「自治体DXプラットフォーム」事業を立ち上げたコニカミノルタの別府幹雄氏は、「環境経営ノウハウなど非財務価値を洗い出すなかで今回の新規事業を思いついた」と語る(写真:コニカミノルタ)

9月1日にデジタル庁が発足し、政府だけでなく地方自治体のデジタル化(DX、デジタルトランスフォーメーション)に注目が集まっている。

ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクによると、1994年からの2020年までの26年間で公務員は52万人減少。一方、自治体が抱える業務・課題は複雑化し、公務員一人当たりの業務量が増加している。

にもかかわらず、自治体のDXは遅々として進まない。新型コロナウイルス関連の業務でも、ワクチン接種やコロナ助成金の申請業務は紙で行うのが原則という例が相変わらず多い。自治体職員はリモートワークすらままならないという課題を浮き彫りにした。

こうした課題解決は、官庁の基幹システムを扱う富士通やNTTデータなどシステムインテグレーター(SIer)にとっての格好のビジネスチャンスだ。ところがここに異色の挑戦者が現れている。複合機大手のコニカミノルタだ。

自治体業務を「標準化」

コニカミノルタは2021年7月、新サービス「自治体DX支援プラットフォーム」を開始した。児童手当の業務フローなど、行政の業務を標準化するサービスだ。

プラットフォームの一番の役割は業務の「見える化」だ。自治体業務がどの法令に基づき、どのような手順で、月間何時間行っているかなどの情報を入力するシステムを提供。それをもとに公務員でなくとも行える業務(ノンコア業務)を抽出し、ノンコア業務の効率化に適したソリューションを費用対効果も含め提示・提供する。

今のところ、裏付けとなる法令は同じなのに、オペレーションは自治体によってばらばらな「ガラパゴス状態」が続いている。これを標準化できれば、オンラインシステムの構築もしやすくなるうえ、「公務員でなければできない業務」とそれ以外の業務を分けやすくなる。そうすれば、外注もしやすくなり自治体の費用を抑えることもできる。

札幌市とはサービス開始前から提携し、業務効率化の効果を調べてきた。調査の結果、全業務のうちノンコア業務が約4割を占めた。そこで、ノンコア業務のうち児童手当に関わるものなど5業務を外部委託した結果、児童手当に関わる業務では約5450時間削減できる見通しだ。その分、公務員が創造的な仕事にあてる時間を確保できるという。

プラットフォームの利用者は約2500件の自治体の業務データを比較し、効率化のモデルを探すこともできる。効率化を叶えるサービスを提供するため、他社との提携も進めている。

例えば、ITサービスを手がけるチェンジと提携。同社子会社のトラストバンクが提供するチャットシステムで業務効率化の事例などを調べられるサービスなども導入する予定だ。こうしたパートナー企業は60社に及び、今後も増える見通しだ。

得意とする複合機の技術を生かす

自治体相手の業務が強いわけではないコニカミノルタがなぜこのようなことをするのか。

このサービスを立ち上げた別府幹雄自治体DX推進部長は「以前から自治体向けに品質マネジメントノウハウを生かした事業を展開できるのではと考えていた。ただ、プラットフォームを新規事業に決定した決め手は以前から交流のあった札幌市幹部の一言だった」と振り返る。

「市民サービス向上のために業務の効率化を行いたいが、どこから手をつければいいのかわからない」

こんな相談を市幹部から受け、業務量調査や効率化にコニカミノルタの品質管理ノウハウを生かすことを決めた。2018年に全庁業務調査を開始。人海戦術で業務フローや課題を洗い出した。その後も協力自治体を増やしながら、プラットフォームの具体像を詰めていった。


現在の協力自治体は約80ほど。協力自治体を増やすことでプラットフォームの情報量や質を高めていった(コニカミノルタ提供資料から引用)

ここで、コニカミノルタが得意とする複合機の技術が役立った。複合機のような精密機器は品質を一定に保つことが難しく、品質スコアの微小な異常値から異常の原因や課題を析出し、改善につなげる。

こうした手法を自治体の業務分析に応用。同じやり方で複数の自治体の同一業務を分析した。まずは異常値、すなわち自治体ごとに異なる業務フローがある箇所を検出する。異なる業務パターンが生じる原因を特定することで効率的な業務フローに標準化できるのだという。

SIerがシステム・ソリューションを開発する際に自治体の業務データを参照する情報基盤としてもプラットフォームは活用できるため、すでに自治体に食い込んでいるこれらの企業はライバルではないと見ている。さらに、自治体と同様に規制が強い銀行向けへのサービス拡大も視野に入れる。

「自治体DX支援プラットフォーム」をコンサルタントやマッチングビジネス事業として育てるため、あえて自社の複合機や関連するソリューションを自治体には売り込まない戦略だ。別府氏は「DXソリューション提供を収益源としつつある複合機メーカーにも競合他社という枠を超えてプラットフォームを利用してもらいたい」と語る。

「2022年9月までに全自治体の30%、500自治体を押さえることができるかどうかが勝ち抜いていく勝負の分かれ目だ。売り上げは60億円を目指したい」と別府氏は強気だ。今年度中に全国1700ある自治体のうち100自治体へ導入という目標を掲げ、続々と導入自治体を増やしている。

10月1日には自治体DX業務を専門とする子会社、「コニカミノルタパブリテック株式会社」を設立。別府氏が社長に就任し、自治体向け事業展開を加速する。

ペーパーレス化の逆風

とはいえ、コロナ禍で主力の複合機事業の見通しは厳しい。コロナ禍で柱の複合機事業が大きく影響をうけ、2021年3月期は162億円の営業赤字に落ち込んだ。2022年3月期も営業利益見通しは360億円と、2019年3月期の624億円の約半分。完全回復にはほど遠い。

以前からペーパーレス化で縮小傾向にある複合機事業の収益を補おうと、遺伝子検査事業など新規事業へ積極的に投資してきたが、収益の柱として育ってこなかった。そんな中、自治体向けプラットフォーム事業は一筋の光明だ。この事業への投資額はほかの新規事業の投資額の5分の1以下と、今まで取り組んだ新規事業に比べて圧倒的に低コストで事業を軌道にのせつつある。

2022年3月期は売上高5000億円に達する見込みの複合機などを含むデジタルワークプレイス事業に対し、自治体向け新規事業の売り上げ目標は28億円。同事業の収益性はかなり高いとはいえ、その差は歴然だ。コロナ禍の長期化やペーパーレス化の加速など、コニカミノルタには当面、逆風が吹き続ける。新たな収益柱を確立するうえでも、自治体DXの成否が持つ意味は決して小さくない。