北朝鮮が発射した「極超音速兵器」ってなに? 知れば知るほど厄介な最新兵器!
北朝鮮がミサイル発射を繰り返しています。いわゆる弾道ミサイルにまじって、極超音速兵器なるものも発射されたとのことですが、果たしてこの「極超音速兵器」とはなんなのでしょう。現状、迎撃困難といわれる理由もあわせ解説します。
相次ぐ北朝鮮のミサイル発射
2022年に入り、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が相次いでミサイルを発射しています。1月5日に最初の一発が発射されたのを皮切りに、1月28日現在までに5回の発射試験が行われています。なかでも、1月5日と1月11日にそれぞれ発射されたミサイルに関しては、ニュースなどを通じて多くの注目が集まりました。
2022年1月5日に発射された、北朝鮮が極超音速ミサイルであると主張するもの(画像:KCNA via/Latin America News Agency via Reuters Connect)。
というのも、このとき発射されたのは、通常の弾道ミサイルではなく「極超音速兵器」という少々、聞きなれない種類のミサイルだったためです。それでは、この極超音速兵器とは一体、何なのでしょうか。
そもそも「極超音速兵器」とは
極超音速兵器とは、速度マッハ5(気温摂氏15度下で6120km/h)以上で飛翔する兵器のことで、これには「極超音速滑空兵器(HGV)」と「極超音速巡航ミサイル」というふたつの種類が存在します。HGVは、弾道ミサイルの弾頭部分に工夫が加えられたもので、ブースターから切り離された後に弾頭が高度を上下させ、グライダーのように滑空して飛翔します。一方で極超音速巡航ミサイルは、ブースターによって加速されたのち内部に組み込まれたエンジンで燃料を燃焼させることで飛翔します。
北朝鮮は、2021年1月に開催された朝鮮労働党第8回大会において、すでに極超音速兵器の開発を明言しています。そしてこれに基づいて現在、北朝鮮が開発し発射しているのが先ほど説明したうちのHGVで、いまのところこれにはふたつの種類があるようです。
ひとつは、先ほど触れた2022年1月5日と11日に発射されタイプ、そしてもうひとつは2021年9月28日に発射されたもので、こちらは「火星8」という名称がつけられています。前者は円錐形、そして後者は細長い三角錐に近い形と、それぞれ弾頭形状に違いがあるのがポイントです。
HGVと弾道ミサイルは何が違う?
しかし、このHGVと北朝鮮がこれまで発射してきた弾道ミサイルとでは一体、何が違うのでしょうか。
まず速度を見てみると、1月11日に発射されたミサイルに関して、防衛省はその最大速度をマッハ10、飛翔距離を700kmもしくはそれ以上と分析しています。一方で、通常の弾道ミサイルは射程1000km級のもので最高速度がマッハ9程度とされていますので、速度に関してはそこまで大きな違いがあるわけではありません。
アメリカ会計検査院の極超音速兵器に関する報告書より、極超音速兵器と弾道ミサイルの軌道イメージ(画像:アメリカ会計検査院)。
両者の最も大きな違いは、その最高高度と軌道です。通常の弾道ミサイルの場合、射程1000km級であればその最高高度は約300kmとされています。ところがHGVの場合、その最高高度は数十kmと、同等の射程の弾道ミサイルと比べて高度が低いのです。さらに、弾道ミサイルはその名の通り、一度発射されると弾頭部が弓なりの形をする弾道軌道を描いて飛翔しますが、HGVの場合は弾頭が切り離された後に飛翔方向を上下左右に変更することが可能です。
実際に、1月11日に発射されたミサイルに関して、岸 信夫防衛大臣は翌12日に開かれた会見で「当該ミサイルは、通常の弾道ミサイルよりも低い最高高度約50km程度を最大速度約マッハ10で飛翔し、また、左方向、北方向ですけれども、への水平機動も含め、変則的な軌道で飛翔した可能性があります」と説明しています。ただし、防衛省の公式見解としては、このとき発射されたミサイルをHGVに分類するかについてはいまのところ明言していません。
ミサイル防衛が直面するHGVの問題
このように、HGVは「低高度をマッハ5以上で飛翔し、かつ機動可能」という特徴を持っているため、既存の弾道ミサイル防衛(BMD)システムでは対応が難しいのではないかとの指摘もあります。
たとえば、ミサイルを早期に捕捉する地上配備型の早期警戒レーダーでは、弾道ミサイルであればその到達高度が高いため、比較的早い段階で地平線の上に弾頭が出現し、その飛翔を早期に探知することができます。ところが、HGVの場合は到達高度が低いため、かなり接近した段階ではじめて地平線の上に弾頭が姿を現すことになります。つまり、弾道ミサイルに比べて探知が大幅に遅れるというわけです。
また、迎撃ミサイルによる迎撃にも問題が生じます。現在、一般にBMDに関してはイージス艦に搭載されている海上配備型の迎撃ミサイル「SM-3」と、地上配備型の迎撃システムである「PAC-3」や「THAAD(終末高高度防衛)」という2段、3段構えの体制がとられています。
海上自衛隊の護衛艦「こんごう」から発射されるSM-3ミサイル(画像:アメリカ海軍)。
このうち、SM-3は高度70km以下を飛翔する目標を迎撃することができないといわれており、HGVに対応することが極めて難しいとされています。また、地上配備型システムに関しても、高度の問題は解決される一方で、その防護範囲はSM-3と比較して狭まってしまうほか、HGVが機動可能であることから、その迎撃が困難となる可能性もあります。そのため、現在アメリカではこうした問題に対処するべく、新型迎撃ミサイルの開発や衛星を用いた探知システムの構築を進めています。
実は日本も極超音速兵器を開発中
この極超音速兵器、実は日本も開発を進めています。それが、「島しょ防衛用高速滑空弾」と「極超音速誘導弾」です。
防衛装備庁の極超音速兵器を含むスタンドオフ兵器の開発に関するロードマップ(画像:防衛装備庁)。
島しょ防衛用高速滑空弾は、極超音速兵器としてはHGVに分類されるもので、2026年から配備が開始される予定の「早期装備型(ブロック1)」と、2030年代に運用が開始される見込みで、ブロック1から弾頭形状などを変更して射程や速度などを向上させる「能力向上型(ブロック2)」という2段階の開発が行われます。
一方で極超音速誘導弾は、現在、防衛省が開発を進めている「デュアルモードスクラムジェットエンジン」を用いて飛行する極超音速巡航ミサイルです。デュアルモードスクラムジェットエンジンは、超音速(マッハ1.3からマッハ5)の速度域で効率よく動作するラムジェットエンジンと、極超音速の速度域で動作するスクラムジェットエンジンを組み合わせたもので、これにより幅広い速度域で効率よく飛行する巡航ミサイルの実現が期待されています。
このほかにも、アメリカや中国、ロシアも極超音速兵器の開発と配備を進めていて、とくに中国は「DF-17」と呼ばれるHGVをすでに配備しているなど、日本の安全保障にとっては大きな脅威となっています。いまや、極超音速兵器は日本を取り巻く安全保障環境におけるひとつのトレンドとなっているのです。