新型コロナウイルスの感染者急増が続く、イギリス。そんなイギリスの現状をレポートしてみたい(撮影筆者)

新型コロナウイルスの感染者急増が続く、イギリス。1日当たり5万人前後で新規感染者が記録され、死者も1000人を超える日が少なくない。

政府統計によると、1月14日時点で新規感染者は約4万8000人、1248人。前日は1564人でこれまでで最多となった。イギリスの人口は日本のほぼ半分(約6700万人)なので、日本に当てはめれば連日9万人から10万人が新規感染している計算になる。

英国家統計局の推計によると、イギリスでは50人に1人、ロンドンでは30人に1人が感染しているという(数字には入院患者は含まれない)。イギリス全体が「ロックダウン(都市封鎖)」状態となっており、例外を除いて「家にとどまる」「他人と接触しない」が原則だ。

そんなイギリスの現状をレポートしてみたい。

戸外でウォーキングをしようとしたら、罰金3万円

イギリスの人口の約90%が住むイングランド地方では、1月上旬から新型コロナウイルスの感染を防ぐための3回目のロックダウンとなった。

医療サービスを受ける、食料品などを買う、1日1度近場で運動する、自宅勤務が不可能な場合の通勤などの例外を除いては、外に出てはいけないことになっている。学校は軒並み閉鎖で、医療関係者やスーパーマーケットに勤める人など「主要働き手(キーワーカー)」に分類される親の子どものみが学校に通う。

他人と社交目的で会うことは禁止され、バスや電車などの公共交通機関、医療施設や日用品を販売する店舗に入る際にはマスクやスカーフなどで顔を覆うことが義務化されている。こうした規則に応じないと、罰金(当初は200ポンド=約3万円、繰り返して違反するようだと最大90万円)が科される。


ロンドン市内のバス停に置かれている、マスク着用を奨励する電子サイネージ。着用しない場合は罰金が科されるという(撮影筆者)

驚くほど厳しい罰金適用となったのは、今回のロックダウンが始まったばかりの6日のこと。

イングランド地方中部ダービシャ―に住むジェシカ・アレンさんは、自宅から車で数分の貯水池に向かった。

徒歩で行ける公園では散歩をする人が多く、「ここなら空いている」。友人のエリザ・ムーアさんと間隔を取りながらウォーキングができると思ったからだ。

ムーアさんは別の車で貯水池に向かった。

貯水池エリアに入ると、警察のトラックと数人の警察官が集まっている姿が見えた。アレンさんは「殺人事件でもあったのかな」と思いながら眺めていたが、警察官らがやってきて車を取り囲んだ。車から出てみると、「ロックダウン違反だ」と説明され、アレンさんもムーアさんも各3万円の罰金が科されてしまった。2人は各自コーヒーを持ってきていたが、警察に「ピクニックをしようと思っていたことを示す」と言われた。

アレンさんの両親は新型コロナ感染症にかかっているし、兄は医師。ロックダウンの規則破りをするつもりは毛頭なかったが、突然罰金を科されたことで大きな衝撃を受けた。

ロックダウン下では「近場での運動」が許されているが、「近場」の定義はない。アレンさんの自宅から貯水池までは8キロほど。また、他者と社交目的で会うのは禁止だが、戸外の運動時に異なる家族から1人ずつであればともに歩いたり走ったりしてもいいことになっている。

コーヒーを「ピクニックの意思を示す」と見なし、即罰金を科すとはあまりにも厳しすぎるとソーシャルメディア上で話題となり、主要メディアもこれを取り上げたことで、地元警察はアレンさんとムーアさんに謝罪。罰金は取り消された。

「近場」はどこまでなのか議論が沸騰

「近場」とはいったいどこまでを指すのかで議論が沸騰する中、10日には今度はジョンソン首相が官邸から11キロ離れた公園でサイクリングをしている様子をメディアが報道した。官邸広報は「首相は規則を逸脱していない」と説明したが、「国民は規則どおりに行動しろと言いながら、自分はそうしていない」と批判を招いた。

イングランド地方以外のほかの地域でも同様のロックダウン規制が課されている。全国的なロックダウンとなったのは昨年3月。その後、規制は次第に解除されたが、感染者数が増えるとミニ・ロックダウン、減少すると規則を緩めるというヨーヨー方式が実践されてきた。

多くの国民にとって、どこまではよくてどこからが悪いのかがつかみにくい。何しろ、首相と言えども「ついつい」拡大解釈してしまうのだから。

昨年12月以降、コロナの変異種ウイルスによる感染が急拡大しており、先行きへの不安感、自由に外に出られないことへの閉塞感が高まっている。映画館、劇場は何カ月も閉鎖のままで、レストランやカフェはテイクアウトのみ。通りを歩くと「営業停止」の張り紙を貼った小売店が並ぶ。気晴らしができるような場所が消えてしまった。


飲食店閉店のお知らせ。ロンドンでは多くの飲食店が閉店している(撮影筆者)

感染の怖さが広がっていることがわかるのは、路上でジョギングをしていると、向こうからやってくる人がかなり距離を取って立ち止まるときだ。

また、マスクをして小売店で買い物中、棚からモノを取るためにほかの買い物客の体に少し近づいてしまうと、さっと身を避けられてしまう。

道を歩いているときに、前を歩いていた女性が突然立ち止まり、こちらを振り返って「尾行しないで!」と強く言われたこともある。「尾行しているわけじゃないですよ」と答えると、「みんなが私を尾行しているのよ」と言われてしまった。一方、近所の家から見知らぬ顔をした人が出てくると、「室内で他人に会うのは禁止なのに」と筆者自身が思ってしまう。互いを監視する気持ちが自然に湧いてしまうこの頃だ。

これまでは「公のために働いている人」として感謝されてきた駅員やバスの運転手、スーパーマーケットで働く人に対し、マスクをつけずに近寄ったり、唾を吐いたり、あるいは悪態をつく人も増えているという。

「マスクをつけていない人」を注意すると

筆者の隣人でシングルマザーのスザンナさんは、大手スーパー、セインズベリーズで働く。「私が働かないと、生活できない」。スーパーの従業員はキーワーカーとなるため、スザンナさんは毎朝、一人息子を小学校に連れていった後で職場に向かう。

スザンナさんが働くセインズベリーズの店舗内では、従業員も買い物客もマスクを着用しているが、たまにつけていない客の姿を見ることがあった。マスク(あるいはそれに類したもの)をつけずにバスに乗ったり、小売店舗に入るのは違法だが、呼吸器系の病気を持つ人はその義務がないなど例外もある。

「あまり注意しないようにしている」とスザンナさん。「怒る人が多いから」。


ロンドン市内のバス停に置かれている、室内の空気を換えることを勧める電子サイネージ(撮影筆者)

通常、入り口には従業員が1人立ち、マスクをつけずに入ろうとする人には「つけてください。規則ですよ」と声をかけているが、つけようとしない客と押し問答になっている場面を何度か見たことがあった。「うるさい!」と捨て台詞を残して出ていく客もいた。

今回のロックダウンが開始されてから、「規則を厳格に守ってほしい」と政府閣僚は繰り返している。

筆者が先日、セインズベリーズに行ってみると、入り口に立つ従業員は2人に増えていた。今後は、着用をさらに徹底させるつもりのようだ。

感染者の増大は病院が刻々と手いっぱいになることを意味する。例年、冬場は救急患者が増え、病床が不足気味となるが、今年はそれに輪をかけて新型コロナの患者を受け入れることになった。

イギリスの国営「国民医療サービス(NHS)」の病院で治療を受けている新柄コロナ患者の数は現在、約3万6000人。このうちの約1万人強が昨年のクリスマス以降に入院した人である。

NHSイングランドの調査によると、通常であれば手術をするはずの人が後回しとなっており、その数は446万人に上っている。救急病棟に運ばれた人の4人に1人(約9万人)が病床を見つけるまでに4時間以上待機し、約4000人近くは12時間以上待たざるをえなかったという。

NHSの危機を救うため、保健省は1月13日、新型コロナ患者の一部を高齢者用ケア施設に移動させる方針を発表した。

ロンドンでは一部の患者はすでにホテルに移動しているが、ケア施設側は受け入れには慎重な姿勢を見せる。昨年春、NHSの負担を軽減するため、PCR検査を受けないままに患者がケア施設に移動させられた。人権団体アムネスティー・インターナショナルは、これがケア施設での大量感染や死につながったとする報告書を出している。

すでに約300万人がワクチンを接種

こうした中、一筋の光となっているのがワクチン接種だ。


「もうすぐやってくるぞ! 24時間体制で進むコロナのワクチン」という見出しを付けた、大衆紙『デイリー・エクスプレス』の1面(1月14日付、BBCのニュースサイトより)

昨年12月8日からはアメリカ・製薬大手ファイザーとドイツ・ビオンテックが開発したワクチン、1月5日からはイギリス・アストラゼネカとオックスフォード大学開発のワクチンの接種が進んでいる。接種は13日時点で、約300万人。

ケア施設にいる高齢者とそのケアをする職員、医療分野・ソーシャルケア分野の前線で働く人、80歳以上を中心に接種が進んでおり、来月中旬までに70歳以上の希望者全員(約1400万人)への接種終了を目指す。NHSがその運営を担い、市民はGP(一般医)を通じて予約を入れ、医療クリニックや地域のワクチンセンターなどで接種を受ける。約8万人のボランティアが手伝う。

3番手となるアメリカ・モデルナ社開発のワクチンもイギリス・医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の承認を受けているが、イギリスでの使用は春以降になる見込みだ。

イギリス政府はアストラゼネカ製を1億回分(5000万人分)、ファイザー製を4000万回分(2000万人)、モデルナ製を1700万回分(850万人)注文しており、これだけでもイギリスの総人口(約6700万人)をカバーできる。このほかにも4種類のワクチンが治験中だ。

3種のどのワクチンも、1回目の接種後、一定の間隔を置いて2回目を接種する。イギリスの政府は1人でも多くの人にワクチン接種を広げるため、製薬会社側が設定した1回目と2回目の接種の間隔をより長くし、最長3カ月とする方針を採用している。

医薬当局や医療専門家の組織「予防接種・免疫合同委員会(JCVI)」が間隔の長期化を承認したが、ファイザーはほかの間隔でのデータがないと指摘し、医薬品業界では大きな議論が発生している。はたして、日本がワクチン接種を開始する頃には、この問題に片がついているのかどうか。

バスに乗るときや店舗での買い物にはマスクをつける、外から帰ったら手を洗う、たとえ戸外であっても、他者とは交流しない。不自由で息苦しさを感じるが、いつ自分があるいは自分の家族や隣人がコロナに感染するかわからないので、「感染しない・させない」をモットーに予防策を取る毎日だ。