戦車の弱点トップを狙うには? 試行錯誤の末 幻の戦車駆逐車が示したごく単純な解答
戦車が登場して100年あまり、研究され尽くした攻略方法のなかでも有効なもののひとつが弱点である上方への攻撃です。これを実現しようとする試行錯誤のなかに、文字通り「シンプルに考えたらそうなるよね」という車両が存在しました。
「上」を狙うなら上から撃てばいいじゃない
戦車の特徴はとにかく「硬い」ことです。現代戦車の装甲は厚い鋼鈑というだけでなく、複数の素材を組み合わせた複合装甲や、自ら爆発してダメージを相殺しようという反応装甲なども使われています。
戦車を上から狙うための、伸縮タワーに無人砲塔を載せた2000年駆逐戦車計画案(画像:クラウス・マファイ・ウエッグマン)。
とは言うものの、戦車全体が厚い装甲で覆われているわけではありません。装甲を厚くすれば重くなるばかりで、戦車の機動性は削がれます。そこで少しでも軽量化するために、弾に当たりやすい前面が一番厚く、弾が当たり難い底面や背面、上部は比較的、薄くなっているのが普通です。正面装甲を打ち破るのは難しいですので、弱点となる装甲の薄い部分を攻撃しようというシーソーゲームはずっと続いています。
Ju-87G「スツーカ」(画像:Bundesarchiv、Bild 101I-728-0323-24A/Doege/CC-BY-SA 3.0、CC BY-SA 3.0 DE〈https://bit.ly/3JbKT1r〉、via Wikimedia Commons)。
弱点のひとつである上部を狙おうというのが、いわゆる「トップアタック」です。第2次世界大戦期には、大口径機関砲を装備したドイツのJu-87G「スツーカ」などの対戦車攻撃機が実戦投入されます。戦後に攻撃ヘリコプターが登場し、最近(2022年現在)では自爆ドローンも空から戦車を襲います。動画サイトに投稿されたドローン映像を見ると、空から狙われる戦車の脆弱さが良く分かります。
戦車の天敵、攻撃ヘリコプター。ロシア軍の対戦車用Mi-28「ハボック」(画像:ロシア国防省)。
1979(昭和54)年に放映されたSFアニメの『機動戦士ガンダム』に「マゼラアタック」という戦車が登場します。砲塔だけ車体から分離して垂直上昇飛行し、高所から射撃できるという設定でした。SFアニメらしい突飛な設定で、攻撃ヘリコプターと戦車のハイブリットといえるかもしれません。
砲塔だけ上昇飛行させるという「マゼラアタック」は架空の戦車ですが、似たようなアイデアが実際にありました。森林や建物の背後に隠れ、高所作業車のように伸縮タワー式で砲塔だけ持ち上げて、高所から敵戦車を攻撃しようという発想でした。いま見ると異形のいわゆるトンデモ兵器のようですが、西ドイツ(当時)が1980年代に「パンター戦車駆逐車計画」として真面目に研究していました。
試作車は好成績だった「パンター戦車駆逐車」計画の顛末
冷戦下の当時、西ドイツは東西対立の最前線でソ連戦車群の脅威に直面しており、対戦車戦闘の方法を色々と工夫していました。一方で、航空戦力による対戦車戦闘は一過性で持続的な防御線を築くことができないと考え、攻撃ヘリコプターの整備にはあまり積極的ではありませんでした。「パンター戦車駆逐車計画」では、高度差を使って物陰に隠れて攻撃する攻撃ヘリコプターと持続的な防御線を築ける戦闘車の利点を両立させることを考えていたようです。
クラウス・マファイ・ウエッグマン社の「パンター戦車駆逐車」コンセプトスケッチ(画像:クラウス・マファイ・ウエッグマン)。
「パンター戦車駆逐車計画」の伸縮タワー砲塔は、クラウス・マファイ社が開発します。有人式と無人式があり、武装は射撃時の反動などを考慮し対戦車ミサイルとなります。クラウス・マファイはこの駆逐車をできるだけ安価に抑え、輸出することも目論んで、車台はMAN社の8×8トラックを採用。伸縮タワー砲塔は最高12.5mの高さまで延ばすことができ、HOT対戦車ミサイルを搭載し、試作車のテストでは2000mから4000mの射程で良好な成績を収めました。
対戦車ミサイル砲塔を伸縮タワーに装備した「パンター戦車駆逐車」の試作車。車体は「レオパルド1」戦車(画像:クラウス・マファイ・ウエッグマン)。
西ドイツ陸軍はトラック車台ではなく装甲装軌の戦闘車を要求し、ウエッグマン社が退役するレオパルド1の車体を流用する案を提案します。西ドイツ陸軍はこれを2000年代初頭に実用化することを計画しますが、21世紀になる前に冷戦終結の予算削減でこの計画はキャンセルされました。
「パンター戦車駆逐車」計画キャンセルの背景 時代が先に行き過ぎた
20世紀の終わりまで異形ともいえる「パンター戦車駆逐車計画」が進められていたのは興味深いことですが、そうこうしているあいだに、こんな無理をしなくても携帯対戦車ミサイル自体が上昇して戦車上面を狙うトップアタックモードが実用化されました。1985(昭和60)年から生産されたスウェーデンのボフォース RBS 56 BILL対戦車ミサイルが最初とされます。このミサイルは照準器で狙った照準線の約0.75m上を飛翔し、目標上部で降下して命中します。
発射された瞬間の「ジャベリン」対戦車ミサイル。ミサイル弾体1発1万7500ドル(約183万円)也(画像:アメリカ陸軍)。
アメリカの「ジャベリン」対戦車ミサイルは発射後、高度約150mまで上昇して飛翔し、急降下して目標上部に命中します。日本の陸上自衛隊も同じ機能を持った、01式軽対戦車誘導弾を装備しています。
「ジャベリン」対戦車ミサイルのトップアタックモード飛翔イメージ。射距離1200m以上で高度150mから160mまで上昇するのが分かる(画像:アメリカ陸軍)。
21世紀にはドローンという強敵が出現します。対戦車ミサイルのように敵を発見してから発射されるのではなく、継続的に自律飛行して目標を探し、探知するとオペレーターの指示で目標に突っ込みます。「徘徊型爆弾」とか「カミカゼドローン」などと呼ばれる厄介な敵です。上空に滞空して発射点もわからず、命中するまで狙われていたこと自体に気が付かないこともあります。命中時の映像が動画投稿サイトでも広く拡散され、戦車のやられ役イメージを補完しているようですが、実際にはドローンも妨害に脆弱で、対ドローン兵器の進歩や、使用できる気象条件も制限されるなどイメージするほど万能ではありません。
イスラエルIAI社「ハーピー」徘徊型爆弾。航続時間は9時間とされる(画像:Jastrow、Public domain、via Wikimedia Commons)。
戦車もトップアタック対策として、上部に装甲を追加して対抗しています。最近ロシアでは、日除けルーフのような追加装甲を装備したT-72戦車が出現しました。現場部隊では「サンバイザー」と呼ばれ、乗員には居住性向上という意味では好評だといいますが、公式には何もコメントしていません。
しかし骨組みの日傘の様な防護柵までゴテゴテくっつけた戦車は、いかにも慌てて対策した感が否めません。姿形も磨き上げられた性能の一つだと思います。こんな姿を見ると、やはり戦車は時代遅れになったのかなとも思えてしまいます。