自民党の幹事長代行に就任した野田聖子さん(左)。女性議員が少ない日本の現状をどう変えていくのか。杉田水脈衆議院議員に対する署名をなぜ受け取らなかったのか。笑下村塾たかまつなながうかがいました

今年9月、自民党の幹事長代行に就任した野田聖子さん。長年、女性活躍の道を切り開いてきましたが、政治の世界はいまだに男性ばかり。衆議院議員の女性比率はわずか1割です。女性議員が少なく、女性の意見が政策に反映されにくい日本の現状をどう捉え、変えていこうとしているのか。

一方で、性暴力被害者への支援をめぐって自民党の杉田水脈衆議院議員が「女性はいくらでもウソをつける」と発言した問題で、杉田議員の議員辞職などを求める団体が10月13日に13万6000筆の署名を自民党の野田さんのもとへ持参しましたが、野田さんは受け取りを拒否しました。なぜ署名を受け取らなかったのか。笑下村塾たかまつなながその真意を聞きました。

不戦敗で終わった総裁選

──さっそくですが、9月の総裁選に立候補されなかったのはどうしてですか?

野田 聖子(以下、野田):自民党の総裁選というのは、予備的にまず推薦人を20人集めなければならないんです。私はどこの派閥にも所属していないので、推薦人を集めるのに非常に時間がかかるし、一匹狼で人とつるまないで生きているから、いざというときに推薦してくれる人がパッと現れない。今回は突然のことだったので準備する間もなかったという感じで、完全に不戦敗です。

でも私は過去に3回挑戦しているんですね。1回目と2回目は20人まであとちょっとというところまで集まったんです。意外と私と同じ考え方の人がいたんだとうれしくなりました。私は国会議員という仕事をいただいている限り、自民党の総裁、すなわち総理大臣を目指して頑張るのが約束だと思っています。

──自民党の結党以来、女性では小池百合子さんしか総裁選に立候補していないと知って本当に驚きました。これは女性だからということもあるんですか?

野田:それがいちばんの理由だと思います。推薦人を頼むときに「野田さんは女性政策しかやっていないから」という理由で断る方もけっこういます。でも女性政策というものはなくて、全部、国の政策なんですよね。私たち女性だって国民なのに女性の政策と言われるのが非常に腹立たしいです。

──私もそれが問題だと思いました。総裁選では、子育てとか私たちに身近な話が全然出てこなかったですよね。ご著書などを読ませていただく中で、野田さんはいい意味で、本当に女性の方だなと感じていました。

野田:有権者にとって政治は男の人がやる仕事だという先入観があると思います。政治家に女性がいることが国民の得になるという発想が生まれてこないから、同じ問題意識を共有する仲間を増やせないというのはあります。自民党の女性議員は衆参両院合わせて40人ぐらいで、すごく少ないですよね。

女を捨てて生きてきた

──野田さんは男化していない女性ですよね。


「政治家は男の仕事だから女を捨てろ」と言われ、野田さん自身もそうだと思っていた

野田:私も26歳で県議会議員になったころは男化していました。そのころは、「政治家は男の仕事だから女を捨てろ」って言われて、私も本当にそうだと思っていたんです。周りに女性がいない職場で、しかも父親世代の人が多いところなので、そういう人たちは女性が男性よりも劣っているというのが前提なんです。

だから私も、男性よりもお酒が強くなきゃいけないとか、男性よりもたくさん働かなきゃいけないとか、女性としての自由は奪われてもしかたないという発想で40歳ぐらいまできました。実際に支援者の方からは、ピアスをすることも髪を伸ばすことも許されず、まして結婚なんてありえないと言われていました。

──どうして女性に戻れたんですか?

野田:50歳で息子を産んだのがきっかけです。本当はもっと早く結婚してお母さんになりたかったんですけど、37歳のときに郵政大臣になったら、応援してくれている人たちが「結婚しなさい」って言い始めた。「え──、今までだめって言っていたじゃない」と思ったんですけど、応援している人からすると大臣になれたというのは1つのゴールだったんですね。

それでとても遅いスタートだったけれど、ママになりたいと思って不妊治療を始めました。当然、時期が遅くてとても苦労してしまって。卵子をいただくことで、自分の血はつながっていないけど自分のお腹で産むという形でママになりました。

──仕事を頑張る女性の多くは、結婚して子どもが欲しくても後回しにせざるをえない状況で働いています。菅総理が言う不妊治療の保険適用なども素晴らしいとは思いますが、少子化の抜本的な解決にはならない中で、野田さんのご経験に基づく政策に期待したいです。

野田:おっしゃるとおりです。これまで男性の国会議員の口からは出なかった「不妊治療」という言葉を菅総理が言ってくれたことは感謝しています。ただ、いちばん大事なのは、たかまつさんのような20代30代の女性たちが、バランスの取れる人生を送れることです。余裕を持って結婚して子どもを産めることが大事なんですよ。


ネット上ではひどい内容の書き込みも

──野田さんが不妊治療で悩まれているときに、ネットで目を疑うような、ひどいことを書き込まれていましたね。

野田:夫はすごく傷ついて、心を病んでしまったこともありました。だから私は自分がそういう目にあった分、人がそうならないような仕掛けを作っていきたいと思っています。

──自民党に女性議員が少ないのはなぜですか?

野田:自民党が与党だということで、衆議院の小選挙区だと300議席のほとんどが埋まっていて、現職の男性が過去からの実績でいるから隙間がないんです。だからこれは、やっぱり野党の仕事だと思います。野党では議席の空いているところをすべて女性にするぐらい大胆なことをしてもらって有権者をひきつけて選挙に勝てば、私たち自民党もやらなきゃということになって相乗効果が生まれるんじゃないでしょうか。

与党だからこそできること

──野田さんは幹事長代行として、どんな仕事をしていきたいと考えていますか?

野田:幹事長代行というのは、言い方は悪いですが、権力に近いポジション。つまり、いろいろなイノベーション(革新)ができるということです。菅総理は私に、大衆迎合的な女性活躍ではなくて、内部から変わっていけるような女性活躍を託してくれているのかなと思っています。私は野党を経験していますが、野党でどんなことを言っても形になりません。でも、与党の場合は時間はかかるかもしれないけど、確実に形になる。だから、それを生かしていきたいと思っています。

──お答えしづらいかもしれないですが、本音で教えていただきたいです。先日、自民党の杉田水脈衆議院議員の発言をめぐって、杉田議員の議員辞職などを求める団体が野田さんのもとへ13万6000筆の署名を届けに行きましたが、受け取りを拒否されましたね。あれはなぜですか?

野田:なぜかというと、リクエストをされても自民党の幹事長代行の私の能力では結論が出せないと考えたからです。撤回と謝罪と議員辞職を求められましたが、議員辞職の出処進退は基本的に本人が決めるものです。

「できない約束はしない」

──受け取るぐらいはしてほしかったです。


せめて受け取るぐらいはしてほしかったが……

野田:約束できないことをパフォーマンスとして受け取ることを私は一度もしたことがありません。例えばその少し前に、どちらかというと自民党に批判的な団体が女性議員を増やしてほしいという署名を集めてくれたことがありました。女性議員を増やすということは、私の能力でできることです。だからちゃんと受け取って、答えを返すというのが私のミッションです。でも、議員辞職についてはできないことだから、そこを理解してほしい。

──自民党による圧力とか空気感で署名を受け取れないとしたら嫌だなと思ったんですが。

野田:いえ、私の判断です。「女性はわかっていない」と言われたくなかったので、女性の尊厳を守るためにそう判断しました。私は彼女たちを裏切ったつもりはないし、彼女たちには、これからの先の性被害についての法律改正について議論しましょう、それが私にできる能力なんですと伝えました。

──野田さんはできないことはしない。できることはする。この誠実さはすごく心強いと思いました。最後に、女性議員が増えることが世の中にとってどんなメリットがあるのか、女性議員が増えるために私たち有権者ができることは何かを伺いたいです。

野田:よりバランスの取れた国が作れるからです。有権者の多様な意見を集約して、政策にして法律にしたり予算にしたりするのが私たち国会議員の本来の仕事です。いま有権者の性別を見ると、男女がほぼ半々。高齢者では女性のほうが圧倒的に多くなります。だから国会議員も五分五分の人数がいてはじめて意見のバランスが取れるはずなんです。

ところが今、国会議員の男女比は9対1だということに誰も気がついていない。特に女性には気がついてほしいです。例えば、グループの中で赤が好きな人が9人いて、白が好きな人が1人だけだったら、基本的には赤の話になっていく。そういうことが政治では日常的に行われているんです。

9割の男性の中で出てこなかった答えが出てくるかも

──その結果、どうなるんですか?


女性の気持ちが沈むことで、男性のポテンシャルも下がってしまう

野田:結果として、政策に限らず女性の力が十分に活かせないことにつながります。なぜなら女性の周りには男性がいるわけですよ。例えばお父さんだったり、お兄さんだったり弟だったり。夫でも恋人でもいい。女性の気持ちが沈むことで男性のポテンシャルも下がってしまう。幸せ度が下がってしまうんです。

企業においても多様性を重視して、女性のみならず外国人や障害のある人を積極的に採用する企業のほうが収益をあげているということは明らかなんですね。女性が増えてバランスが取れることで、新しいアイデアや仕事も生まれるでしょう。だから決して道徳的な話ではないんです。今まで9割の男性の中で答えが出せなかったものでも、答えが出てくるかもしれない。その道筋をつけるためにも、女性の役割を増やしていくことが大事です。

──本当に女性の国会議員が増えてほしいです。

野田:たかまつさんもぜひ国会議員に立候補してください。

── 嫌です(笑)。2万パーセントありえません。本日は、お忙しい中、本当にありがとうございました。