を工夫する必要はあると思います。「THE PAGE」は、解説メディアですが、伝わりやすくするために工夫している部分はありますか？

奥村：「そもそも●●とは…」系の記事は多いと思います。例えば、「機雷掃海ってなに？」というように、みんなが分かっているつもりだけど、分かっていないものを解説する内容です。こうしたものにものすごく需要があるとかと言えば、確かにありません。猫をやっていたほうが、絶対儲かります。

多くのメディアがPV狙いに走ってしまうのは、ビジネスモデル、経営の問題です。「NewsPicks」のようにPVを捨てて有料会員獲得に注力します、ということであれば、PVに苦しむ必要はありません。どうやってビジネスを組み立てるかという話であって、記事の質の問題ではありません。

私たちも広告で収益化している部分があるので、当然PVも必要です。だからこそ、サイトの内容を多角化しているのです。解説記事もあれば、地域の話題もあり、そちらの方が数字を取っています。先日、たま駅長が亡くなった時も弔辞全文という記事を作りましたが、これは非常に読まれました。

あの記事の価値は、まだネットのどこにも載っていない情報を現場に行って全文を載せたというところにあると思います。また、カバーエリアである愛知のニュースでは、東山動物園のイケメンゴリラというネタが結構読まれています。これは、解説ではなく話題になっていたものを、実際に見に行ったらどうか、という記事の作り方をしたものです。

こうした数字を取れるコンテンツで、数字を取れない解説記事をカバーしている。それは、私がYahoo!トピックスに携わっていた時も同じです。やはり、スポーツ、エンタテインメントに関する話題が一番読まれます。政治・経済の話題だけでは収益はとれません。もちろん、テレビ見ながら書いたとか、ブログの引用ではない、キチンと取材をしたスポーツやエンタテインメントのニュースです。選手や芸能人に話を聞いた、“マジメ”なスポーツ、エンタテインメントで政治・経済をカバーする。それがバランスの取り方だと思います。

これは私の考えですが、「そんなの合理的じゃないじゃないか」という考えもあると思います。赤字を出すコンテンツなんてやめておけばいいんだという考え方です。しかし、経済ニュースの顔をした商品紹介やステマまがいの記事や、韓国の悪口だけで何も生産的な議論もないコンテンツでＰＶを稼ぐのであれば、「それは一体誰のためのメディアなんだ」という話になるのではないでしょうか。

ユーザーがほしい情報だけを流すというのは、企業がお金欲しさでやっているだけで、本当の意味でユーザーのことを考えてないじゃないかということなんです。だからこそ“おせっかい”は絶対必要だと思っています。

ニュースの“流通”と“生産”がもっと議論をすべき

－ネットメディアの問題点として、もう一つ指摘されるのは、生産側が流通を意識するあまりコンテンツが歪んでしまうということです。顕著な例として、いわゆる“釣りタイトル”がありますが、流通側の「ユーザーに受けるものを！」という志向に生産側が引っ張られた結果、生産側でも猫画像が増えていく…といった問題点があると思いますが。

奥村：それはビジネスによって歪められているだけなので、それほど気にする必要はないのではないでしょうか。ニュースを流通させる企業が、それによって何を成し遂げたいのか、というのは周囲が決めるのではなく企業自身が決めればいいだけの話です。それは生産も同じです。それぞれを必要以上に意識する必要は本来ないと思います。

生産は自分たちの作る記事の価値を分かっているところに記事を提供すればいいだけですし、流通は自分たちが欲しいところから記事を買えばいい。だから、流通と生産がもっと話をする必要はあると思います。「こういうのが欲しいです」とか「いらないです」という話です。流通と生産の間でお互い「最近、あなたのところは目利き力が落ちているね」「最近、記事の質が落ちたよね」というようなコミュニケーションがあるべきだと私は思っています。

しかし、流通側が自分たちが何を見せたいのかを、自分たちで決められずに、「読者がこれを欲しがっているから」「クリックされる可能性が高いから」という基準で情報を編制していると、そういうコミュニケーションは成立しません。

－ただメディアとはいえビジネスとして成立するかは重要ですし、ビジネスとメディア運営で求められる人材にも違いがあります。また、インターネット企業は“プラットフォーム”や“ウェブサービス”というような言い方をしていて、自分たちが新聞やテレビと同じようなメディアだという自覚に乏しいところもあると思います。

奥村：もちろん、ビジネスとしては間違ってはいません。新聞やテレビもビジネスとして利益を出したいと思う気持ちはあるでしょう。ただ、それはメディアとしての自覚や矜持と両輪として回っていると思います。いわゆる新聞社やテレビ局の現場の人たちは、やはり「僕らがやりたいのは、お金じゃなくて世の中の役に立つ情報なんですよ」という理論で動いています。

私たちは、インターネットメディアの世界で生きているので、「プラットフォームがどうだ」「ネットニュース、ネットメディアがどうだ」という話をしていますが、マスメディアの人達と話をすると、プラットフォームの話なんてまったく出てきません。

私たちは普段インターネットの仕事をしていてFacebookやウェブページをスマートフォンで見ているので「日本のメディアは、プラットフォームであるべきだ」などという話も考えてしまいますが、ネットを見てない人たちは「やっぱり新聞やテレビはこうあるべきだよね」という議論をしていて、そこには断絶があると思います。

これは人材の話にもつながってきますが、新聞やテレビはまだまだ明日潰れるような状況ではないので、その中で食っていける人たちは、わざわざ食っていけないネットの世界に来るはずがない。そうするとインターネットメディアに対して、旧メディアが持っているノウハウが、なかなか移転されません。アメリカの場合、元々宅配の制度がなかったので、新聞社の経営もどんどん傾いていき「このままじゃダメだ」となった多くの記者がインターネットの世界に飛び込んできましたが、日本ではそういう流れがない。

実際にインターネットの生産側のメディアの名前を挙げていくと、その多くは旧メディアのネット部門です。純粋にネット専業で生産をやっているのは、アイティメディアさんやJ-CASTさんぐらい。他に真面目な話題を取り扱っているメディアというのは、ほとんどないのではないでしょうか。

自分たちの存在意義を自分たちで見出すことが出来ずに、ただお金儲けをしたいという人たちが、ネットメディアの世界にはたくさんいます。そんなことを続けていたら、お互いに消耗するだけでビジネスとしては成立しません。なので、リアルな世界で起きていることをしっかりとネットに載せていく作業をやっていける会社やサービスが増えていかないと、あまり価値が高まらないと思います。

－きちっと必要な情報を取ってきて、流通に載せる人が必要なのは間違いないと。

奥村：もしそういうサービスをやると志を立てたならば、やるべきでしょう。犬・猫でどんどんPVを稼ぎますと決めたメディアが、そういう情報を載せる必要はまったくない。

「うちはネットニュースやります」と言いながら、犬・猫ばかり載せているサイトを見ると「それはもうインターネットメディアと言っておいてくださいよ」と。「インターネットニュース」と名乗るのであれば、ちゃんと国民の生命・財産を守るためであったり、住民の自治や自由を守るような情報をちゃんと載せてほしいなと思います。言葉遊びかもしれませんが。