多くの企業が在宅勤務の体制へと切り替えている

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連載「30代からでも変われる! 中野式カラダ改造計画」

 忙しい大人向けの健康術を指南する「THE ANSWER」の連載「30代からでも変われる! 中野式カラダ改造計画」。多くのアスリートを手掛けるフィジカルトレーナー・中野ジェームズ修一氏がビジネスパーソン向けの健康増進や体作りのアドバイスを送る。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、全国的にテレワークが広がる今。運動不足に陥るビジネスパーソンが増えつつある。今回は、そんな大人たちに中野氏が対処法をアドバイスする。社会的距離を保ち、手洗いうがいを徹底した上で、行いましょう。

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 現在、コロナウイルスの影響で、多くの企業が在宅勤務の体制へと切り替えています。「私もその一人」という方、出勤生活から在宅勤務になり、今日で何日経ちましたか?

 最近、弊社のスタッフである20代のトレーナーが、2週間入院しました。寝たきりの生活を送っていた彼の退院後の体重は、なんと入院前と比べて4kg減。この数値が意味するのは、体を使わない生活が続くと筋肉がごっそり落ちてしまう、ということです。

 筋肉は非常にエネルギーを使う器官です。筋肉量があるほど基礎代謝量も高く、横になっているだけでもどんどんエネルギーを消費します。入院時の体はケガや病気を治すためにパワーが必要ですが、筋肉量が多いと治癒に使いたいエネルギーまでごっそり持っていかれてしまう。つまり、動かさなくなった体にとって筋肉は邪魔者であり、“必要のないもの”と判断され、どんどん削られていくのです。

 実は在宅勤務に切り替えた方の体は、入院時と同じことが起きています。

「いやいや、座って仕事をしているし、寝たきりとは全然、違うでしょう!」と思う方もいるかもしれません。しかし、残念ながら寝たきり状態もイスに座って仕事をしている状態も、体の活動量からみるとほぼ変わりません。

 まず、自宅勤務になると、脚を使う機会が極端に少なくなります。多くの方は仕事を始める前に、飲み水やリモコンなどデスクに必要なものを揃えておくと思います。体を移動させるのは、せいぜいデスクからトイレに行くときぐらい。トイレまでの距離が何百メートルもある大豪邸に住んでいない限り、数十歩程度で往復できます。また、イスの背もたれに寄りかかる、頬杖をつくなど楽な姿勢で過ごしたりするのも、病院でベッドに横になっている状態とほぼ変わりません。さらに食事を自分で作ったり、外に買いに出たりせず、宅配に頼っていれば、配膳されているのと同じです。

 特にエネルギーを食う臀部や脚の大きな筋肉は早々に「邪魔者認定」され、下半身の筋肉は、どんどんそぎ落とされます。すると、基礎代謝量が減るので当然太っていくし、動かないことで足腰が痛くなったり、弱くなったりもします。長期間続けば、食べすぎによる疾患も出始めます。

 筋肉は1日単位で、日に日に削られていきます。しかも、1週間、2週間と続くと加速的になくなっていく。20代でも2週間でごっそり筋肉が落ちるのですから、30代、40代となればなおさらです。「通勤しなくていいからラッキー!」「動かなくて済むから楽」とデスクワークとゴロゴロ生活を繰り返している方は、危機的状況といえるでしょう。

1日1回、最低60分のウォーキングを提言

 では、この状況から脱するためにはどうしたらよいのか? 日本では現在、運動のための外出は制限されていません。是非、1日1回、最低60分のウォーキングを実行しましょう。

「最低60分」ならば、これまで出勤に使っていた通勤時間や、服選び、メイクなど準備の時間を考えると、決して長時間ではないと思います。また、ウォーキングは歩きやすい靴さえあればできるので、誰でも気軽に、今日から始められます。

 最初はのんびり歩くだけでもいい。慣れたら歩幅を広げたり、スピードを上げたりして、軽く息が上がる程度のウォーキングを60〜90分、続けます。物足りなくなったら、ジョギングに切り替えるのもおすすめです。

「でも面倒くさい」? そうですね、誰もが最初、そう感じると思います。でもこれは、あなたが面倒くさがり屋だから、運動が苦手だから、そう感じるのではありません。

 人は習慣にないことをすると、“不快”と感じます。

 例えば、「起床→トイレ→歯磨き→洗顔→身支度→コーヒーを入れる」というルーティンがあるとします。これを繰り返している間は“快”と感じますが、トイレが故障して外出後までガマンする、寝坊してコーヒーを飲まずに飛び出すなど、アクシデントでルーティンが狂えば、途端に“不快”と感じます。

 ですから、日々のルーティンに“運動”がなかった人が1時間のウォーキングを生活に組み込めば“不快”と感じるのは当然です。でも、それは本当に最初だけのこと。1週間も続ければ新たなルーティンとして習慣になり、自然と“快”に変わっていきます。

 新たな習慣を構築するためには、同じ時間帯、同じ環境下で続けることが最も近道です。そう考えると、出張や会議、接待などが少なく、起床時間、帰宅時間が狂いにくい在宅勤務中は、むしろ運動習慣をものにする最高のチャンス。自分の生活スタイルや習慣に合わせて、朝に「起床→トイレ→歯磨き→洗顔→ウォーキング→身支度」にしてもいいし、夜、終業後に「食事→ウォーキング→入浴→就寝」などとしてもいい。

 まずは靴を履いて、外に出てみる。感染予防には十分配慮して、今日の夜からでも、続けてみてください!(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

中野ジェームズ修一
1971年、長野県生まれ。フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナー。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛選手やバドミントンの藤井瑞希選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。クルム伊達公子選手の現役復帰にも貢献した。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。主な著書に『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(大和書房)、『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)などベストセラー多数。