トンガにおける火山の大規模噴火災害に対し、自衛隊が現地の支援活動のために派遣されますが、これはいわゆる「災害派遣」とは異なるものです。どのような根拠で、そしてどのような手続きを経て、派遣されるのかを解説します。

岸防衛大臣が自衛隊派遣を命令

 2022年1月15日(土)、南太平洋に浮かぶ島国トンガの首都ヌクアロファの北約65kmに位置する海底火山が噴火し、これにより発生した地震や津波、火山灰によって同国は大きな被害を受けました。トンガ政府によると現時点(1月20日20時現在)までに3人が死亡したほか、多くの負傷者が発生しているようです。日本の外務省によると、日本人が被害に遭ったという情報は確認されていないとのことです。


海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(画像:海上自衛隊)。

 この未曽有の大災害を受けて、発災から5日後の1月20日(木)、岸防衛大臣は自衛隊の派遣を命じました。派遣されるのは、航空自衛隊のC-130H輸送機2機と、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」、およびそれに搭載される陸上自衛隊のCH-47輸送ヘリコプター2機で、これらにより飲料水や物資の輸送を実施するほか、近隣のオーストラリアにも現地調整所を設置して、現地における情報収集や連絡調整を行う予定です。派遣部隊の規模は合計約300人程度と見られています。

 自衛隊による災害への対応といえば、都道府県知事などからの要請に基づいて行われる「災害派遣(自衛隊法第83条)」がよく知られているところですが、今回は海外で発生した災害に対応するもので、その根拠を災害派遣に求めることはできません。そもそも、どのような形であれ自衛隊が海外で活動するわけですから、それには当然、法的な根拠が存在するはずです。それでは、今回の活動の法的根拠とは一体、何なのでしょうか。

なぜ自衛隊が海外に? 自衛隊による「国際緊急援助活動」とは

 今回、自衛隊が実施するのは「国際緊急援助活動」と呼ばれるものです。国際緊急援助活動とは、海外で大規模な自然災害や人為的災害(石油の流出など)が発生した、あるいはまさに発生しようとしている際に、被災国政府または国際機関からの要請に基づいて実施されるもので、具体的には、「国際緊急援助隊の派遣に関する法律(JDR法)」第2条に定められている通り、「(1)救助活動」「(2)医療活動(防疫活動を含む)」「(3)その他災害応急対策及び災害復旧のための活動」を行うものです。


航空自衛隊のC-130H輸送機は不整地への着陸能力を有する(画像:航空自衛隊)。

 そして、JDR法第4条2項および自衛隊法第84条の5に規定されている通り、外務大臣からの協議を受けた場合に、防衛大臣は自衛隊に対してこの国際緊急援助活動、およびそれを実施するための人員や資機材などの輸送を命じることができます。そのため、自衛隊では国際緊急援助活動としての医療活動や輸送活動、さらに浄水活動などを行う態勢を常時、維持しており、国内での災害のみならず、こうした海外での災害に対しても常に備えているのです。

 これまで、自衛隊は国際緊急援助活動を計23回実施してきていますが、直近の例では2020年にオーストラリアで発生した大規模森林火災に際して航空自衛隊のC-130H輸送機2機を派遣、現地での人員輸送などを実施しました。

活動の前提となる被災国政府からの要請 その必要性とは

 ところで、この国際緊急援助活動を実施するためには、その前提として被災国政府または国際機関からの要請が必要とされていることはすでに述べましたが、この「要請」という要件はなぜ設けられているのでしょうか。

 これについて、国際緊急援助活動にも携わっている独立行政法人「国際協力機構(JICA)」の説明によると、「(1)災害が発生した場合には、被災国自身が救済に関して中心的な役割を担う第一義的な責任があること」「(2)被災国の事情や都合を考えない一方的な支援は、かえって混乱を招くおそれがあること」というふたつの理由から、こうした活動は被災国政府からの要請に基づくことになっているとされています。

 また、これは国際的にも確立された考え方で、たとえば1991(平成3)年12月に採択された国連による人道支援に関する国連総会決議でも、被災国の主権や領土保全の観点から、人道支援の実施には被災国からの同意の存在が求められています。


陸上自衛隊のCH-47JA「チヌーク」輸送ヘリコプター(画像:陸上自衛隊)。

 新型コロナウイルスの感染急拡大が世界的な問題となっているなかでの活動は非常に困難なものとなることが予想されますが、派遣される隊員の方々の無事の任務完遂と、被災地の1日も早い復旧、復興を心から願うばかりです。