コロナ禍で苦戦する近畿日本鉄道

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近鉄グループホールディングス(GHD)の株価の下落が止まらない。2021年4月20日、一時、前日終値比75円安の3840円まで下落し、終値も同50円安の3865円となった。コロナショックで急落した20年3月9日の3890円をも下回り、1年1か月ぶりの安値を付けた。

近鉄GHDの本拠地とも言える大阪府で新型コロナウイルスの感染者が増え続け、医療体制が逼迫する「第4波」が到来していることで業績への懸念が深まり、大阪府の緊急事態宣言の発出要請で下げ足を加速している。

長距離路線抱えて苦戦

コロナ禍で運輸・観光は世界的に「土砂降り」の業界だが、近鉄GHDは日本企業の中でも影響の受け方が大きい会社だ。2021年3月期の連結最終損益は780億円の赤字の見通し(前期は205億円の黒字)。JR各社は1000億円台の赤字を計上しているが、JRを除く大手私鉄の中では最も赤字額が大きい。

理由は、傘下の鉄道会社、近畿日本鉄道の営業距離がJR以外では全国最長の501キロもあることだ。

各社とも近距離は昨年の最悪期より復調しているが、JRともども長距離路線(たとえば名阪特急で結ぶ近鉄名古屋−大阪難波)を抱える近鉄にとって、出張や旅行の自粛によるダメージはひときわ大きい。

また、傘下にレジャー施設やホテルなど観光産業を多角的に抱えていることもコロナ禍では裏目に出ている。近鉄GHDの2020年4〜12月期連結決算で分野別の営業損益をみると、(1)運輸211億円の赤字(2)不動産88億円の黒字(3)流通50億円の赤字(4)ホテル・レジャー429億円の赤字(5)その他10億円の黒字――と、ホテル・レジャーの赤字が突出している。

傘下の旅行会社KNT−CTホールディングスは2020年12月末時点で債務超過に陥り、パートを含めて1300人超が希望退職に応じる事態に陥った。ちなみに希望退職は近鉄GHDと近畿日本鉄道も人数を設定せず募集している。一方、半世紀の歴史を持つ水族館「志摩マリンランド」は21年3月末に閉園となった。

重い固定費、さらなる経営の構造改革が必要

事態打開の一策として近鉄GHDは3月25日、運営する24のホテルのうち「都ホテル岐阜長良川」「都ホテル京都八条」「都ホテル尼崎」「都ホテル博多」「都リゾート志摩ベイサイドテラス」「都リゾート奥志摩アクアフォレスト」「ホテル近鉄ユニバーサル・シティ」「神戸北野ホテル」の8ホテルを米投資ファンド、ブラックストーン・グループに売却すると発表した。

売却後もホテルの運営は近鉄側が行う。ただ、8ホテルは「ウェスティン都ホテル京都」のような基幹的なホテルではない。自前主義からの転換でホテル経営のリスクを下げ、財務体質を改善できる可能性があるとして発表当時は株価が少し上がった。

ホテル売却は株式市場に評価されているが、コロナ禍は続く。大手私鉄各社より重い固定費を抱えているだけに、さらなる経営の構造改革が求められているといえそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)