顔のマッサージで顎関節症が治せるってホント?

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顎の不具合に対しマッサージを用いる試みが、各医療機関で始まっているそうです。もし効果があるとしたら、どの部分を、1日何回、どの程度の強さでマッサージするといいのでしょうか。実際にマッサージ療法を取り入れているという「マリコ歯科クリニック」の渡邊先生に教えていただきました。

監修歯科医師:
渡邊 麻里子(マリコ歯科クリニック 院長)

日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。東京医科歯科大学歯学部附属病院にて障害者・有病者・歯科恐怖症を専門に臨床を重ねる。2012年、東京都渋谷区に「マリコ歯科クリニック」開院。「楽しく、心地よく」をモットーとし、コミュニケーション重視の診療に努めている。東京都内でも笑気麻酔や静脈内鎮静法の保険適用ができる珍しい歯科医院。日本障害者歯科学会認定医。歯科恐怖症学会理事長。日本笑い学会、筒井塾咬合療法研究会、青山歯科研究会、渋谷区歯科医師会の各会員。

強くもまなければ、1日何回でも

編集部

顎関節症(がくかんせつしょう)にマッサージは有効なのでしょうか?

渡邊マリコ先生

筋肉の凝りをほぐしてあげることは、顎関節症の症状緩和に有効です。とくに昨今、下を向いてスマホを操作する方が増えていますよね。下を向くと、無意識に顎まわりの筋肉が緊張します。つまり、スマホやパソコン操作が顎関節症を助長している側面もあるのです。

編集部

具体的に、どの辺の筋肉をほぐすのですか?

渡邊マリコ先生

頬や首、こめかみ、肩などを触りながら強く歯を食いしばると、動く筋肉がありますよね。その部分のマッサージが有効です。あるいは、「顔の筋肉」などのキーワードで画像検索をかけてみて、筋肉の構造を調べてみてもいいでしょう。特定した1カ所ではなく、全般的にマッサージしたほうが効果的だと思います。

編集部

マッサージの目安となる回数やタイミングなどについても、教えてください。

渡邊マリコ先生

とくにありません。1日の中で随時、好きなだけ、なでるように“軽く”指でなでてみてください。あえて推奨したいタイミングを挙げるとすれば、「寝る前」と「起床した後」でしょうか。寝ているとき、無意識に歯を食いしばることがあるからです。

編集部

1日中というのは意外です。やり過ぎということはないのですか?

渡邊マリコ先生

力さえ入れなければ、やり過ぎということはありません。「もむ」というより「なでつける」イメージで1日中やっていれば、ずっといい状態が続くと思いますよ。症状の緩和は気持ちいいはずですから、あくまで「やさしく」を意識してリラックスした気分で楽しみましょう。

現代病としてクローズアップされている顎関節症

編集部

こうしたマッサージは、なぜ有効なのでしょう?

渡邊マリコ先生

マッサージをすることで、凝った筋肉をほぐすことができるからです。口を開け閉めするとき、耳の前あたりに動く骨格がありますよね。ここが顎関節で、「扉のちょうつがい」に例えられます。顎関節症で痛かったり音がしたりするのは、ちょうつがいの位置がおかしいからです。その状態のまま、凝った筋肉で締めつけてしまうと、症状が改善されません。

編集部

筋肉を弛緩させることで、正しい位置へ戻るのですか?

渡邊マリコ先生

場合にもよりますね。痛みや食事のしにくさなど、日常生活に支障が出ているようなら、受診を優先してください。マッサージの目的は、あくまで、顎関節症の予防や軽症な方の症状緩和です。

編集部

むしろ、受診機会を遠ざけないですか?

渡邊マリコ先生

以前は顎関節症に対して、マウスピース療法や、歯を削ってかみ合わせをよくする治療がおこなわれていました。しかし、患者さんの身体的な負担が大きく、かえって悪化する例も散見されたようです。そこで改めて注目されてきたのが、マッサージ療法なのです。

編集部

つまり、都市伝説の類ではなく、医師の推奨する医学的な方法であると?

渡邊マリコ先生

そういうことです。当院はスマホやパソコンをよく使っているIT系の社会人や学生さんが「顎が痛い」と言って、よく来院されます。そうした方にマッサージを勧めると、かなりの割合で症状が改善されます。テレワークなどでパソコン操作が増えた昨今、顎関節症は増加傾向にあるようです。機器操作時の“姿勢”が顎の筋肉を緊張させていることは、ほぼ、間違いないと言っていいでしょう。

痛むようなら、歯科医院での治療を

編集部

顎関節症のマッサージって、小顔のリンパや肩こりマッサージに似ていますよね?

渡邊マリコ先生

血行の改善という意味では、似たところがあります。また、顎関節症治療の前処置の一環として、リンパマッサージを取り入れている医院も散見しますね。加えて、医院でおこなう顎関節症専門のマッサージ方法なども研究されてきました。

編集部

今回はセルフケアに絞りましょう。ほかに、気をつけたいことや避けるべき点があれば教えて下さい。

渡邊マリコ先生

マッサージをしていて痛むようなら、すぐに中止して、受診してください。マッサージで痛みは緩和できません。ここは、間違えていただきたくないポイントですね。痛むときは「触らない」のが鉄則です。

編集部

痛むときの受診先は、何科を受けるべきでしょう?

渡邊マリコ先生

ぜひ、歯科医院にご相談ください。顎関節症の治療は整形外科などでも扱っているものの、かみ合わせが関係していることもありますので、やはり歯科医院を推奨します。単純に「筋肉と骨格の問題」ではない可能性を考えると、整体院や整骨院などの非医療機関は、避けたほうが無難でしょう。

編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

渡邊マリコ先生

顎の不具合で悩んでいたら、歯科医院を有効活用してください。受診して正しいマッサージ方法を習得すれば、なお効果的だと思われます。そして、スマホやパソコンの操作が顎関節症と関係していることも、この機に知っておいていただきたいと思います。

編集部まとめ

たしかに下を向くと、顎や首、肩の一部などに力が入りますよね。そのうちのいくつかの筋肉は、口の開閉にも関係しているようです。なでつけてみて「気持ちいい」感じがしたら、おそらくは凝っているのでしょう。その感覚は、就寝前と起床時に顕著なようなので、自分のツボを見つけてみてはいかがでしょうか。「スマホを手に取ったらマッサージ」などと習慣づけしてみてもいいでしょう。