『鶴瓶の家族に乾杯』長寿番組が続々打ち切りの中、生き残った理由に「NHK受信料の取り立て役」
国民や総務省からの厳しい視線にさらされ、受診料の見直しなどの大改革を迫られているNHK。変わったことをわかりやすく示すためか、この春、長年続いた番組の打ち切りが相次いだ。
前身の『ためしてガッテン』から27年間続いた『ガッテン!』が先月2日に終わり、こちらも四半世紀以上続き、笑福亭仁鶴の「四角い仁鶴がまあ〜るくおさめまっせー」のフレーズで親しまれた『バラエティー生活笑百科』が今月で最終回を迎える。番組開始16年の『プロフェッショナル 仕事の流儀』もレギュラー放送が今月で終了する予定だ。
みずほグループからきた前田晃伸会長が改革の音頭をとり、NHKの顔ともいえる人気長寿番組が次々に打ち切られていく中で、今年で放送開始25年目を迎える『鶴瓶の家族に乾杯』にメスは入らなかった。
長寿番組打ち切りの中、生き残った「鶴瓶の家族に乾杯」
「視聴率は以前ほど高くありませんし、視聴者層も高齢化しています。“視聴者の若返り”も一大目標にしているNHKからすれば恰好の打ち切り候補だと思うのですが、簡単には打ち切りにできない理由があるようです」(芸能事務所関係者、以下同)
理由のひとつめは、『家族に乾杯』で司会をつとめている小野文惠アナウンサーの存在だ。小野アナといえば、『ガッテン!』の司会も長年担当しているが、前述のように『ガッテン!』は先月、最終回を迎えた。もし『家族に乾杯』もなくなれば、小野アナのテレビのレギュラー番組がなくなってしまうことになる。
「小野アナウンサーはふたつの番組が長年続いた功労者のひとり。2020年に、その功績などが認められてNHKのアナウンサーとしては最高位の『エグゼクティブ・アナウンサー』に昇格しています。
また、地方の放送を強化するというNHKの方針で、小野アナは来月から故郷の広島放送局に異動して中国地方向けの番組を担当しますが、『家族に乾杯』の司会は続けるようです。
収録のたびに上京することになりますが、それほどNHKが小野アナを大事に考えているということだと思います」
25年以上司会を続けているふたつの番組を小野アナウンサーから同時に奪うのは、さすがに酷と考えたのかもしれない。
小野アナウンサーの存在以外にも、打ち切りにしづらいワケが『家族の乾杯』にある。それは、この番組が「貴重な番宣番組」だからだ。
“番宣番組”と“取り立て役”
「大河ドラマや朝ドラといったNHKのドラマは、舞台になっている地域のみなさんの協力が不可欠です。収録の合間の休憩場所やちょっとした食事を提供してもらったり、お祭りのシーンなどにエキストラとして出演してもらうこともあります。
多くの人に気持ちよく協力してもらうためには、地域全体がドラマで盛り上がる必要がありますが、その際に役立つのが『家族に乾杯』なんです」
『家族に乾杯』は笑福亭鶴瓶とゲストが各地を訪れ、地元の人たちと触れ合いながら旅をしていく番組。大河ドラマや朝ドラの出演者が、ゲストとして鶴瓶と一緒に自分の番組のロケ地を旅することも多い。人気者の鶴瓶とドラマの出演者が町にくれば大概は盛り上がり、ドラマの人気も増すことになる。
番宣として活用されるNHKの番組は、近藤春菜と足立梨花がMCをしている『土曜スタジオパーク』などもあるが、ドラマの舞台でロケをしてくれる番組は『家族に乾杯』のほかにはない。大河ドラマや朝ドラの成功にとっても大事な番組なのだ。
『家族に乾杯』が打ち切りを免れた3つめの理由。それは、受信料取り立て役としての存在だ。
「これは以前、局内でまことしやかに噂されていたことなのですが、『家族に乾杯』のロケはNHK受信料の未払い世帯が多い地域を選んで行っているというのです」
NHKにとって受信料は命綱。現在の受信料支払い率は80%以上だが、近年で最低だったのは2005年の69%。3割以上の世帯が支払いを拒否していたことになる。
実はその前年の2004年に『紅白歌合戦』の担当プロデューサーが制作費を不正使用していたことが週刊誌の報道によって発覚。しかも、NHK内部ではその不正に3年前から気づいていたのに放置していた。
その後も、岡山放送局の放送部長が架空の経費を着服していたりと、ずさんな体質が次々に明らかになった。
さらに、独裁的な言動で「エビジョンイル」と揶揄された当時の海老沢勝二会長の不遜な態度も世間の反感を煽り、2004年から受信料の不払いが続発。ついに2005年に支払い率が7割を切ってしまった。NHKにとっては死活問題である。
残るべくして残った『家族に乾杯』
「偶然かどうかはわかりませんが、ちょうどそのタイミングで『家族に乾杯』が毎週放送のレギュラー番組になりました。それまでは月1回でしたが、2005年4月から週1回の放送になったんです」
単純計算で、ロケに行く場所が4倍に増えたことになる。鶴瓶とゲストがロケに行けば子どもたちは大騒ぎをし、中高生はSNSで拡散する。
自分が映れば放送が気になるし、鶴瓶やゲストと話をすればスタッフからその場で連絡先を聞かれ、後日、名前や年齢確認の電話がきたりする。
もし鶴瓶やゲストを家に上げでもしたら、その日いなかった家族のインタビューをスタッフが改めて撮りにくることも。
ロケ地はしばらく『家族に乾杯』の話題でもちきりだ。当然、番組を見る機会は増えるだろうし、番組が終わってニュースが始まってもチャンネルを変えないことだってあったはずだ。NHKを見る時間が増え、不信感が少しずつ薄らいでいった人もいるだろう。
実際、週1回の放送になった翌年の2006年以降から徐々に未払いは減り、2015年には不祥事前と同じ水準の77%に支払い率は戻った。受信料の未払いが多いところにロケに行くという、受信料取り立て役としての「ウラ使命」が番組にあったとしてもおかしくはない。
NHKにとって、簡単には打ち切りにできないしがらみがある『鶴瓶の家族に乾杯』。この番組が放送終了になったときが、NHKの本当の「改革」なのかもしれない。