『ケトルVOL.53』(クレヨンしんちゃん特集/太田出版)

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原作コミックスでは、しんのすけたちにいつも原稿の邪魔をされる漫画家「よしいうすと先生」、アニメの劇場版においては本人役で野原一家の前に現れ、朗々とカラオケで歌い上げる──『クレヨンしんちゃん』の原作者の臼井儀人先生の名前を聞いた長年のファンは、そんなキャラクターを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

そんな臼井先生ですが、実際には公の場に登場することがほとんどなく、謎めいたイメージがありました。果たして臼井先生はどんな方だったのでしょうか? 担当編集を務めた双葉社の鈴木健介さんは、『ケトルVOL.53』でこのように語っています。

「すごく真面目で、誠実な方でした。『よしいうすと先生』は毎回、しんのすけたちのドタバタに巻き込まれてマンガを休載するのが話のオチでしたけど、実際の先生は優良進行。締め切りをやぶるなんてことはなくて、前もって2カ月先の原稿を上げるスケジュールを組まれていました。もしかすると、自分がやらなそうなことを、マンガのキャラクターを通じてやっていたのかもしれないですね」

クレヨンしんちゃん』の連載が『週刊漫画アクション』でスタートしたのが1990年。連載10年の節目で移籍した『まんがタウン』編集部で、2000年から鈴木さんは臼井先生の担当に就任しました。漫画家と編集者の打ち合わせ場所というと喫茶店やファミレスのイメージが強いですが、臼井先生はひと味違ったそうです。

「最初の数年は、春日部にあるスーパー銭湯が定番でした。ひとっ風呂あびてから、館内にある食事処で焼肉を食べながら打ち合わせをしてましたね。気を遣ってくださる方だったので、風呂の中では別行動。『何時に集合ね』と入り口で別れて、食事処に集合でした。

何かのお祝いのときに、双葉社から先生とご家族に海外旅行をプレゼントしようとしたことがあったんです。でも先生はそれを断って、『鈴木さん、一緒に行きましょう』と言ってくださった。当時は僕が担当になりたての頃だったので、距離を近付けようとしてくれたのかもしれません。これだけの国民的作品を描かれたマンガ家とは思えないほど、いっさい偉ぶらない、フランクな方でした」

締め切りに遅れることはなかったものの、長期連載のギャグマンガゆえの産みの苦しみはあり、「ネタが出なくて苦しい、乾いた雑巾を絞るようだ」とこぼすこともあったのだそう。お気楽でほのぼのとした雰囲気が魅力の『クレヨンしんちゃん』ですが、その陰には臼井先生の血のにじむような努力があったようです。

◆ケトルVOL.53(2020年4月15日発売)