【ファンキー通信】「PSEマーク」が、ビンテージサウンドを奪う!?

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 「昔のアンプは、音が違うんだよね〜。真空管を使った物には何とも言えない雰囲気があって、ふくよかで、あったかくて、心地良いんだ」。音楽をこよなく愛していた友人が、かつてこう語ってくれたことがあった。特に50年代から70年代に製造されたアンプは、そのサウンドの深みから多くのギタリストやオルガニストに重宝されている。

 ところが今、こうした多くのファンを持つこのビンテージ音響機器が、存亡の危機にあるのだ。

 2001年に施行された電気用品安全法がその原因。もともと、海外からの粗悪な家電製品から私たちを守るために作られたのが、この法律。だからこの法律は、製造業者と輸入業者にはすぐに伝えられ、製品は安全ですよという意味の「PSEマーク」が、2001年以降に製造・輸入された製品に付けられるようになった。「PSEマーク」のない電化製品の販売を禁止するこの法律には、5・7・10年とそれぞれの製品に法律施行の猶予期限が設けられ、今年の3月末に初めて、その期限が切れて販売できなくなる製品が出てくる。

 今回その対象となるのは、音響機器をはじめ、冷蔵庫、洗濯機に電気コタツやゲーム機など。このマークがない製品は、売るのも買うのもダメなのだ。これは非常事態である。なぜならば、どんなにすばらしい音を出すアンプも、まだまだ十分に冷やしてくれる冷蔵庫も、ただのゴミと化してしまうのだから。
 
 この法律が本格的に施行される4月以降、一番被害をこうむると言われているのが、中古家電や中古音響機器等を取り扱うリサイクル業者の方々。さっそく現場の声を聞いてみた。

 「国はリサイクルを推進し、エネルギーの保存を訴えて取り組んでいますよね? 今回の事は全く本末転倒で、私たちが抱えているアンティークなアンプやギター、キーボードだって、み〜んな、ゴミになってしまうんですよ。こういうものは美術品と同じなんです。過去の物の良さがあるんです。過去の物にしか出せない音があるんですよ」(大手中古音響機器取扱店スタッフ)

 しかもこの法律、施行を目前としているにもかかわらず、こうしたリサイクル業者の方々にはしっかり伝わっていなかったようで、1月、2月になって初めて知り、PSEマークのない商品を捨て値で売り出している業者も少なくないようである。

 「新たにPSEマークを取得するための検査には、ビンテージ物の音響機器を傷めてしまう可能性があると共に、高額の資金を要するというリスクがついてまわるために、手も足も出ない状況です」と、同業者さん。この件に対しては、世界的な音楽家の坂本龍一氏もPSE法緩和を求める署名運動をしているほど。

 古くてもとても価値があるものを、その価値を見出すことなく奪ってしまうこの法律。確かに、新品で購入したのにコードを差し込んでもうんともすんともいわないような製品が、たくさんはびこる世の中では困る。けれども、使用が可能で、しかもそれにしかできない良さを持った製品を一掃してしまうようなこの法律は、私たちを守るための法律というより、私たちから大切なものを奪っていく法律という気がしませんか?(小川晶子/verb)

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