Adoの1stアルバム『狂言』がリリースされた。「2021年新語・流行語大賞」トップ10に選ばれるなど、もはや社会現象にまでなったAdoのメジャーデビュー曲「うっせぇわ」をはじめ全14曲が収録されている。

同曲は現在までにミュージックビデオとストリーミングの累計再生回数が4億を突破。この曲を提供したのがsyudouだ。ボーカロイド・シーンで異彩を放つアーティスト、syudouの曲のどこに魅力を感じているのか、あらためてAdoに語ってもらった。

※この記事は現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.17」特集「syudouの世界」に掲載されたものです。

ーAdoさんは2019年にsyudouさんの「邪魔」を歌ってみた動画でアップされていましたが、syudouさんの曲を認知し始めたのはいつぐらいなんですか?

Ado:「邪魔」を投稿したのは高校2年生ぐらいの時で。ぼんやりとですが、それより前からsyudouさんのことは存じ上げていた気がします。高校1年生の後半くらいにはもう知っていたのかなって思いますね。

ーその時はもう歌い手として活動していた?

Ado:はい。歌い手として、3年目に突入したぐらいですかね。歌い手としての自分に少し慣れてきたかな、ってくらいの時期でした。

ー「邪魔」はすごくインパクトのある曲ですけど、Adoさんの歌唱もいろんな表情があって。Adoさん的にこの曲を歌うってことはチャレンジングだったのでしょうか?

Ado:「邪魔」の前に、和田たけあきさんの「キライ・キライ・ジガヒダイ」という楽曲を歌っているんですけど、その曲と「邪魔」を歌った時の感情は似ている気がします。歌っているボカロの特徴も作品の世界観も全然違いますが、人間の中にあるネガティブな部分、切ない心とか怒りとか憎悪とか、そういった部分では私の中で通ずるものがある気がします。だから新しい曲調ってよりは、その二曲は単純に歌いたかったから歌った。憎悪をこんなにそのまま表現している歌があるなんて、自分も歌いたい!って思って歌いました。

ーいろいろなボカロPの曲を歌っていますが、syudouさんが作るボカロ曲にはどんなイメージを持っていますか?

Ado:希望に満ち溢れた明るいものってよりは、皮肉とか、ディープなところを突いたダークな世界観だったり、人の悪いところとか、触れていいのかわからないようなネガティブな部分をかっこよく描いていて。ありのまま、包み隠さずストレートに表現している楽曲も多くて、面白いなって思います。やっぱりどの曲もはじめて聴いた時は衝撃を受けますね。

基本は本家さま(原曲)の世界観に合わせる

ーそもそもボカロ曲のどういうところが好きなんですか?

Ado:私はボカロ曲も好きですけど、単純に初音ミクとか鏡音リン・レンとか、ボカロそのものが好きなので。その根本があってボカロ曲が好きなところはありますね。初音ミクをすごくうまく表現できてる曲に出会ったら、「初音ミクうまっ! うわー!」とか思わず口に出てしまうくらい好きです。ボカロPさんの手による調教でボカロの声を遊ばせることによって、ボカロが自分の意思で自由に人間のアーティストさんみたいに歌っているように聴こえて、ボカロが本当に生きてるみたいで。「ミクにこの声出させるんだ、最高だな」とか言ったり。一応ずっとボカロは聴いていますが、新しい曲に出会うたび日々興奮します。

ーボカロ曲を自分の声で歌う時って、こういう風に歌ってみようっていうリファレンスは何か考えるんですか? それよりも感覚に任せる感じですか?

Ado:前はこう歌ってみようっていうのがあったんですけど、最近はそのボカロの声質に合わせたり、基本はその本家さま(原曲)の世界観に合わせるようにしたりして歌っています。でもだからといってすごく考えてるわけでもないので、半々ですね。感覚と思考とが半々でやってるところはあります。ミクはこう歌ってるけど、別のフレーズでは私もちょっと遊んで表現しようかな、とか、ここの歌詞は多分こういう心情を描いているから、声もちょっと切なく聴こえるようにしようかな、怒って聴こえるようにしようかなってやったり。

ーなるほど。そういうAdoさんの歌への考え方とsyudouさんの楽曲への取り組み方のコラボレーションの賜物が「うっせぇわ」だと思うんですけど、このメジャーデビュー曲がsyudouさんから送られてきた時はどう思いましたか?

Ado:はじめてsyudouさんの「うっせぇわ」のデモを聴いた時、「うわ、これでデビューしたら面白いな。すごい曲がsyudouさんから送られてきた」って思いました。この曲でメジャーデビューしたいって。絶対やるぞ、って気持ちがありましたね。

ーその気持ちと曲が重なったわけですね。

Ado:そうですね。syudouさんが使う初音ミクは、いい意味でシンプルでストレート。静かに歌うからこそ、曲の歌詞とか、憎悪に塗れた強烈な歌詞とのギャップで、静かな怒りが表現される。その淡々と歌う感じがいいなって思いました。

ーsyudouさんがAdoさんの歌を聴いて120点の完成度だったと語っていたのですが、Adoさん自身も「これはすごいものができたぞ」という感覚はありました?

Ado:すごいのができたと同時に私はすごくネガティブなので、本当にあの歌い方でよかったのかなって落ち込む時期もあったり。結局どっちだったのかはわからないですね(笑)。でももちろん、メジャーデビューでこういった歌詞の楽曲歌ってる人なかなかいないぞって思いはありましたかね。

Adoを通してボカロをいろいろ知ってもらいたい

ーそういう感じでどこか俯瞰で物事を捉えられるのって、ボカロ曲を歌ってみる際に必要なことなのかもしれませんね。ちなみにsyudouさんの曲で、「うっせぇわ」や「邪魔」以外にAdoさんが好きな曲というと?

Ado:「フラミンゴ」「キャラバン」「ボニータ」とか好きなんですけど……やっぱり「アンチテーゼ貴様」です。初音ミクバージョンももちろん好きなんですけど、アルバム『最悪』に入ってるsyudouさん本人歌唱のものでは歌詞の特徴が変わってて、斬新でした。

ーAdoさんの話でいうと、2022年は「うっせぇわ」も収録される1stアルバム『狂言』が出て、初のワンマンライブも予定されていますが、その他に何かやりたいことはありますか?

Ado:なんか変なことをしたいなって。具体的に何かっていうのは考えられてないですけど、特殊なイベントとかやったら面白いかなって思います。こんなに多くの人に注目していただいてAdoって名前が大きくなったのならば、みなさんをもっと楽しませることができたらいいなって思いますし、Adoっていうものを通してボーカロイドを全然知らない方にも、いろいろ知ってもらいたい。Adoを通して何ができるかってことを2022年は考えていきたいですね。

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『狂言』
Ado
ユニバーサルミュージック
発売中

Ado
19歳の歌い手。社会現象にもなったメジャーデビュー曲「うっせぇわ」を2020年10月にリリース。1stアルバム『狂言』には、同曲の他、ストリーミング1億回超えのロングヒット中の「ギラギラ」と「踊」、「レディメイド」と「夜のピエロ」、さらには映画『かぐや様は告らせたい ファイナル』の挿入歌「会いたくて」、テレビ朝日系ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』の主題歌「阿修羅ちゃん」など全シングル曲と、さらに新曲7曲を加えた全14曲を収録。
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