出産後、数年間の時短勤務を普通とする企業も増えているが、制度を利用していない人の不公平感もつのっている。原因を分析しながら、真の女性活躍につながる解決策を探ります。
写真=iStock.com/kohei_hara
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■働く女性たちが順番に出産、時短勤務になっていく時代

ここ数年、「育休や時短の制度に甘える女性がいる」という声を人事関係者から聞くことが多くなった。長期の育休や時短を利用する女性社員に対し、「ズルい」という声も。

その背景には会社の制度設計を上回るほどの制度利用者の増加、そして長期化傾向がある。

2009年6月の「育児・介護休業法」改正により、大企業において短時間(時短)勤務が措置義務化された。その後、12年に従業員100人以下の企業まで対象が拡大。会社員の女性が出産した場合、「産休→育休→時短」という「両立支援制度の連続的な使用が一般化しつつある」(※)。大企業ほど法定の「子が3歳まで」を超えた「小学校入学以降も」利用できる時短勤務を制度化している。そこで、時短勤務など両立支援制度を利用する社員(主に女性)と、制度を利用していない同僚との間に軋轢(あつれき)が生じているのだ。

※参考文献『ワーク・ライフ・バランス支援の課題 人材多様化時代における企業の対応』(佐藤博樹、武石恵美子編 2014年東京大学出版会)

■「不公平感」を抱く制度未利用者は女性で約25%いた

「女性同僚が順番に産育休、時短に入る状態で、もともとの1人分の仕事量がわからない。入社時よりも仕事は増えています。営業は派遣では代替できないし、育休や時短の人の穴埋め分は手当てされていない」(30代 営業 独身)

「時短のワーキングマザーは増えています。子どもがいなくても比較的ノルマや責任が軽い部署に行きたい人はいるけれど、時短の人でいっぱい。出産した人だけ行けていいよね、という声をよく聞きます」(30代 営業 既婚・子どもなし)

キャリアの塩漬け場所として、キャリア志向のワーキングマザーには歓迎されないマミートラックも、うらやましがられる側面があるのだ。

不公平感は労働時間、負荷の大小だけでなく、配置や転勤、評価、ノルマなど多くの分野に及ぶ。

「上司が『時短の評価を決める目標値をどこに置いたらいいのかわからない』と言って評価が厳しくない。配慮されている」(前出の30代既婚営業)

「女性ばかりが制度を使える。転勤にも配慮があってズルい」という声が若手男性からも増えていると、ある人事担当者は言う。

ウェブ調査によると、時短勤務者に「不公平感」を抱く制度未利用者は女性で約25%いた(図)。負担を感じている人は男性2割強、女性で約半数。軋轢を解消するには次のような施策が重要だとわかった。

➊時短者自身

時短勤務者自身が、仕事をカバーしてくれる同僚との情報共有やコミュニケーションを活発に行うことは非常に重要だ。

例えば分担してもらう業務についてマニュアルを作っておくなど、1人で抱え込まず早めにチームとの連携を図り、また残業できるときはするなど前向きに働く姿勢があれば、軋轢は改善される。

➋上司

時短勤務者や同僚の個人的な配慮に頼りすぎず、まずは社内の両立支援制度の内容についての周知(特に賃金がどの程度変わるかなどお金にまつわる部分)や仕事の公平な配分、業務量の調整など、時短者がいることを前提にした公平なマネジメントが必須となってくる。

➌組織

社内に時短利用者の人数が少ないうちは前述の2つで現場は回るが、人数が増加し「配慮の限界」を超えると、サポートする側に対する報酬や評価など、企業の人事制度の変更が必要となる。企業によっては、両立支援制度利用者の仕事をカバーする同僚に対してボーナス時などに報酬を出す(専門商社)、また毎月の報酬に「育児サポート手当」を上のせする制度(レリアン)などがある。

しかしこれも根本的には対症療法であり、最終的には働き方改革で「残業の常態化の改善」、そして「フレックスタイムとテレワーク」で、時短勤務者の早期フルタイム復帰を図るなどの施策が必要となってくる。

組織全体で、仕事の時間と場所を柔軟にすることで、時短対象者以外もワーク・ライフ・バランスを確保できることがコンフリクト解消の一番のカギとなるのだ。

■コロナ禍で進む柔軟な働き方がカギを握る

例えば、カゴメは長時間労働を厳しく是正し、コアタイムなしのフルフレックス制を導入して、管理職でも午後3時に退社するなどの柔軟な働き方を可能にした。

「勤務時間の自由度が高くなったことで、フルタイムで復帰して働くことができるようになった、という声を聞きます」(カゴメ常務執行役員CHO・有沢正人氏)

男性からの「女性だけが制度を使う」という愚痴もなくなったという。

時短勤務の利用拡大は、女性の就業継続には貢献しているが、女性管理職の増加や性別役割分担の解消には逆効果という側面もある。

テレワークも含め、コロナ禍で急速に進んだ柔軟な働き方こそが、個人にとっても組織にとっても無益なコンフリクト解消の要となるだろう。

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調査概要
インターネットでのアンケート調査(委託先:インテージ)を実施。対象は、過去3年以内に時短勤務者と働いた経験があり、自身は現在両立支援制度を使っていない20〜49歳の非管理職、正社員、男女各150人。期間は2020年6月19〜22日。

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白河 桃子(しらかわ・とうこ)
昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院 特任教授、ジャーナリスト
慶應義塾大学卒、中央大学ビジネススクールでMBA取得。住友商事、外資系などを経て、取材執筆講演活動。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員などを歴任。著書に『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』(PHP新書)、『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。
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(昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院 特任教授、ジャーナリスト 白河 桃子)