佐藤隆太 “共演者はお客さん” の舞台に緊張するも「ナマのライブは贅沢な時間」
『エブリ・ブリリアント・シング』の上演形態は、とびきりユニーク。出演者はたったひとりで、彼を四方から取り囲む形の客席に座った観客は、この物語の一部を担うことになる。ストーリーテラーにして主役、そして観客を物語の世界へと導く役割を果たすのは、笑顔が素敵な佐藤隆太さん。
【写真】佐藤隆太出演『4マリ』厳戒態勢打ち上げ参加の横浜流星
観客を惹きつける“ちょっとした緊張感”
「なんとも不思議な作品なんです。開演前に僕が客席で何人かのお客さんに番号カードを渡して、上演中に番号を呼ばれたお客さんは、そのカードに書かれたことを読んだりして参加していただきます。
先日、アメリカの劇場で上演されていたこの作品を見に行ったんですが、すごく感動しました。最後に巻き起こった拍手がキャストだけに向けられたものじゃなくて、単語を読み上げるという形で参加した人、役を与えられた人、それを温かく見守っていた人、すべての観客のみなさんに送られた拍手だった。
その一体となった感じが、実に感動的で素晴らしかったんですよ! だから僕も、自分が味わったあの終わり方、あの感動を、日本でこの作品を見てくださった方にも味わってもらえるようにしたいと思います」
観客参加型というとアトラクション的なショーを想像するかもしれないが、本作はひとりの人間の人生をあぶり出す奥深いドラマだ。
「非常に繊細に練り込まれ、考えられた台本なんです。観客参加の仕方も、後になってじわじわ効いてくるところがあるんですよ。
僕も実際に観客として参加して思いましたが“いつ呼ばれるかな?”というドキドキがあるんですよね。
そのちょっとした緊張感が集中力を高めて、物語の世界に入り込みやすくさせている。自分の番号を言われたとき、聞き逃せないじゃないですか。
グッとフォーカスが絞られて、感情の波がくすぐられる。これも計算なんだろうな。主人公が語ることからいろいろ想像して、その人生に入り込む感覚が、参加することによってより強くなるんですよ」
舞台に出続ける理由
そのときそこにいる観客のリアクション次第で、1回1回、違うパターンが生まれることになる。佐藤さん、アドリブは得意?
「苦手なんですよ(笑)。いつも“あーそうか、あのときこう返せばよかったな”と後で思います。やっぱりその瞬間でバシッと決めるのは難しくて、打率はまだ低めですね(笑)。
アメリカ人キャストの方からは“どんな反応も正解だから肯定して、とにかく前に進むことが大事”とアドバイスをいただきました。頭ではよくわかりますけど、できるかどうか。緊張するだろうなぁ」
タイトルが意味する“ありとあらゆるステキなもの”とは、主人公が幼少期から、つらい体験を乗り越えるためにコレクションしている“お気に入り”のリストだ。
「僕もふと、リストに入れるものを考えることはありますよ。例えば、アメリカの劇場で書いたのは“この作品が日本で上演されること”。それから“新しく買ったスニーカーの箱を空ける瞬間”とか。きっとお客さんも観劇後には考えたくなっているはずです」
映像の世界での活躍がめざましい佐藤さんだけれど、「舞台はコンスタントに出続けたい」という。なぜ?
「やっぱりナマのライブであるということは大きいですね。映像の仕事ではなかなか味わえない、贅沢な時間だと思うんですよね。
そのときにその場所に集まった人しか感じることができない感動というのが“贅沢だなぁ”と思うんです。演じる側と見に来てくださったみなさんが本当にいい空気になって“ひとつになれているな”と感じる瞬間は、何物にもかえがたいものですから」
そういう意味ではこの作品こそ、贅沢な瞬間を何度も味わえるポテンシャルを秘めていそう。
「そうなりうると思います。僕次第、ですね(笑)。そしてほかの作品以上に、演じる側の人間力が試されるとも思います。何かを隠そうとしてもバレてしまいますから」
震える佐藤隆太も楽しんでほしい
ひとり舞台へのチャレンジに不安はありつつも、覚悟を決めたと。
「脆さも弱さも、すべてをさらけ出すくらいの覚悟がないと、できない作品です。僕自身がまず、心を開いてお客さんを迎えたいと思っています。お客さんとの距離が近いので、震えているところも見られてしまうかもしれませんが、そこも楽しんでいただければ(笑)」
では、ともに作品をつくる共演者でもある観客のみなさんへメッセージを。
「特殊な印象をお持ちかもしれませんが、身構えないでいただきたいです。参加したくなければ無理に引きずり込むことはありませんし、ご自身が好きなスタンスで楽しんでいただければいいので、気張らず、楽しみに劇場へいらしてください! でも、これだけは言えます。ほかの作品ではなかなか感じることのできない、特別でステキな観劇体験が待っていますよ!」
『エブリ・ブリリアント・シング〜ありとあらゆるステキなこと〜』
2013年にイギリスで幕を開けて話題を呼び、世界各国で上演されているユニークな舞台。ひとりのキャストが何人かの観客に番号のついたカードを渡し、観客に参加してもらいながら物語をひもといていく。子ども時代、ステキなことリストを集めていた語り部の人生は意外な顔を見せ、観客を感動へと誘っていく。演出は谷賢一。2020年1月25日〜2月5日 東京芸術劇場 シアターイーストにて上演。以後、新潟、松本、名古屋、大阪茨木、高知公演あり。詳しい情報は公式サイト(https://www.ebt-stage.com/)で確認できる。
さとう・りゅうた 1980年2月27日、東京都生まれ。'99年にミュージカル『BOYS TIME』で舞台デビュー。以後、テレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』などで注目を浴び、『ROOKIES』の熱血教師役でブレイク。 舞台作品に『ビロクシー・ブルース』『ダブリンの鐘つきカビ人間』『いまを生きる』など。最近では『4分間のマリーゴールド』NHK連続テレビ小説『スカーレット』『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』に出演。
取材・文/若林ゆり ヘアメイク/白石義人 スタイリスト/勝見宜人