「認知能力が高い人ほど社会的距離をきちんと保つ」など新型コロナ予防ができる人/できない人の姿が研究により浮き彫りに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的な脅威となって以来、多くの人が社会的距離を保ったり、手洗いやマスク着用の徹底に努めたりしてきましたが、中には検査でCOVID-19陽性と診断された後に「ウイルスをばらまいてやる」などと言って飲食店をはしごしてしまうような人もいます。そんなCOVID-19対策の取り組みに現れる姿勢には、個人の資質が関係している可能性が、複数の研究により示されています。
https://www.pnas.org/content/117/30/17667
Lower working memory capacity linked to non-compliance with social distancing guidelines during the early stage of the coronavirus outbreak
https://www.psypost.org/2020/07/study-lower-cognitive-ability-linked-to-non-compliance-with-social-distancing-guidelines-during-the-coronavirus-outbreak-57293
Adaptive and maladaptive behavior during the COVID-19 pandemic: The roles of Dark Triad traits, collective narcissism, and health beliefs - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886920304219
Narcissistic personalities linked to defiance of coronavirus prevention guidelines and hoarding
https://www.psypost.org/2020/07/narcissistic-personalities-linked-to-defiance-of-coronavirus-prevention-guidelines-and-hoarding-57230
2020年3月には、不要不急の外出を控えたり人が集まるイベントなどを中止したりする「社会距離拡大戦略はCOVID-19対策として有効」だと判明していますが、一部の地域では自宅待機命令が発令された後にもかかわらず、外でのレジャーを楽しんだり人混みの中を出歩いたりしまう人の姿も散見されました。
そこで、アメリカ国立衛生研究所に勤めるWeizhen Xie氏らの研究チームは、アメリカ在住者850人を対象に、社会的距離を保つ行動と個人の認知能力の関係を調査しました。調査では、アメリカで国家緊急事態宣言が発令された2020年3月13日からの2週間に、社会的距離のガイドラインを順守したかどうかや、対象者らのワーキングメモリに関する評価が行われました。なお、ワーキングメモリとは、情報を一時的に保ちながら行動するための能力のことで、作業領域とも呼ばれています。
Xie氏らが対象者のワーキングメモリと社会的距離の実践状況を分析した結果、「ワーキングメモリの容量が多い人ほど、社会的距離を保つよう求めるガイドラインに従う傾向が強い」ことが分かりました。研究チームはこの結果について「ワーキングメモリの容量が多い人は、社会的距離のコストよりメリットの方が大きいと考える傾向があります」と結論付けています。
また、Xie氏はワーキングメモリとCOVID-19対策の取り組みの関係について、「社会的距離のガイドラインにした従うかどうかの判断は、公衆衛生の負担軽減といった公益と、社会的つながりの喪失といった個人的な犠牲をてんびんにかけなければならない難問です。このような課題への判断力は、複数の情報を頭の中に保持するという精神的な能力、つまりワーキングメモリに依存しているわけです」と述べています。
一方、論文の共著者であるWeiwei Zhang氏は「私たちが調査に含めなかった多くの要因が、社会的距離に関する行動に影響しているのは間違いありません。従って、社会的距離のガイドラインを守ったかどうかを、ワーキングメモリの容量などの認知能力に直結させるような単純化は是認できず、不適切です」と述べて、あくまでワーキングメモリは要因の1つに過ぎないことを強調しました。
認知能力の高さと、社会的距離の取り組みの実践との間にある関係性が明らかになった一方で、こうした取り組みに非協力的な人の傾向も分かってきています。
ポーランドの公立大学であるUniversity of Cardinal Stefan Wyszynski in Warsawで心理学を研究しているMagdalena Zemojtel-Piotrowska氏らの研究チームは、COVID-19対策に協力するかどうかや、物資を独り占めしてしまう買い占めといった行動の背景には、反社会的な性格の指標となるダークトライアドが深く関係しているのではないかと考えました。
ダークトライアドとは、虚栄心や非現実的な優越感などを伴う「自己愛傾向」、他人を操ろうとしたり冷淡さや道徳への無関心を示したりする「マキャヴェリズム」、良心や共感の欠如が見られる「サイコパシー」という3つのパーソナリティ特性の総称です。
by Matinee71
Zemojtel-Piotrowska氏らが実際に、ポーランド在住者755人を対象にダークトライアド診断と、COVID-19に関する感染症予防行動と買い占めのアンケートを実施して分析したところ、「ダークトライアド診断で高いスコアを記録した人は、予防行動を行う可能性が低い一方で、買い占めを行う可能性は高い」ことが判明しました。
この研究結果について、研究チームは論文の中で、「ダークトライアドの特徴を持つ人が、予防行動をする確率が低い一方で、買い占めに走りがちだったという結果は、そうした人たちが衝動的で、利己心が高く、リスクを冒す傾向が強いというこれまでの知見と一致しています。つまり、ダークトライアドの特徴を持つ人は、予防行動に関するネガティブな側面に関心を寄せる一方で、予防をするメリットは考慮していないものと見られます」と分析しています。
一方、研究チームは調査の制限として「この研究は、COVID-19の影響がそれほど深刻ではなく、物質的にも豊かな単一の文化圏で行われた研究に過ぎません」と指摘して、今回の研究結果を一般化するにはより多くの研究が必要であるとの見方を示しました。