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刑務所を出所した人たちに対する就労支援に関する「就労支援セミナー」(主催:公益財団法人「清心内海塾」)が2月21日、都内で開催された。

セミナーには、法務省の田中大輔さん(法務省保護局更生保護振興課 地域連携・社会復帰支援室長)や廣末登さん(福岡県更生保護就労支援事業所長)のほか、実際に就労支援の現場に携わる協力雇用主などが登壇した。

廣末さんは「社会が『犯罪者だから』という心のバリアを外し、社会全体の問題として対処しなければ、『再犯』という形ではね返ってきます。それは『新たな被害者を生んでしまう』ということです」と強調した。

●生きづらさを抱えた人たちが「やり直しができる社会を」

犯罪をした人や刑務所の出所者に対しては、「負」のイメージが強い。彼らに対する「支援」というと、「犯罪者に甘すぎる」「犯罪者への手厚い保護はやめてほしい」「悪いことをした人たちに支援は必要ない」など、非難の声が上がることも少なくない。

なぜ、彼らを支援しなければならないのか。

廣末さんは「犯罪をした人の行為、前科や前歴だけに目がいき、その人の背景、人生やさまざまな諸要因までもを見ようとしない」社会の風潮を疑問視する。

刑務所を出所した人たちは、さまざまな「生きづらさ」を抱えている。受刑者の中には高齢であったり、精神障害や身体障害を抱えていたりする人もいる。出所時に口座や携帯電話が持てなかったり、身元保証人がいなかったりするなどの問題を抱えていることも少なくない。また、再犯時に「住居不定」となっている人もいる。

さらに、犯罪や非行をおこなう人たちの中には、過去に養育者からの虐待や不適切な養育などを受けてきた人も少なくないことが指摘されている。

廣末さんは「生まれながらの家庭環境などは彼らにはどうしようもできなかった要因です。必死に生きてきた結果、罪を犯してしまった人たちもいます」とし、「(彼らにとって)やり直しができる社会を目指したい」と支援の必要性を訴えた。

そして、再犯のない安全・安心な社会を築くためには、保護司や協力雇用主(出所者を雇用または雇用しようとする民間の事業主)などとの協力や社会の理解が不可欠であるとした。

●協力雇用主が提供する「居場所」と「心のよりどころ」

2018年に刑務所に再入所した人のうち「無職」が占める割合は約7割となっている(『令和元年版犯罪白書』)。就労支援は再犯を防ぐために必要な対策のひとつだ。

仕事をみつけることができれば、経済的に安定し、生活リズムができる。田中さんによると、出所者の中には孤立している人やその日暮らしの人が少なくないという。そのため、就労支援によって孤立を防ぎ、将来を展望しやすくなるなどの効果も期待できるようだ。

「もちろん、ときには厳しい対応をしなければならないときもあります。しかし、支援をしないと1人で生きていけない人たちがいます」(田中さん)

しかし、すべての人がうまくいくわけではない。協力雇用主の廣瀬伸恵さん(大伸ワークサポート代表取締役)は「大切な人ができた人、居場所をみつけた人、人生をやり直したいという覚悟を持っている人」はうまくいくと語る。逆に、そうではない人はうまくいかないこともあるという。

廣瀬さんは「居場所」「心のよりどころ」をつくるために、誰とでも同じ目線で接すること、日常的に根気強く関わっていくことを心がけている。食事は廣瀬さんの手作りで、みんなで食卓を囲むなど、家庭的な雰囲気を大切にしている。

「家庭」を知らなかったり、家族で食事をしたりしたことがない出所者も少なくない。彼らにとって、食卓を囲むことはこころの支えとなるだろう。

●再犯者率は上昇…「再犯防止」に力を

2016年に「再犯防止推進法」が施行され、2017年に「再犯防止推進計画」が閣議決定されたことを受け、国は再犯防止に力を入れている。『令和元年版犯罪白書』によれば、刑法犯による検挙人員中の再犯者率(刑法犯検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は上昇し続け、2018年は48.8%だった。

初犯者・再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された人)ともに人員は減ってきているのはたしかだ。しかし、再犯者を上回るペースで初犯者の人員が減少し続けていることから、再犯者率が上昇しているのだという。