●自販機はどれぐらいある?

我々の生活のごく身近にありながら、あまり知らない「自動販売機」のこと。通りすがりに業者さんが中を開けて補充しているところに出くわすと、ついつい覗いてしまいがち。中はどうなっているのか? ホット商品が並ぶのはいつから? スーパー、コンビニ商品との違いは? 等々、自動販売機にまつわる疑問は意外と多い。そこで今回は、サントリーオフィスにお邪魔して、サントリービバレッジソリューション 事業推進本部の岩田章宏さんと金澤奈々さんに、自動販売機について詳しく教えていただいた。

自販機のことを教えてくださった、サントリービバレッジソリューション 事業推進本部の岩田章宏さんと金澤奈々さん


自動販売機って今どれぐらいあるの?

現在、自動販売機(以下・自販機)は他社も含めると全国で230万台ぐらい展開されています。一時期は、自販機の設置台数を各社で競って拡大傾向にあったんですけど、今はコンビニがあったりドラッグストアが増えてきたり、色んな場所で飲料をお買い求めいただけるようになっているので、ある程度しっかりと売れる場所に商品が集約されるようになっています。そのため、台数自体は年々減少傾向にあります。

○サントリー自動販売機の種類

基本的には、青色のBOSSのおじさんがデザインされた自販機で展開しています。一部、病院やショッピングセンター等、景観上の理由で「すべて真っ白なものじゃないと駄目」とか、ご指定をいただく場合があったときには、白い自販機をご用意させていただくこともあります。また、設置スペースが限られた場所では、できるだけコンパクトな自販機を用意しないといけないので、幅が70cmぐらいのものなどもあります。幅が小さい分、中に入れられる商品数は限られてしますのですが、こうした小型のものから大きいものだと横幅が倍ぐらいあり、商品ラインナップも倍ぐらい入る自販機もあります。

町のいたるところで見かける、サントリーの自動販売機


自動販売機についている広告

新商品や、自販機に入っている商品に関わっているキャンペーンなどを、告知のタイミングに合わせて自販機の管理・運営や商品の投入などを行う「オペレーター」と言われる会社の方に貼り付けていただいています。例えば、自販機の下についているキャンペーン告知ツールとか、上に貼り付けてあるツール等があります。設置先によって、貼り付けないでほしいという場合もあるので、そういうところには貼っていないです。最近は、設置場所のニーズによってツールの種類を分けていまして、学校なら炭酸系のツール、会社系だと「クラフトボス」が入っていることが多いので、そのツールを貼ったりします。

自動販売機の進化

法人向けに、「健康経営」を支援するアプリ「SUNTORY+(サントリープラス)」を開発しまして、そのアプリと連動したポイントサービス「サントリー GREEN+(グリーンプラス)」を導入した自販機もあります(アプリ内にポイントが貯まり、貯まったポイントでサントリーの“トクホ飲料”に交換することができる)。オペレーションの方でも、昔は1台1台インターネットにつながっていなかったので、「何が何本減っている」というのをメモしてトラックに取りに行っていたんですけど、現在はデータが飛ぶようになっていまして、「この自販機には何が何本足りない」ということがわかるので、1回1回戻ることがなくなりました。そうしたオペレーション面の進化はありますね。

●自販機の「業界用語集」

自動販売機の「業界用語集」

【ベンダー】

自販機のことを、「ベンディングマシーン」略して「ベンダー」と呼びます。

【ダミー】

自販機の正面に商品が並んでいますよね? あれのことを我々は「ダミー」と呼んでいます。そこでお客さんに商品を選んでいただいて、欲しい商品のところのボタンを押すと中に入っている実際の商品が出てくるという仕組みになっています。

自販機に並んでいる商品の模型こと「ダミー」


【コラム】

自販機内に、商品を入れる箱みたいなものがあるんです。その箱1つ1つのことを「コラム」と呼びます。自販機の中を開けると、例えば「縦5×横5」で25のコラムがあって、そこにそれぞれの商品を入れていきます。コラムの大きさは、500mlペットボトルを含めて全部の商品に対応できるコラムと、500mlペットボトルは入らないけれども、小さいペットボトルや缶しか入らないものと、大きくわけて2つのタイプがあります。パターンは色々とありますが、市場としては500mlペットボトルの需要がすごく増えているので、500mlペットボトルが多く備えている自販機を積極的に展開するようにしています。

【セレクション】

コラムと同じ意味で「セレクション」という用語もあります。「縦5×横5」で25コラムの自販機のことを「25セレクションの自販機」、略して「25セレ」と言ったりします。それでどれぐらい商品ラインナップを揃えられる自販機なのかがわかります。これも幅と奥行きによって色んなタイプがあるのですが、サントリーのオフィシャルサイトに載っている「スタンダードタイプ」だと、「30セレ」です。必ずしも、表に並んでいる商品(フェイス)の数と同じとは限らないので、この場合は「36フェイスの30セレ」と呼びます。どういう仕組みになっているかというと、中は1つのコラムに商品が入っているんですけど、表には商品が2フェイス並んでいて、2つのボタンが1つのコラムに繋がっているんです。どちらのボタンを押しても、同じコラムから商品が出てくるようになっています。

【コインメック】

硬貨を入れる箇所のこと。

【ビルバリ―】

お札を入れる箇所のこと。

【自販機オペレーター】

自販機設置場所に応じた商品の選定・管理・補充、自販機へのPOPの貼付、自販機および周辺の清掃、売上金の回収・管理などの業務を担っている会社のこと。

【商品名の略称】

正式名称として使っているものはないんですけど、例えば「サントリー緑茶 伊右衛門 280mlペット」のことを、「伊右衛門小ペット」と呼んだりします。僕が昔セールスをしていたときには、伊右衛門茶の小さいペットボトル、略して「伊茶小ペ」(いちゃこぺ)って言っていました。僕が担当していたオペレーターさんがそういう風に言っていたのでそれが正式名称だと思っていたんですけど、本社に移ってから「伊茶小ペ」って言ったら「なんのこと?」と言われ、共通の略称ではないことに気付きました(笑)。

○スーパー、コンビニなどと自動販売機で売られる商品の違い

基本的には、お客さまが飲みたいものをお客さまの一番近くで提供できるというのが、自販機の強みだと思っています。ラインナップとしては、完全にスーパー、コンビニと違うものだけを揃えるということではなく、お客さまが求める同じ商品を提供するというのがベースにあります。なので、スーパー、コンビニで売れ筋だった商品を自販機でも売るようにしようということもあります。

例えば、今年の9月から「クラフトボス レモンティー」と「クラフトボス ミルクティー」を自販機でも取り扱うようになりました。ただ、自販機という特性上、買ってすぐに飲み切りたいというニーズもありますので、例えばコンビニとかには売っていない「サントリー緑茶 伊右衛門 280mlペット」も、飲みきりサイズで自販機で提供しています。あとは、「ペプシ リフレッシュショット」という商品があるんですけど、200mlの容量でグッと飲んで、「さあ、仕事がんばろうか」って体にスイッチを入れるような、小容量で濃い商品を提供していたりします。

また、同じ容量でもスーパー、コンビニとかと容器が違う場合もあります。なぜかというと、例えば四角い容器だと自販機の中でひっかかっちゃうんです。ですので、自販機の商品には円柱型のボトルが多いです。あとは、下に落ちてくるのでその衝撃に耐えられるような容器になっています。

自動販売機限定商品

「サントリー天然水サイダー」

学校に設置した自販機で良く売れています。甘さと天然水の清冽な美味しさが、学生さんにニーズがあるのではないかということで2019年に発売したところ、現在も大変好評をいただいています。

「GREEN DAKARA すっきりしたトマト」

自販機で非常に売れている商品です。トマトジュースのドロッとしたところがなく、すっきりして飲みやすいので「トマトジュースは嫌いだったけどこれは飲める」という嬉しいお声をいただいています。着眼点としては、野菜の栄養も摂れるし、水分補給もできますし、厚生労働省が熱中症対策として推奨しているナトリウム量も入っていています。一気に缶で飲み干すという熱中症対策もできるので、一気に缶で飲み干すというニーズが、周りにあまりお店がない環境の工場の自販機にあるんじゃないかということでした。発売以来、工場だけでなくオフィスでも、不健康を気にしている方が免罪符的に飲まれているようで、人気がありますね。

「POPメロンソーダ」

“懐かしい”というイメージがポイントです。自販機って、メインのお客さんが30代〜50代の男性の方が多いんです。そのメインユーザーの方が、昔懐かしく思えるところが好まれているんだと思います。じつはそれで、「天然水サイダー」もパッケージにビー玉がデザインされているんですよ。

その他、9月ぐらいに発売した2月ぐらいまでの期間限定発売商品「ホットはちみつレモン」「ビストロボス コク旨い、粒たっぷりコーンスープ」等も人気です。

●ホットに切り替わるのはいつ?

○ホット商品に切り替わるのはいつ?

増えてくるのは10月ぐらいからなんですけど、結構毎年気温にバラつきがあるので、早く寒くなればそれだけ早く切り替わります。今年は割とあたたかいのでこれから本腰を入れてホットに変えていきます。切り替えのタイミングは現場のオペレーターの方が一番わかっているところなので、エリアだけじゃなくてそれこそ自販機1台ごとに最適なタイミングを判断してもらっていますね。ホットに切り替える列数を、自販機ごとに変えていて、めちゃくちゃホットが売れる場所の場合は可能な限り全部ホットにするということもあれば、あまりホットが売れない場所は1列だけで、あとは冬場でコールドで売るというような判断も、オペレーターさんが1台ごとにしてくださいます。設置場所が室内か屋外かということも判断材料になります。冬場でもオフィスだったら中の方が暑かったりもしますので、天然水やお茶等、500mlのペットボトルが売り上げ上位を占めているんですけど、屋外に設置してある自販機ではコーヒーなどのホット商品が売れ筋になっています。ですので、設置場所によって1台ごとの判断になります。

ホットへの切り替えタイミングは、現場のオペレーターに任されている


○冬場の人気商品

ホットで言うと、コーンポタージュやはちみつレモン、ココアなどが定番人気商品となっています。その他だと「伊右衛門」の緑茶とほうじ茶や、すごく売り上げが高いのがリプトンのミルクティーです。それとコーヒーは冬場はホットで飲まれることが非常に多いので、自動販売機限定のラインナップで新発売の「ボス くつろぎドリップ」はホットで飲んでいただくことを主に想定して開発しています。また、「ボス ロースターズセレクション」は去年も発売して大変好評だった商品で、今年は少しリニューアルして発売しているんですけど、ホットでもコールドでも人気です。

冬場、自動販売機でよく売れる商品


○夏場でもホットが売れる自販機もある?

それはありますね。台数としてはそんなに多くはないですが、例えば缶コーヒーの多くは、ホットでもコールドでも提供できるので、ご要望があれば最小のホットだけ夏場でも残して飲めるようにしておくことはできます。

○自販機限定! 伊右衛門のクイズラベル

自販機限定で、「伊右衛門」の500mlのクイズラベルというものを昨年からやってまして、結構難しいクイズが載ってるんですよ。いつも買っていただいている方に、電車の待ち時間とかにクイズを解いてスッキリしてもらおうということで(笑)。結構お客さまの声でも反響があって、「このクイズってこれも正解なんじゃないでしょうか?」とか、新しい答えを生み出してくださったりというお声をいただいているようです(笑)。「伊右衛門」のテーマの1つが「おもてなし」ということと、クイズラベルをやり始めたときのコンセプトは「心を軽くするお茶」というもので、飲んでるときに楽しんでもらおうという思いもあります。全25問あり。

伊右衛門のパッケージに、なんとクイズが!


クイズ例:「レンジャーに、ある色の隊員が加わったらとても挑戦的になりました。何色が加わった?」(答:茶色)

○同じ商品でコールド用とホット用がある?

商品によってはそのままホットにする商品もあるんですけど、お茶はあたたかい温度で美味しく飲めるように設計されていて、ホット用のお茶にしています。

○「あったか〜い」と「あたたかい」の謎

※自販機によって「あったか〜い」と「あたたかい」、「つめた〜い」と「つめたい」のように、表記が違うのは何故なのか?

同じ自販機でも、メーカー各社が作っていて、そのメーカーが機材に最初から「つめたい」「あたたかい」というラベルを置いているんです。たぶん、そのメーカーさんの違いだと思います。理由はわかりませんが(笑)。どちらにせよ、HOTの温度は基本的に55℃という一定の温度を保つようになっています。

○ゴミ箱ではなく「リサイクルボックス」

あまり知られていないのですが、じつは自販機の横にあるのはゴミ箱ではなくて、「リサイクルボックス」なんです。リサイクル目的に空容器だけを集めているので、飲料の空容器以外の容器を捨てないように覚えておいてほしいです。

なるほど、結構知らないことだらけだった自動販売機のあれこれ。普段、何気なく利用していたけれど、今後から細かいところまでチェックしてしまうかも。寒い季節に自動販売機から出てくるあたたかい飲み物のありがたさを、今年はより一層感じられそうだ。

岡本貴之 おかもと たかゆき 1971年新潟県生まれのフリーライター。音楽取材の他、グルメ 取材、様々なカルチャーの体験レポート等、多岐にわたり取材・ 執筆している。趣味はプロレス・格闘技観戦。著書は『I LIKE YOU 忌野清志郎』(岡本貴之編・河出書房新社)」 この著者の記事一覧はこちら