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《こんなに稼げるの?》

【写真】ラノベ作家が首をかしげる『ラクして稼げる職業ランキング』がコチラ

 ネットをザワザワさせたのは、1月22日に放送された『バラまき!!〜新データ調査バラエティ〜』(TBS系)。

「年収はサラリーマンの平均くらい」

「『土曜☆ブレイク』という単発番組枠の企画で、MCを女優の松村沙友理さんと平成ノブシコブシの吉村崇さんが務めていました。人手や資材を“バラまく”ことでデータを集めてみるという趣旨です」(テレビ誌ライター)

 テーマの1つに“子どもが憧れる仕事の中で、いちばんラクして稼げる職業は何なのか?”というものがあった。

「実際に仕事に就いている人に、睡眠時間や消費カロリーを測れるスマートウオッチをつけてもらって調査。総合ランキングでは、2位の消防官や3位の建築家を抑えてラノベ作家が1位になったんです」(同・テレビ誌ライター)

 “ラノベ作家”って、いったい何のこと?

ライトノベル作家の略称ですね。ライトノベルとは、アニメ系のイラストを多用している若者向けのエンターテイメント小説のこと。マンガのように誇張したキャラクターや設定が魅力で『涼宮ハルヒ』シリーズが有名です」(出版関係者)

 文章を書く仕事だから、身体を動かすことが少なくてカロリー消費が少ないのは想像に難くない。衝撃だったのは、莫大な平均年収の額だった。

「ラノベ作家の平均年収が8085万円と紹介されていました。調査対象となり、実際に番組からも取材を受けていた作家は“ラクじゃない”“自分の年収はサラリーマンの平均くらい”と語っていたんですが……」(前出・テレビ誌ライター)

 この金額は、いったいどこから導き出されたのか。

「番組内で年収の情報源は提示されていませんでしたが、職業別の年収を紹介しているあるサイトではラノベ作家の平均収入が6070万円から8085万円と紹介されていました。おそらく、これを参考にしたのでしょう」(前出・出版関係者)

 このサイトの算出方法はかなりアバウトで……。

編集者とのやりとりだけで3〜4か月

「ラノベの中でも特に売れた作品の総発行部数と書籍価格に、印税率10%を掛けて算出しているようです。100万部を超えるような作品を根拠に平均年収と言ってしまうのはちょっと乱暴だと思います」(同・出版関係者)

 実情を知るため、20年近いキャリアを持つラノベ作家のAさんに話を聞いた。

「ここ数年の刊行ペースは年2〜3冊で、年収は700万円ぐらい。刊行物の印税や過去のヒット作の電子書籍印税が主な内訳ですね」

 やはり、ラノベ作家を続けるのはラクではないようだ。

「私と同じ時期にデビューした方で残っているのは、片手で数えられるくらい。書いている途中で大幅な改稿を要求されることもあります。何でも好きなように書けるわけではありません」

 新人作家はもっと厳しい。20代半ばでデビューして作家歴2年目のBさんは、実家で親と同居しながら専業作家として活動している。

「去年は2冊出して、年収はだいたい200万円ほど。そのうち電子の印税は30万円でした。実家暮らしだからなんとか続けられていますね」

 1冊の本にするには400字詰め原稿用紙にして130枚程度が必要。Bさんの場合は執筆に約1か月を要するというが、書き始めるには“編集会議”を通さなければならない。

「執筆する前にキャラやストーリーをまとめた“プロット”を作り、担当編集者と打ち合わせをしますが新人作家はなかなか企画が通りません。編集者とのやりとりだけでも3〜4か月かかります」

 小説だけでは生活できず、ほかの仕事との兼業で作家をしている人も多い。Cさんは事務職の契約社員を続けながらラノベを書いている。

“ラクに稼げる”イメージがひとり歩き

「ネットで小説を発表していたら出版社から声がかかってデビュー。仕事終わりや休日に小説を書いているので休みはありませんね」

 カロリー消費が少なくても苦労は多い。

「身体は動かさないけど、締め切りに追われている状況は心の負担が大きいんですよね。私も知り合いの作家さんも、帯状疱疹やストレス性胃腸炎になりました」

 いずれの作家も、ラクして稼げるとは言い難いのが現状のようだ。白鳥士郎氏も“年収8000万円説”には疑問を呈するひとり。彼は、学園コメディー『のうりん』が'14年に、少年棋士と少女の交流を描いた『りゅうおうのおしごと!』が'18年にアニメ化されたラノベ作家だ。

「純文学などは作家にファンがついたりしますが、ラノベはイラストレーターや作中のキャラクターにファンがつくことがほとんど。大ヒット作を書いた作家でも、新作が売れないというケースも多々あります。人気が出た作品の続刊を定期的に出すことでようやく生活が安定しますが、それも数年続けばいいほう。基本的に薄利多売の商売なんですよ」

 小説家は人気商売。将来の不安が拭えなかった白鳥氏は『のうりん』シリーズの累計部数が100万部を超えても、兼業作家だったという。

「専業作家になれたのは'19年ごろ。仕事が安定したからではなく、そのころに生まれた子どもの育児をするため。今でも妻は正社員として働き、私も家事と育児を分担しながら執筆しています。ラノベ業界に憧れてくれることはありがたいことだと思いますが、ラクに稼げるというイメージが独り歩きして、世間から誤解されないことを望みます」

 きらびやかな夢を描くライトノベルは、現実と戦う作家が身を削って生み出す“ヘビー”な労力の賜物のようだ。

白鳥士郎 ライトノベル作家。将棋を題材にした代表作『りゅうおうのおしごと!』は'16年と'17年『このライトノベルがすごい!』文庫部門1位。'18年にはアニメ化された。