女性の不調や倦怠感は鉄不足? ホリエモン×秋根良英医師オンライン対談

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鉄分の不足によって起こる「鉄欠乏性貧血」。統計によれば、月経のある日本人女性の約5人に1人が鉄欠乏性貧血と推定されるようです。疲れやすい、イライラするなど様々な症状につながる鉄不足は、月経や過剰なダイエットなどが原因としてあげられます。今回は堀江貴文氏と精神神経科医の秋根良英先生が対談形式で、特に症例の多い女性のうつ、そしてメンタルの不調や倦怠感と鉄不足の関係についてお話しいただきました。

※この記事は2020年5月13日に実施された対談を収録しています。

実業家
堀江 貴文(ほりえ たかふみ)

1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発やスマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」などのプロデュースも手掛ける。2016年、「予防医療普及協会」の発起人となり、現在は同協会の理事として活動。「予防医療オンラインサロン YOBO-LABO」にも深く関わる。同協会監修の著作に、『健康の結論』(KADOKAWA)、『ピロリ菌やばい』(ゴマブックス)、『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)など。

精神科専門医
秋根 良英(あきね よしひで)

慶應義塾大学医学部卒業、同大学医学部精神・神経科、科学技術庁(現 独立行政法人)放射線医学総合研究所、科学技術振興事業団戦略的基礎研究などにて、精神科診療、在宅医療の臨床や脳機能画像研究に携わる。医学博士、健康マネジメント学修士、精神科専門医・指導医、精神保健指定医。著書に「すぐ調 精神科 」(医学書院)、「鉄のすすめ 元気になる秘訣」など。

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鉄不足に効果的なのは、やはりあの食材!?

堀江

女性の鉄不足はなぜ起こるかというと、女性は月経があるから、鉄が不足し精神的にも不安定になりやすいという理解でよろしいですか? そして女性が鉄不足を防ぐには、ピルを飲んで月経を止める方法がありますよね。

秋根

鉄が不足していると倦怠感が出やすくなるんですよね。鉄を積極的に摂取するという方法もあります。

堀江

鉄は積極的に摂取できるものなんですか? 毎月、胎盤になるはずのところが剥がれて、血が大量に出るわけじゃないですか? あの出血を補えるものなんですか? 1回の生理で失われる鉄分はどのくらいなんでしょうか?

秋根

月経過多が見られる方もなかにはいらっしゃるので一概には言えないのですが、月経1日あたりで約0.75mgの鉄が排出されます。

堀江

そんなに大きい量ではないですね? そんな微量でも変わってしまうんですね。

秋根

毎日、体を出入りする鉄は多くないんです。通常は食べ物などから1mgを摂り入れて、1mgが排出されています。月経で+0.75mg出て行くとかなり不足しやすい状況です。

堀江

ヘモグロビンの中に、鉄の原子は入っているんですよね。

秋根

へモグロビン以外にも、鉄が体内に分散して貯蔵されているんですけど、鉄は体内に入りにくいので、再利用する必要があるんです。鉄にも何種類かありますが、ヘム鉄というものが、動物性の鉄で比較的体内に吸収されやすいので、それらを積極的に摂ることが大事ですね。

堀江

例えばどのような食品に含まれているのですか?

秋根

動物性なのでお肉です。レバーが一番多く鉄分が含まれています。菜食主義の方やビーガンの方、ダイエットで野菜中心の生活をされている女性、生理が始まっている女性は、鉄不足の傾向が強くなってしまいます。

堀江

女性の生理で出てくる血液も、「ヘム鉄」にあたるんですかね? ヘム鉄はどのような形で体内に取り込まれるんでしょうか?

秋根

生理によって、血液のヘモグロビンのなかに含まれている鉄も出てしまいます。鉄は、十二指腸から小腸の上部で取り込まれて、吸収されます。鉄には動物性(ヘム鉄)と、植物性(非ヘム鉄)の2種類があって、吸収される経路が違うと言われています。ほうれん草のような植物系の鉄は吸収が悪いんです。「ビタミンCと一緒に摂ると良い」と言われている鉄も「非ヘム鉄」です。レバーを嫌いな女性って多いと思うのですが、そのような方は鉄不足になりやすい傾向にあります。

また、貧血の診断がされていなかったり、健診でなにも引っかからなかったりする女性の中にも、鉄不足の方は結構いらっしゃいます。疲れやすい、イライラする、眠れないといった症状などがあり、貧血という診断には引っかからないが鉄不足だという女性が、比較的心療内科に来やすいという印象があります。

鉄不足によって起きるさまざまな体のサインを知ろう

堀江

貧血は、具体的にどのような状態なんですか?

秋根

赤血球が小さくなったり、大きくなったり、作られる数が少なかったり、通常よりも多く壊されてしまったりすることなどが原因で、血液内で酸素を運搬するという機能が低下してしまう状態です。よく「立ちくらみ」のことを貧血と言いますけども、実際には、鉄欠乏性貧血は血液検査でヘモグロビン(色素の濃さ)やフェリチン(鉄の貯蔵に必要な鉄結合性蛋白)、UIBC(不飽和鉄結合能)などの数値を見て、総合的に判断します。

血液検査結果を見る際、自分の数値が横に書いてある数値の範囲に入っているかどうかで判断しているかと思いますが、この数値の範囲は何を表していると思いますか? 「正常値」と思っていませんか? 正常値だというのは、理想的な値という意味を含めていると思いますが、この範囲が正常値であるとは通常書いてありません。「基準値(基準範囲)」と書いてあります。これは、わかりやすく言うと「みんなと同じ」という意味であり、実は正常と異常の区別したり、特定の病態有無を判断する値ではありません。

これに対して「臨床判断値(診断閾値、治療閾値、予防医学閾値)」という基準があります。これらは特定の病態について、その診断、予防や治療、予後について判定をおこなう、より臨床的意義のある基準です(日本臨床検査医学会ガイドラインJSLM2018(基準範囲・臨床判断値))。

基準範囲ではなく、臨床判断値といったより臨床的意義のある範囲を考慮して評価し判断する方が適正な場合があります。特に鉄不足については慎重に判断をした方がよいようです。すごく疲れやすいから、うつかと思って心療内科を受診される方のなかには、鉄不足が倦怠感の理由になっていたりする場合もあるので、そのような患者さんには、最初に鉄不足を補うことをお勧めすることがあります。

堀江

鉄分不足で倦怠感が出る方もいらっしゃることはわかりました。鉄は、精神的にどういう作用を及ぼすのですか?

秋根

鉄は、血液以外にも、脳、皮膚、爪といった場所でも必要です。鉄不足だと、コラーゲンの生成が悪くなるので、あざや肌荒れ、爪の変形といったものが起こりやすくなってしまいます。

脳ではドーパミンノルアドレナリンセロトニンメラトニンといった神経伝達物質を作るときに鉄が必要になりますので、鉄が不足していると、これらが円滑に作れなくなりバランスを崩してしまいます。結果として、鉄不足が倦怠感、集中力低下などの症状としてあらわれるんです。

堀江

鉄は、脳で触媒的に使われるということですか?

秋根

そうですね、正確な名称は分かりませんが補酵素という形で鉄は使われます。

鉄不足が関係している可能性のある有名な睡眠障害として「レストレスレッグズ症候群」というのがあり、眠る前になると脚がムズムズして眠れなくなります。心療内科に来るときの悩みとしては、疲れやすい倦怠感があるイライラする、そして眠れないといった症状が結構多く、みなさん、うつなどを疑って心療内科に来られますが、血液検査をして鉄不足もチェックするようにしています。

貧血のいわゆる一般的な基準だけで診断してしまうと鉄不足を見逃してしまう可能性があります。鉄を補充して倦怠感が取れる方もいらっしゃるので、そこは見逃さないように気をつけていきたいところです。

堀江

鉄不足の方は多いんですか?

秋根

結構多いですね。厚生労働省の国民健康・栄養調査を見ても、その傾向があります。鉄不足の可能性を検討するのに血液検査のフェリチン値というものがあり、単独で鉄不足を判断することはできないのですが目安にはなります。

このフェリチン値の「基準範囲」は検査会社によって異なるようなのですが、例えば下限に近い20ng/ml未満でみると、20~49歳の女性の半分以上は鉄不足の可能性があります。治療が必要な可能性のある数値という意味での臨床判断値を例えばフェリチン値50ng/ml未満としてみると、20~49歳の女性の実に8~9割が鉄不足という可能性があります(厚生労働省平成21年国民健康・栄養調査から計算)。

今後、臨床的な経験を重ねた上で臨床研究も行い、フェリチンの臨床判断値を検討していきたいと考えています。

レバー嫌いに朗報サプリメントが鉄不足に効果的なワケ

堀江

では、鉄不足の治療をするには、「レバーを食べる」ということになるんでしょうか?

秋根

レバーを食べたり、サプリメントで鉄を補ったりすることができます。実は、レバーやサプリメントでは「ヘム鉄」を摂取できるのですが、病院で薬として出される鉄は「非ヘム鉄」なので、吐き気が出たり、便秘や下痢しやすかったりして、飲むのをやめてしまう方も多いんです。サプリメントのヘム鉄は、吸収率も高くて飲みやすいです。コロナ禍では医療機関の受診に抵抗のある方も多いでしょうから、疲れやすいな、眠れないな、イライラしやすいな、生理の量が多いなという方は、まずはそれらを試してみるという手もあるとは思います。

堀江

役に立つサプリメントもあるんですね。

秋根

鉄の摂取だけでは症状が改善しない方ももちろんいらっしゃいますが、女性の多くが鉄不足という可能性があるのに、鉄はあまり積極的に取られていないため日本は鉄不足大国と言っている先生もいたので、是非鉄を摂って欲しいです。

ただし、鉄過剰にも注意が必要です。今回、鉄に関するエビデンスを集めるために、未踏医科学研究財団の「SYNAPSE」を利用させていただきました。SYNAPSEは、様々な論文から得られた知見を論理的に繋げることで普遍的な因果関係を発見し、時間軸による因果発生変化の観察も同時に行い理論医学の構築のための基盤として期待されています。

SYNAPSEを用いた文献データベースの言語論理構造化による結果、鉄不足だけでなく鉄過剰にも注目をした方が良いという指摘を頂きました。鉄過剰は細胞や臓器に障害を起こしたり、感染症のリスクを上げたりするという報告もあります。

堀江

鉄過剰とはどういう状況ですか?

秋根

身体に鉄の貯蔵が増えてしまう状況です。鉄が体内に入り込んで増えてしまう「遺伝性ヘモクロマトーシス」という疾患もありますが、日本での患者はほとんどいないとされています。

経口で鉄を摂取している限り、鉄過剰には通常なりにくいと言われています。貯蔵鉄が満たされてくると鉄の吸収が極めて少なくなるとされているためです。一時期スポーツ選手で鉄過剰が問題になりましたが、それは鉄を静脈注射していたためだと思います。静脈注射だと直接入ってくるので腸管粘膜での吸収ブロックが働きません。他には輸血を続けた場合などに、鉄過剰の症状が出る可能性があります。

「遺伝性ヘモクロマトーシス」の患者さんが、弱毒化したペストなのに亡くなってしまったという症例もあります。鉄は多くても少なくてもダメ。バランスの難しいところがあります。

堀江

疲れやすいとか精神的に参ってしまったという人は、ネット通販でもいいから、試しにサプリメントの鉄分を摂取してみましょうということでしょうか?

秋根

試してみる価値はあると思います。

堀江

僕は睡眠不足とかはまったくないのですが、それでも鉄不足の可能性はありますか?

秋根

スポーツをしている方は、鉄分の消費が激しくなります。調べないとわからないですが、男性であっても鉄不足の方がいらっしゃいますよ。

日本でOC・LEPの認知が低い根本原因

堀江

先生の専門外かもしれませんが、女性が生理をピルでコントロールすることはできます。日本ではピルの使用者が世界的に見てもかなり少ないですよね?

秋根

ピルという言い方から、OC・LEP(オーシーレップ)という言い方に変わったかと思います。月経前の女性は、不調を感じる月経前症候群・月経前不快気分障害などの症状が出ることがあります。産婦人科の先生のなかには、「生理は妊娠するとき以外はいらない」という方もいらっしゃるので、鉄が増えない方の場合は、検討しても良いかもしれませんが、ホルモン剤で血栓や吐き気などの副作用もあり、もし使う場合には産婦人科の医師がアセスメントできる体制を整えたほうが良いので、心療内科や精神科で扱うものではないというスタンスです。

堀江

社会全体で考えると、薬で月経のコントロールが出来ないことが女性の社会進出を阻んでいる部分もあると思うんです。

女性の方が真面目で優秀。平均寿命も長いので男性よりも人口が多い。それなのに、社会で活躍できる領域が、まだまだ少ないように思う。月経によって起こる精神的な疾患をOC・LEPの普及で、ある程度コントロールできれば、もっと女性が活躍できて、社会のためにも良いと思うんですが……。タブーなのか、遊んでいる人が使うというイメージの悪さなのかわかりませんが、現在の日本では、OC・LEPの普及率はかなり低いですよね?

秋根

受験勉強をする高校性の女性が生理の影響が大きいので、計画的にOC・LEPを使って大学入試を乗り切ったという話を聞いたこともあります。副作用のリスクもそれなりにありますので、ベネフィットとのバランスを考えて使っていくことが大事だと思います。

堀江

実はこれから、クラウドファンディングでお金を集めて、糖尿病の恐怖映画を作る(※2021年5月に公開)んですよ。センセーショナルな内容にする予定です。

映画「糖尿病の不都合な真実」 公式サイト
https://true-diabetes.com/

新型コロナウイルスの影響で、良かった変化といえば、オンライン化が進んだことだと思います。特に教育機関において、オンライン化が進んだ。そのなかで、先生の質が悪いことが浮き彫りになってしまいました。予備校の先生よりも教えるのが下手だから、「学校に行く必要があるのか?」という議論までも出てきています。

僕らは男性なので、生理については正直わからない。以前、仲が良かった子が、いきなり怒りだすという経験をして、後々になってその理由に気づくということがありました。やはり、現場の先生は、男女の身体の違いについて教えづらいのでしょうか?

秋根

そうでしょうね。

堀江

だから、鉄の問題もそうですけど、医療についてのオンライン教材を作って、広めるのは良い案ではないかなと思っています。動画が普及した今の時代、国民全員がインターネットで動画を見るのが当たり前になりました。この間も、新型コロナウイルス感染症について、専門の医師との対談動画を公開したら、100万回以上再生されました。役立ちますし、社会に与える影響も大きいので良いと思うんですが。

秋根

まずは情報を知ることでセルフケアをする。新型コロナで病院へ行きにくくなってしまったので、自分でできることをやりましょうと、セルフケアを後押しする仕組みは大事かなと思います。うまく出来ない場合は、医療機関に相談しに来ていただいても良いです。

堀江

お医者さんがやるのが大事なんですよ。最近では、医師の高須幹弥さんのYouTubeが人気を集めています。医師なので、説得力がありますしね。例えば糖尿病で、血糖値をコントロールするとか、動画の情報でセルフケアが出来るわけです。先生は、デバイスを付けていましたよね?

秋根

血糖値をセルフモニタリングする「リブレ」ですね。今日は久々に付けています。行動変容のきっかけになりやすいからいいと思います。食事をすると数値が上がりますが、そばやカレーを食べるとものすごく血糖値があがることがリブレをつけて分かったので、好きでしたけど避けるように私の行動が変わりました。YouTubeも健康になるための行動変容のきっかけになれればよいのかなと思います。

堀江

是非動画を作って下さい。

秋根

鉄の話ですか? ピロリ菌を駆除すると、鉄不足の改善に役立つこともあります。ピロリ菌がいると、胃や十二指腸で出血しやすくなったり、ピロリ菌自身が育つのに鉄が必要なので餌になってしまったり、胃酸が減って鉄の吸収が低下したりします。ピロリ菌の除菌によって、鉄不足が改善する方向には行くのだと聞いています。

堀江

すごいですね。協会でも積極的にやっていくようにしていきたいですね。そろそろ時間なので、対談を終わりにしたいと思います。先生、最後に伝えたいことはありますか?

秋根

倦怠感などがつらくて、うつ病と思って来る患者さんが多い印象なのですが、医師の側でもうつ病の診断というのは身体疾患の除外が基本のはずです。精神科で結構血液検査をしないところも多いのですが、身体疾患をきちんと見逃さないようにもう少し注意していくのが大事なのかなと思っています。もちろん私も、うつの治療に抗うつ剤も使いますが、その前にちゃんと身体の状態を見ていくことが、こういった鉄不足を見逃さない方向性になるのかなとは思います。

拙著『鉄のすすめ 元気になる秘訣』を出版しましたので、よろしくお願いします。

秋根良英新書『鉄のすすめ 元気になる秘訣』
https://amzn.to/2UNiR4t

編集後記

果たして社会がこれまでの姿を取り戻すことができるのか。先行きが見えないなかで、健康に支障が出てきているケースは今後も増えてくると思われます。

何かの症例が出た時に、診療に出かけることすら躊躇してしまう状況のなかで、レバーやサプリメントなどを摂取することで、症状が改善するのだとしたら、このような正しい情報発信がもっと必要なのではないか。新型コロナウイルス感染症に関する対談動画の再生数が伸びたという話があるように、正しいプラットフォームを活用した情報発信が進み、セルフケアの文化が普及していくことに期待したいですね。

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