Engadget

ポータブルオーディオというのはもう長い歴史がある分野になりますが、昨今の流れを見ていると、ノイズキャンセリングで外界と遮断したい派のイヤホン・ヘッドホンと、周囲の音が聞きたい派の骨伝導スピーカー・ネックスピーカーに二分されているように思います。

ネックスピーカーは2017年ごろから市場に登場し、最初は家族に気兼ねしながらもテレビや映画を大迫力で見たいという方向けにヒットしたわけですが、当時は低遅延を実現するためにBluetoothを使わず専用トランスミッタと組み合わせるというのが主流でした。

一方シャープも2018年に「AN-SS1」というモデルでこの分野に参入するわけですが、方向性が全然違いました。「AQUOS サウンドパートナー」ですから、テレビ音声を聴くというところは同じですが、重量88g、連続14時間駆動という仕様で、テレビにこだわらず1日中なんらかの用途に使っていく、ウェアラブルスピーカーという方向性を打ち出しました。Bluetoothも最初から搭載してましたので、スマホと繋いでGoogleアシスタントやSiriを使う事もできました。

2018年発売のAN-SS1

後継機としてサウンド重視の「AN-SX7A」が2019年に登場しましたが、このあと事情が変わってきます。コロナ禍に突入したことで多くの人がリモートで長時間会議をするようになりましたが、小型軽量長時間駆動の初代「AN-SS1」が、「あれ? これリモート会議に最高じゃね?」ということで再注目されていきます。

2019年発売のAN-SX7A

2020年に初号機のリファインモデル「AN-SS2」が登場しますが、スピーカーの改善、Bluetoothコーデックの大量対応、「Clear Voice」の搭載など、見どころの多い製品でした。

2020年発売のAN-SS2

さて前置きが長くなりましたが、現在シャープではGREEN FUNDINGにてAQUOS サウンドパートナーの新モデル「AN-SC1」をクラウドファンディング中です。今回は試作機をお借りして、従来モデルと何が違うのか、いち早く機能をテストしてみたいと思います。

現在クラウドファンディング中のAN-SC1

■これが「ウェアラブルAlexa」の威力か…

AN-SC1最大のポイントは、スタンドアローン型のAIスピーカーになった、という事でしょう。そんなふんわりした話をされてもなにがどうなのかさっぱりわからないと思いますが、そのへんを噛み砕いて説明します。

従来モデルは、テレビの音声を飛ばすためのトランスミッター付属とはいえ、要するにBluetoothスピーカーでした。スマホと直接Bluetooth接続すれば、スマホ側の音声アシスタント、つまりAndroidならGoogleアシスタント、iPhoneならSiriを呼び出すことができました。

一方本機の場合は、スマホと繋がっていなくても、単独でこのスピーカー自体が音声アシスタントに対応します。具体的には、Amazon Echoと同等になります。なんでそんな事ができるかと言えば、本機はBluetoothだけでなく、Wi-Fi接続もできるようになったからです。電源を入れるとWi-Fiに接続され、内部SoCとプログラムでオーディオコマンドを受け付けます。それがAmazonのクラウドに送られて処理されるのは、Amazon Echoと同じです。まさに実態は、「ウェアラブルAlexa」なわけです。

現在設定ツールは開発中のバージョンですが、段取りとしてはまず本機とスマホをWi-Fiで接続します。その後、設定ツールを使って本来使用するホームWi-Fiの設定と、Amazonアカウントを本機に流し込めば完了です。

こうした仕様のため、ボディの見た目はAN-SS2とほぼ同じですが、内部基盤は全然別設計となっています。見た目上の違いとしては、以前は「Clear Voice」のボタンだったものが、「アクションボタン」に変更されています。このアクションボタンを押すとボイスコマンド聞き取り待機状態になります。

電源とBluetoothボタン
左端のアクションボタンがポイント

実際に個人のAmazonアカウントと接続して、使用感を試してみました。Alexaへのボイスコマンドは、アクションボタンを1回押すだけです。ウェイクアップワードとして「Alexa」と呼びかける必要はなく、そのまま知りたいことを聴けばOKです。実際筆者の周りにはAmazon Echoが2台あるんですが、「Alexa」と声をかける必要がないので、いろんなEchoが動いてわけがわからなくなるということはありません。

筆者はいつもAmazon Music HDで音楽をかけながら仕事しているわけですが、本機があれば音楽再生が楽ちんです。スピーカー的には低音が出ないので、リッチな再生音というわけにはいきませんが、イヤホンともヘッドホンとも違う、自分よりちょっと後ろから聞こえてくるけどステレオ感が強いサウンドは、これはこれでアリという気がします。

スピーカーの位置は耳より少し後ろ

もちろん、天気予報やニュースの読み上げなども、Amazon Echoを使うのと代わりありません。これまでボイスコマンドは、いちいち「Alexa」と声をかけるのが面倒でしたが、本機ではボタンを押すだけですので、気軽にいろんな機能を試せるようになりました。いくら相手がAIだとしても、「誰かに声をかけてやらせる」という気持ちのハードルが下がるのかもしれません。

前モデル同様トランスミッタも付属しますので、テレビの音声もこれで聴くことができます。「Clear Voice」は専用ボタンこそなくなってしまいましたが、機能はそのままあります。アクションボタンとボリュームの「+」ボタンを長押しでON・OFFできます。

前モデル同様トランスミッタも付属

もちろんBluetoothスピーカーとしての機能もそのままですので、PCに繋いでZoom会議にも利用できます。ペアリング先を変えるには、アクションボタンとボリュームの「-」ボタンを長押しします。実際に編集部とリモート会議してみましたが、こちらからも向こうからも音声の聞こえ具合はまずまず良好でした。ただリモート会議では、「Clear Voice」のON・OFFの違いはよくわかりませんでした。

Bluetoothでスマホと繋げば、スマホ側のGooleアシスタントやSiriへもボイスコマンドが使えます。この場合は、本機のBluetoothボタンを押すことで音声アシスタントが起動します。

テレビのプライベート視聴というニーズからスタートしたネックスピーカーですが、スマートスピーカー方向へシフトするとは思いませんでした。従来のスマートスピーカーは電源直結の据え置き型で、場所を移動するという発想がありませんでしたが、首にかけていればどこにいても使えることになります。

いくらリモートワークとはいえ、一日中同じ部屋にいるわけにはいかない方にとって、強い味方となりそうです。