2012年は日中友好が「終わり」を迎えた年 - BLOGOS編集部
※この記事は2012年11月30日にBLOGOSで公開されたものです
ニコニコ生放送とBLOGOSがタッグを組んでお送りしている「ニコ生×BLOGOS」第13回のテーマは「一党独裁！13億人を支配する中国共産党の謎」尖閣諸島を巡る領土問題で日本と中国の関係は悪化の一途をたどっています。中国国内では反日デモも行われ、国内で改めて“中国”がクローズアップされていますが、意外と知らないのが中国の政治制度。一党独裁を続ける中国共産党はどのようなシステムになっているのか？
知っているようで知らない中国の政治事情の最前線を、中国出身でありながら、現在は日本に帰化した「誰よりも中国を知る男」石平氏と、中国ウォッチャーの第一人者、宮崎正弘氏に伺いました。
【出演】
司会：大谷広太（BLOGOS編集長）
アナウンサー：山本郁
コメンテーター：須田慎一郎（ジャーナリスト）
ゲスト：宮崎正弘（評論家・作家）
石平（評論家）
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中国には地方自治の考え方がない
山本：中国とはどんな国なのか、数字で見ていきたいと思います。まずは中国の面積。陸地面積はおよそ960万平方キロメートル。そしてニッポンの面積はおよそ38万平方キロメートルということで、中国は日本の約25倍の広さを持つということですよね。続きまして、地方行政の仕組み。日本でいう県や市町村がどうなっているのかというと、そもそも中国は中央集権制下の地方行政なので、日本のような地方自治の考え方はありません。中央政府は、地方行政を上から下へ３つのレベルに分けて統括しているんですね。一番上にあるのが省と自治区。日本でいう都道府県にあたります。そして、その下にあるのが、市と県です。特に重要なのが県で、中国全土で3000以上。その県の下にあるのが郷と鎮。「郷」というのは、県が管轄下に置く農村部の単位です。「鎮」は、「郷」の中で比較的発展した街のことだそうです。
宮崎：一番ややこしいのは、「市」の中に「市」があるんですよ。つまり、１級市なのか、２級市なのか。２級の市っていうのは、１級の市の下に入っていて、そういうところが日本と全く違います。例えば、課長、部長、係長の差が全く違います。日本の場合、部長が一番偉くて、その上が局長でしょ？反対に一番偉いのが“かちょう”。ただこれも日本とは違って「科長」といいます。今の行政単位に話を戻すと、上から「省」「１級市」「２級市」「県」「郷」「鎮」になります。
大谷：日本の報道で“市長の不祥事問題”みたいなものがありますけど、日本の市長とは権限が違って、もっと大きな力を持っているわけですよね？
宮崎：大体、中国で市長なんてものはレベルが低い。一番偉いのは“市の書記”。だから、市長と書記が並んだら、市長がペコペコしているので、誰が偉いのかっていうのが一目でわかります。
須田：その書記というのは、共産党の地方組織ですよね。
宮崎：党の書記。
須田：市長は行政だから、党の一員である書記が上にいると。
宮崎：そうそう。
山本：続いて、人口ですけども、世界保健機構（＝WHO）が発表した2010年の総人口によりますと、中国は13億4893万人で世界1位。日本の13倍の人口ですね。
石平：ただし、戸籍に登録していないので、統計上にあがってこない人もいるので、実際はもっと多いと思います。
山本：一人っ子政策なんかで、表に出せない場合があると？
石平：最初から戸籍登録をしないんです。
須田：戸籍登録をしないことで生じる不都合ってないんですか？
宮崎：学校に行けませんよ。市民権もないです。
石平：保険が適用されないとか色々な問題が出てくるんですよ。だって市民権がないから。法律上、その人は存在しないことになる。
須田：つまり人間として扱われないと？
石平：極端な話、殺されても案件にはならないんです。
宮崎：ですから、偽戸籍とか、偽の身分証明書とかが流行るんですよね。それもない人は他から盗むしかない。歩いている日本人からパスポートを取ってきたりしちゃうわけですね。
中国は全家庭の55％が貯金もできない
山本：GDPはどうかといいますと。2012年２月13日、日本政府が発表したデータによりますと、物価変動要因を除いた2011年のGDPは７兆4922億8000万ドルで世界第２位ですね。同じ年、日本は６兆5305億ドルで、日本が中国にGDPで抜かれたのは、一昨年（2010年）のことでした。石平：ただし中国のGDPは、統計上の数字でかなり水増しの部分が多いんです。国が発表した数字でも、売れ残った不動産の在庫がGDPの１割ぐらいありますから、そういう部分を全部計算してしまうと、実体経済はそれほどのものでもないんです。
宮崎：中国国家統計局というところがあるんです。ここがGDP速報などの数字を全部出しているんですが、現在（2012年10月25日時点）の副首相の李克強が「あの数字なんて誰も信用していない」と言ったんですね。ですから、共産党のトップがあの数字を全く認めていないということなんですよ。7.4％成長って聞くといいように聞こえますが、せいぜい２％成長ぐらいかなっていうところです。中国を歩いてみればわかりますよ。
須田：加えて、発表しているのはまだマシなんですよ、嘘でもね。これ、都合悪くなってくると、発表するのをやめますから、例えば、暴動とかデモといった集団的抗議行動の数についても、調査をしているのかわからない。10年前ぐらいまでは発表していましたよね？
石平：去年、政府ではない別の研究機関が発表した数字では、2011年に起きた集団的抗議行動は18万件あったそうです。
宮崎：今ね、中国人は３度のメシよりも暴動が好きって言われているんですよ。
山本：好きなんですか？
宮崎：娯楽なんですよ。
石平：それだけみんなが不満を持っているってことですね。
須田：４年前にある通信社が調査して発表した時は、８万7000件だったはずなんですよ。それがこの４年間で倍増している。あまり増えてくると、中国国内の治安が乱れていることがバレちゃうから、そういった調査をしているかどうかもわからないし、発表すらしないということになるんですね。
山本：でも、中国の経済って減退しているって言われていますよね。そのあたりはどうですか？
石平：今はもう、どんな指標を見ても、落ちるいっぽうですよ。
宮崎：中国の今の経済がわかる簡単な指標があるんです。今年、大学を卒業した生徒は700万人いるんですが、その内、200万人ぐらいに卒業先がないんですよ。ていうことは、過去５年間×200として1000万人の新卒の大学生がまともな仕事に就いていないんです。じゃあ、この人達は何してるのっていったら、ホントに不思議ですよね。
石平：中国で流行っている言葉で、鼠族って人たちですね。
大谷：蟻族とかいいましたよね。
石平：蟻族が進化したのが鼠族。みんな都会人で、高層ビルの地下に住むんです。１ルームを７人か８人で住んで、他の部屋に住んでいる人も含めて、約100人が同じトイレを共同で使うような生活なんです。
須田：所得格差で“ジニ係数”というのがあるじゃないですか。1.0が一番ひどい状況になるんですけども、中国のジニ係数は0.5なんですよ。この数字がどのくらいのものかというと、独裁的な中南米の国、もしくは独裁的なアフリカ諸国。そのぐらいの所得格差があるんですね。
石平：そうそう。要するに、収入は全部食べ物に使ってしまうんです。産経新聞にも書いたんですけど、中国国内の大学の研究機関が調査して発表した数字によりますと、今中国の全家庭の内、55％が貯金さえも、まともにできていないんです。
じゃあ、民間貯蓄はどこにいっているかといいますと、同じ研究機関の発表によると、75％の貯金は大体、上位10％の家庭のところにあるんです。結局、富が一部の人に集中し過ぎているので、もっと広めないといけない。
宮崎：もっと凄まじいのが、この富裕階層は自分たちのお金を国内の預金や投資に回さないで、みんな海外に持っていっているのね。ウォールストリート・ジャーナルによれば、過去１年間で持ちだされた総額が2250億ドル。中国共産党が公表した、共産党の幹部１万人が海外に逃げて持ちだした金額が1000億ドルだろうと言われていたんだけど、実際は少なくとも4000億ドルぐらいは持ちだされているんですよね。ですから、こういう国が人の国の悪口を言っていいのかどうかがわからない。まず、自分たちの足元を見たほうがいいんじゃないかと思いますけどね。
石平：みんなね、中国が社会主義は国家だと思っている人がいるなら、それは大間違いです。今、中国と比べたら、日本のほうが社会主義。中国は資本主義まっしぐらの状態にあるんです。ただ、中国こそ、共産主義革命をもう一度やらないといけない。
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ポストを金で買うのが共産党
須田：やっぱり一生懸命勉強して、中国共産党の幹部になるとか、選挙で政治家になるというのが成功の道なのかなと思うんですが・・・。山本：須田さんも気になる選挙の仕組み。あれだけ人口が多い国で、どうやってまとめているのかというところを、石平さん、教えていただけますでしょうか。
石平：中国は一応形だけで、人民大会の選挙制度があるんですが、実際はなんの意味もないんです。
大谷：この“人民大会”というのは、日本でいうところの“市議会”とか“県議会”のようなものなんですか？
石平：一応はそうなんですけど、なんの意味もない。というのは、例えば、四川省のトップは、決して四川省の人民大会によって選ばれたわけじゃない。共産党が指名するんです。共産党が氏名してから人民大会が儀式として行われる。ですからよく言われるのは、人民大会というのは、去就大会です。共産党が決めた人事を、人民大会の委員たちが、代表たちが、去就すればそれで終わる。
宮崎：英語で言うと“ラバースタンプ”。しかも、このポストは金で取引されているんです。ですから、全国人民代表者会議の代表ぐらいになると、相場は日本円で1000万円ぐらい。ということは、1000万円でポストを買って、５年経ってから人にやると、自分の懐に入ってくるのは多分2000万円ぐらいで、商売として十分に成り立つわけ。
石平：さっき話に出た「県」と「省」レベルで考えればわかりやすいんです。例えば、四川省という省の中で一番偉い人は“省長”じゃないんです。中国共産党・四川省委員会の書記が一番偉い。で、この人が誰から任命されるかっていうと、共産党中央委員会から任命される。それで一番の権力者になる。四川省の省長は、共産党の書記によって指名される。そういう流れなんです。“県の長”も同じで、共産党委員会の書記によって任命されます。つまり、権力のあるすべてのところは、党によって任命される。党がすべての権力を握っているということです。
須田：中国共産党の中で出世をしていくためにはどうすればいいんですか？選挙があるわけじゃないんですよね？
宮崎：選挙はないです。簡単に言うと、胡錦濤はなぜ偉くなれたのかを考えた方がいい。胡錦濤さんの場合、蠟小平に目をかけられたから偉くなった。これは老人キラーであるということで、上に取り入ることの名人なんです。だから、行政能力よりも、老人にいかにとりいって、根回しして、自分の能力を自分の予想以上に売り込むことができるかという能力。この能力はどうやって身につけるのか。それは簡単。生まれてから死ぬまで嘘をつき続けられる人が偉くなれる。あらゆる詭弁を１時間でも２時間でも堂々としゃべれる。報告書はすべてでっち上げでも、キラキラ光るような数字を並べる。そういうことなんです。
石平：以前、日本で福田康夫さんが総理大臣を務めていた時、胡錦濤さんと対談したんですよ。そのあと記者から、胡錦濤さんの第一印象を聞かれて、福田総理はこう答えたんです。
「いやー、胡錦濤さんは誠実な人ですね！」と。“あんた、アホちゃうか”って感じですよ。さっき、宮崎さんがおっしゃったように、中国共産党のトップになるには、嘘だらけ。誠実なわけがないんですよ。ただ日本人はそういう部分を感じない国民性なんですね。
大谷：ニュースを見ていると、「全人代」というのがありますよね。これは日本の国会のようなものなんでしょうか？
石平：人民大会のシステムはただの飾り物。実際の権力は、中国共産党が握っている。その証拠として、全国人民大会の委員長、本来であれば国会の議長なんですが、この人の党の中での立場は、序列２位。胡錦濤さんの下になります。要するに、全国人民代表大会の委員長が胡錦濤さんの部下になるわけです。
大谷：つまり、全人代で何かが決まる前には、すべてが決まっているので、覆ることがないと？
石平：全部、決まってる。本来ならば、中国の次期総理大臣は、来年の３月に全国人民大会が開かれるので、そこで決めるはずです。しかし、誰もがわかっているように、李克強さんという人が次期総理大事になる。なぜかというと、党がそう決めたから。
中国には選挙システムがない！
須田：そういう仕組みの中でいうと、あまり能力のある人たちのようにはとてもじゃないけど思えないんですね。その一方で、優秀な官僚集団が支えているという構造なんですか？それで13億の民を動かしていると？石平：中国では、日本ほど、政治と官僚が区別されていないんです。日本の政治家は、選挙によって選ばれる。官僚は選挙と関係なくキャリアとして選ばれる。中国の場合は、政治と官僚の世界が一体化しているんですよ。
宮崎：昔の“官吏”という“官”は、中央政府が任命して、地方にいるもの。“吏”というのは、中央から来た人に仕えながらも、汚職とかシステムのやり方がわからない。ですから、“官”は“吏”に任せるんですね。「吏」はみんな信金してきて、上に上納をする。そういうシステムが華僑の一番悪いところでもあったんですけど、今は華僑なんて必要ないわけです。
党と一体ですから。今、揉めている全人代の話をしますと、全人代っていうのは、全国の隅々から集まってくる代表ということになっていますけど、普通、背広着ている人がその日だけ少数民族の格好をしてきたりするんです。でも、全人代が終わったら、みんな元に戻る。
あと、会期中は、中国のホテルがみんな満員ですけど、この人達は外部との接触ができないんです。秘書たちが同時に北京に来ているんですが、この秘書たちは、海外の有名ブランドの店に行って「ここからここまでください！」と一気に買って、それをおみやげにしているんです。ダンヒルの財布なんて一番安く売れるんです。なぜかというと「お土産です」って言って持ってくと、その中に現金が詰まっている。だから、賄賂運搬機とも言われています。それが裏の仕組みなんです。だから、表向きと裏向きでは、また実態が違うシステムだと。
大谷：そうすると、色々な民族の方がいらっしゃる中で、みなさん政治システムに対して、どういう風に思っているんですか？
宮崎：本気で独立民族運動とか、真面目に政治を考える人は、そもそも代表になれませんから。代表になるというのは、流れの中で、自分の利権をいかに埋めながら、このシステムの中でいかに金儲けをしていくか・・・という認識がある人達。そういった人達が代表になったり、党の地区幹部になるわけです。
山本：じゃあ、中国には選挙システム自体がそもそもない？
石平：実質ないと考えたほうがいいと思います。
須田：日本のように、有権者が投票所に足を運んで、投票するということはないんですか？
石平：ないんです。例えば、日本なら民主党政権がダメだと思えば、次の選挙で違う党に入れればそれでいい。でも、中国にはそういうのがないんです。だから、ずっと共産党が一党独裁。でも一党独裁はいいんです。国民は共産党に対する不満があるんだとしても、選挙で共産党を政権の座から引き降ろすことができない。要するに、主権は国民ではなく、党にあるんです。
大谷：そうすると、議会の内容もそうだし、役員人事も、党が事前に決めているということになりますね。
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テレビ局は共産党の宣伝機関
大谷：続いては、中国共産党について掘り下げていきたいと思います。須田：不思議な組織ですよね。
石平：共産党は、中国の権力をすべて握る一党独裁政権って言われますが、そこには日本人がなかなかわからない部分があると思います。それはなにかというと、私が昔、日本人からこんなことを言われたことがあるんです。
「中国共産党の一党独裁って言っても、日本では自民党が長期政権を握っているから、これも一党独裁ではないか？」と。しかし、これは全然違う。自民党が昔、長期政権を担っていたのは、選挙で選ばれたからというのが１つ。
もう１つは、例えば、自民党政権にしても、民主党政権にしても、内閣は当然、与党になりますよね。しかし、別に警察が自民党や民主党になるわけじゃない。共産党の一党独裁というのが何かというと、警察、テレビ局、大学、銀行、郵便局、すべて共産党が牛耳っていきます。要するに、警察が共産党の警察なんです。
大谷：共産党のほうが、憲法よりも上っていう位置づけなんですか？
石平：一応、憲法の中で明文化しているんですよ。共産党がこの国の指導組織であると。逆に、共産党が憲法を作って、自分たちの支配を正当化しているという話です。
須田：かつての社会主義の国、共産主義の国、どちらも大体、一党独裁じゃないですか。これは他の社会主義や共産主義と一緒ですか？
石平：基本的に一緒です。恐らく、共産党がすべての権力を握る。しかも、権力のあるところには、必ず共産党の組織があるんです。例えばもし、このニコニコ動画が中国にあるならば、必ずニコニコ動画の中に、共産党の支部があるんです。つまり動かしているのは、共産党の支部。
宮崎：そして必ず、政治委員というのが派遣される。国有企業もみんなそうですが、中国工商銀行という銀行を例にみれば、一番は頭取じゃなくて、政治委員なんです。ですから、企業権威にしても、ビジネスライクに、あるいは、企業のストラテジーという風にはできないですね。
党の命令で「あれやったら！」と言われたら、やらなきゃいけない。そういう形態になっているので、あらゆるところで共産党の眼が光っているわけ。
石平：中国共産党って世論統制するんですが、日本人が誤解しているのは、共産党の世論統制の１つが、テレビ局に関する検閲だと思っていること。これ実際は違います！テレビ局そのものが共産党の宣伝機関なんです。
人民解放軍は国ではなく党の私兵部隊
須田：ぜひ伺いたい話がありまして、人民解放軍ってあるじゃないですか。あれは国の軍隊じゃなくて共産党の軍隊だという風に、打ち合わせの時に伺ったんですが。石平：それは中国共産党が明言しています。人民解放軍がよく言っていることは“我々は党の支持に従う”と。要するに、人民解放軍は中国の国防軍じゃない。国家に所属していませんから。例えるなら、自民党が自衛隊を持っているような話です。
基本的に人民解放軍は、中国共産党の私兵部隊です。だから人民解放軍の最高司令部は、共産党の中央軍事委員会ということになるんです。
須田：じゃあ、戦争中にパール軍ってあったじゃないですか？それの成れの果てなんですか？
宮崎：パール軍っていうのは総称なんです。あの頃は、第４野戦軍とか呼ばれていて、かろうじて日本に２回ぐらい勝っているんですよ。その誇りから、共産党の政権が成立してからは、旧第４野戦軍系が軍のトップ、そして党のトップについたんですね。
今はこれが統合して、地方軍閥を無くすために人事の入れ替えをやって、中央との交流をしょっちゅうやっているんですね。なぜそんなことをやっているのかというと、近代政治学でいう“国民国家”ではなくて、党の独裁ということは、“党に中世を誓う軍隊”なんですね。もちろん、軍人の中にも頭のいい人がいますから、「国民国家であるならば、これは国軍にしなければいけない」という議論になるんですね。
しかし、その議論を言うと、必ず失脚するか、左遷されるので、軍の中にも、党の中にも、人民解放軍を国軍にするという議論はすでにないんですね。
石平：ですから、日本人は本当にそこが理解できない。昔、小沢一郎さんが中国に行って、胡錦濤さんの前で「私は人民解放軍の野生司令官みたいなもんですよ」というんです。でも、これは全然わかってない。人民解放軍の野生司令官というのは、胡錦濤の部下になるということですから。
共産党以外にも政党があった
山本：中国には、共産党以外に政党ってあるんですか？宮崎：あることになっているんですよ。1949年10月１日に天安門に赤旗を翻した時の毛沢東は、中華人民共和国を成立させると言っていましたね。その時に、７つの政党の代表があの場所に立っていたんです。しかし、そのあといつの間にか、７つの政党を消していって、共産党の独裁がはじめるわけです。
今でも、その７つの政党はあることになっているし、事務所もちゃんとあるんですが、それはみんな共産党の指導の元に、共産党という民主主義システムの元に、創立している政党があるということなんです。
石平：中国国内でも、共産党以外の政党のことを“花瓶政党”と呼んでいます。要するに、飾り物ですよね。実際、そういった政党の経費は全部、共産党政府から至急されているんですね。
須田：そもそも選挙がないんだから、他の政党があろうがなかろうが、あまり意味がないように思うんですが。
石平：まあ、飾り物です。ただ、中国共産党は、そこが上手で、形だけのものを作っておいて、実際は自分たちが権力を握る。
須田：花瓶政党の党員とか、党首とかって見たことあります？
石平：地方で見たことがあります。
宮崎：私は事務所の前を通ったことがあります。それで、運転手に「なんでこんな政党があるんだ」って聞いたんですよ。そうしたら「お前知らないのか？一応あることになっているんだ」と。
石平：本人たちも自分たちの役割をよくわきまえていますから。
宮崎：そりゃ、お寺だってみんなそうじゃないですか。あらゆる仏教寺院、キリスト教会には、公安の机があるんですよ。チベットのラサのポタラ宮殿の各フロアには、公安の机があって見張っている。あの宮殿を運営することは、党の指導の元に許されている。あらゆることはみんなそうなんですよ。
須田：そういってしまえば、シンプルはシンプルなんですね。すべて共産党が口を出す。なんでもかんでも。
石平：ある地方で、共産党の幹部が昇進したところ、その地方のお寺がお祝いとして、特別なお経を３日間唱えるんです。「おめでとうございます」という意味を込めて。
山本：それほど強大な力を持っている共産党が倒れる日なんてくるんでしょうか？
石平：逆にいえば、共産党はすべての権力を握っているからこそ、苦しい立場に立たされているんです。というのも、中国国内で起きたすべての問題に対して、国民は“共産党の責任だ”ということになるんです。
例えば、環境問題でも、経済問題でも、何か悪いことが起こったら、すべて共産党のせいになる。結果的に、共産党が国民の不満を一心に背負う立場になるでしょ。それが独裁政治が抱えるジレンマですよね。ですから、永遠の独裁政治は存在しない。必ずどこかで潰れるんです。
須田：とはいえ、現状では、共産党の党員になったほうが、勝ち組みになれるわけですよね。党員になるためにはどうすればいいですか？
宮崎：審査があって、党員を申請して、党の偉い人の推薦があればすぐにでもなれますけどね。一般の国民がどうやってなるのかというと、小学校、中学校と模範的な作文を書く。すると、２年間ぐらい審査されて、問題がなければ入党が認められる。でも、そのあともず～っと監査される。「どうやらコイツは本物の党員らしい」と判断されれば、ドンドン引き上げてもらえるんだけど、それは、共産党の偉い人の子どもや親戚、師弟関係でない限り、精々、市長止まりぐらいでしょうね。
石平：最近は、入党するのにお金でも解決できるようになっています。例えば、大学の先生１人が入党するならば、まずこの学校の共産党支部を審査する。その時に、審査する人にお金をあげればパスできる。お金で共産党の党員資格が買えるんです。
宮崎：例えば今、中央委員が230人いますけど、彼らの92％の、家族、もしくは親戚が外国に出てその国のパスポートを持っているということがわかっています。こういう人たちの事を“裸官”というんです。これに対する批判も今すごく多いです。
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一党独裁を崩すカギはインターネット
大谷：もう１つ聞いておきたいんですけど、中国で今、一人っ子政策の中で生まれ育った人々が、それよりも前の世代とメンタル面で違うというところがあって、テレビなどでは、彼らが不満を貯めているという話がありますよね。さらにインターネットの普及で、不満が表に出やすくなっているという報道もあると思うんですけれども、若い世代とインターネットについてどう思いますか？
石平：今、中国の若い世代は、日本の若者以上に、インターネットを使いこなしていて、新しい世論の空間になっています。それはある意味、中国共産党が成立している中で、初めての出来事です。新聞もテレビ局も共産党のものですから、これまで中国には世論が存在していませんでした。しかし、ネットを使って自分たちの空間を作れるようになった。だから、将来中国を変えていく大きな力はインターネット空間かもしれません。実際に今、ネットの中では政府の批判が当たり前になっています。
大谷：完全に全部潰すのではなくて、一定の自由を認めているようにも見えるんですけども。
石平：共産党にも共産党のやり方があって、お金で多くの人を雇って、ネット上で共産党に有利な書き込みをさせるんです。これで0.5元の報酬がでる。
宮崎：例えば、今画面にコメントで「石平はスパイだ」なんて出てるでしょ？あれはみんな、そういったヤラセなんです。それからもう１つ。中国のネット世論っていうのは、ここ数年、特に危ないんですよ。それで、24時間監視している人が、大体30万人いるんだけども、これじゃ足りなくて、警察OB、軍隊OBなどにアルバイトをやらせているわけです。
しかし、これもそのうち防ぎきれなくなる。ですから、最初から検索エンジンに妨害をかけて、通信ができないようにしている。例えば今、胡錦濤や習近平と入力しても、中国では出てこない。そのような措置をして、言論統制しているんですね。
須田：この体制批判とか共産党批判に対するリスクってどうなんですか？例えば、ネット空間で共産党批判をすると、どういうペナルティを課せられるんですか？
石平：例えば、ネットで政府を批判する書き込みをすると逮捕されるということはもうありません。というのは、もし逮捕するなら、何千万人を逮捕しなくてはいけない。これは不可能ですから。だから、今、ネット空間では、みんな平気でやっているんですよ。
最近、産経新聞に、今回の尖閣問題で「中国共産党は張子の虎」と書いたんですね。そうすると、この文章が中国のどこかの新聞に引用して紹介されていたんです。すると、ネット上では、「共産党は張子の虎」という私の文章を擁護する書き込みがいっぱいでてくるんですよ！「そうだそうだ！石平はいいこと言った！」「我々の政府はまさに張子の虎じゃないか！」と。
大谷：インターネット発で影響力のある評論家っていうのは出てきているんですか？
宮崎：いるいる。例えば、ノーベル賞を取った莫言氏は、共産党にベッタリの作家だけど、若い作家で韓寒（ハンハン）という人もいます。こういう人たちは、アメリカの新聞がインタビューをしても、ちゃんとこたえる。アメリカの新聞にはちゃんと出るんですよ。例えば、マルチアーティストの艾未未（アイ・ウェイウェイ）だって、当局は、81日ぐらいしか拘束できなくて、国際世論を前にして、釈放せざるを得ないですよね。あとは何したかというと、嫌がらせで“脱税容疑”をかけたりするんです。そういう意味で、世論はかなりすごいことになっていると思いますね。
石平：結構、力を発揮し始めています。有名な話で、共産党の高級幹部がテレビに出たことがあるんですが、その時につけていた時計が、誰が見てもすぐわかるぐらい有名なブランド品だったんです。恐らくあの時計は、彼の給料の何年分もするので、どう考えてもおかしい。
そうしたら、そのテレビの映像がネットで流されて、みんな一斉にコイツが何をやっていたのか追及をするんです。そうしたら、あっという間にコイツの背景が全部バラされて、結局解任されました。
須田：アラブの春じゃないけれども、場合によっては、中国の政府が転覆するきっかけが、ネットから起こる可能性があるということですよね？
石平：そうそうそう、大きな力です。ただし、ネットだけではすべて解決できるわけではありませんが、共産党が完全にコントロールできない世論の空間ができたことは間違いないですよね。
宮崎：極端な話をすれば、反日報道が、なぜあれだけでおしまいになっちゃったのかと。結局、反日維持を続けさせると、反政府になる。これは明らかなんですね。ですから、とにかく反日はやめなさいということなんです。
これがね、ネットで呼びかけて、数万の規模になって、ある日突然、共産党本部目掛けて石を投げ始める。それを恐れているわけですね。
日中の関係修復には100年かかる
山本：ここでみなさんからいただいた質問にお答えしてもらいましょう。大谷：東京都の男性から。「尖閣問題は今後どうなるのでしょうか？またどうすべきでしょうか？」３年後、５年後という中長期で考えてみて、尖閣問題はどうなっていくのでしょうかということなんですけども。
石平：今、日米同盟がある限り、共産党の政権が武力行使をしてくることは、まずないでしょう。問題は、中国共産党が今どういうことを考えているかということ。巡視船を出して圧力をかけながら、尖閣という領土問題が存在していることを日本政府に認めさせる。その上で、日本側を話し合いのテーブルに誘い込む。もし日本政府が中国との話し合いに応じてしまえば負けです。
話し合いをした時点で、領土問題の存在を認めてしまうわけですから。尖閣諸島は日本のものなので、そもそも領土問題は存在しないんです。だから、この手には気をつけないといけません。
宮崎：それから習近平という人は、独創的でない、無能である、教養がない。しかし、この人は本能的にわかっている。それは“親米反日”なんです。アメリカと事を構えたくない。そのためには、政治戦術として“反日問題”をこれからも大いに使うでしょうけれども、アメリカと対峙できるほどの実力をまだ中国は持っていませんから、その枠内の中で、我々は判断をしたほうがいいと思いますよね。
山本：まだまだお話を伺いたいんですが、そろそろお時間ということで、最後に感想を伺ってもよろしいでしょうか？
石平：いい意味でも、悪い意味でも、今年は日中友好の時代が完全に終わった節目の年ですね。
宮崎：丹羽大使が「この修復に40年かかる」と言っていましたが、40年ではムリ。100年はかかるでしょう。
大谷：ということは、外交面でも経済面でも、ライバルとしてシビアにやっていかないといけないと？
石平：それも一種の国家間のあり方ですよ。別に友好でなければいけない理由はなに１つもない。一定の緊張感を保ちながら、日本はちゃんと国益を守っていけばそれでいいと思います。
須田：第二次世界大戦前には、日本人が全員一致団結すれば、アメリカだってイギリスだって打ち破ることができるんだって、精神論でダーッと走っていったじゃないですか。好き嫌いで行ってしまうでしょ？その実、アメリカについても、イギリスについても、あるいはその他の外国についても、ほとんど理解のないまま、精神論で突っ走っていった経緯がある。
ですから、今、話にあったように、戦争するわけじゃないけれども、これから中国との間では、非常に激しいライバル関係になる。だったら、もっと中国のことをよく知りましょうよと。
だからそういった意味でいうと、今日の放送は基礎編ということで、お２人にお話いただいた意義というのは、相当大きかったと。だから、今度応用編をぜひやりたいですね。
放送では、日本人には考えられない一党独裁という中国の政治システムにスポットを当ててお送りしましたが、明らかになった中国共産党の謎はまだまだ氷山の一角。日中国交正常化から40年という節目の年に日本が中国との関係を“友好”から“ライバル”に変えて、今後、どのように接していけばいいのか。またの機会に続編をお送りしたいと思います。
そして、今夜9時からのニコ生×BLOGOSは「週刊朝日の橋下氏批判は何が問題だったのか？～現在の部落差別問題を考える～」メディアではタブーとされて、語られることのなかったこの問題を今回、ニコ生×BLOGOSでは改めて考えていきたいと思います。
