「図を描く」ことがなぜ思考力をパワーアップさせるのでしょうか?(写真:dolgachov/iStock)

何かを考えるときに、図を描いて考えるといいらしい。そんな話を聞いてPowerPointを起動させた人もいるかもしれない。そして、思ったような効果が得られず、図を描くことに幻滅した人がいたなら、ぜひ伝えたいことがある。それは「図が悪いのではなく、ツールが悪かったのだ」ということだ。

外資系の事業会社やコンサルティングファームを経て、いまはビジネススクールで教鞭をとり、『武器としての図で考える習慣 「抽象化思考」のレッスン』を上梓した筆者が、図を描いて考える際に最適のツールと、使うべきでないツールについて紹介する。

なぜ図で考えるとうまくいくのか?

『武器としての図で考える習慣』を上梓してから、SNSなどでも「私も図で考える習慣を取り入れてみよう」といったコメントをよく見かけるようになりました。


「図で考える」習慣は、振り返ってみると、私の人生の結構いろんな場面で役に立ってきました。

・打ち合わせのとき、紙やホワイトボードに図を描くとすっきり議論が整理できた

・レポートやプレゼンを作るとき、工夫した図を入れると、結構高く評価された

・悶々と難しい課題に悩んでいたとき、紙の上で図を描いていると、いいアイデアがひらめい

といった具合です。

今後皆さんが何らかの課題に直面したときも、図で考えることが、必ずお役に立つと信じています。

「図で考える」と言っても、何も大げさなことではありません。私が考える「図」のいちばんシンプルな定義は、「紙1枚(例えばA4)に描かれる線や丸や四角と言葉で表現されるイメージ」ということができます。

この場合の言葉は、長い文章ではなくキーワードや簡単な見出し程度のものです(読むのではなく、目に飛び込んでくるくらいのもの)。

定義してしまえばただそれだけのことなのですが、なぜそんな図を描くことが思考力をパワーアップさせるのでしょうか。それは、その紙1枚に描かれた図が思考の全体像になるからです。それは、現実から抽象的に切り出された本質的に大事なものであり、頭(とくに右脳)でいじることのできるイメージです。

なぜイメージしやすいのか。それは紙が「2次元」だからです。

人は多くのインプットを2次元の画面から得て、頭で処理します。テレビ、雑誌、手帳、スマホ、看板、チラシ……すべて2次元。おそらく皆さんが、何か考える際に頭の中に描くのも2次元のイメージではないでしょうか。3次元で自由自在に考えられる人はそうそういないと思います(3次元で考えていると思う人も、ほとんどが3次元の2次元投影イメージのはず?)。

必要なモノは紙とペンだけ

うれしいことに、このような「図で考える力」を鍛えるのは決して難しくありません。

なぜなら、図で考えるために必要なものは、紙1枚とペン1本だけ。誰でもすぐにでも始められるからです。高い授業料もいらないし、お金もまったくかかりません。

絵心も不要です。なぜなら大まかな「ポンチ絵」でいいからです。逆に絵心がないほうがベターかもしれません。なぜならポンチ絵に細部は必要ないからです。

「図で考える」ための準備は、本当に紙1枚とペン1本だけ。ほかには何も必要なし。

ただ、少しだけ紙とペンにこだわると、使う紙は、薄いマス目の入った方眼紙がベターです。タテの線でも、ヨコの線でも、定規なしでキレイに引けるからです。ペンも黒のペンにプラスして、赤とか青のペンがあるといいでしょう。強調したいところや論理の違いなどを、色を使って表現でき、パッと見、図がわかりやすくなります。

また、図で考える際には、何度も書いたり消したりするので、ホワイト(修正テープ)はあると便利です(鉛筆の場合は消しゴム)。

基本、紙とペンさえあればできることなのですが、「それならパワーポイントでもいいんじゃないか?」という声が聞こえてきそうです。でも、お勧めはやはり紙とペンです。

実はパワーポイントには思考の流れを阻害する要因が潜んでいるんです。

パワポは、意識するしないにかかわらず、資料を完成させるための「作業」に焦点があたってしまいます。パワポ資料作りのためのパワポ作業になってしまう。あるいは、作ったパワポに縛られて思考が先に進まなくなってしまうことも間々あります。そうやって思考停止に陥っている人をこれまでたくさん見てきました。

本来、図を描く作業は、手で考える作業であり、自分自身との対話です。そして、考えを深め、整理するプロセスです。目の前の紙から意識がそれるのはダメで、図と思考をシームレスに、かつ瞬時に切り替えられる利便性があるべきです。

しかしながらパワポの場合、画面の上のさまざまなコマンドボタンと図の往復作業で思考が寸断され、図形やフォントの選択で迷い、思考が途切れがちになります。そして、資料を作ることについつい意識がいってしまう……。

結果的に、「考えること」と「作業すること」の逆転現象が起こり、本末転倒が生まれてしまうのです。

ホワイトボードがあればそれを使うのもありでしょう。ホワイトボードは大きくて見やすく、簡単に書いたり消したりできるのでとても便利です。

また、ホワイトボードの前を動物園の熊のようにウロウロ歩きながら考えると、思考が活性化されて結構いいアイデアが浮かぶこともあります。

習慣が身に付く人とそうでない人との違い

図で考える習慣が身に付くか否かは、最後は「やるか、やらないか」にかかってきます。

普段から図を描きながら考えている人は少ないですよね。だから、やると差が生まれるんです。そして、できる人は図で考えていることが多い、というのが私の実感です。

図で考える力は、覚えた知識というより身に付けた技術になります。一度体得してしまうと忘れることはありません。ちょうど、一度自転車に乗れるようになった人が一生自転車に乗れるように、一度体得すると一生使える力になるのです。