ドコモがアマゾンに連携を持ちかけた「必然」
NTTドコモの吉澤和弘社長とアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長(編集部撮影)
強者連合が誕生した。
通信キャリア最大手のNTTドコモは11月26日、主力の通信プラン「ギガホ」「ギガライト」の利用者を対象に、電子商取引(EC)最大手アマゾンジャパンの会員制サービス「アマゾンプライム」(プライム)の年会費(税込み4900円)を1年間、無料にするキャンペーンを12月1日から始めると発表した。
ドコモ側がアマゾン側に持ち掛けて実現し、利用者のプライムの年会費もすべてドコモが肩代わりするという。プライム会員はアマゾンの通販での配送料金やスピード面でメリットがあるほか、豊富なコンテンツを取りそろえる動画や音楽も利用し放題になる。
単純値下げには限界
ドコモの「ギガホ」は月額6980円(2年契約の場合、税別)でデータ容量が30GBの大容量プラン。一方の「ギガライト」は使った容量に応じて料金が変わる小容量ユーザー向けのプランだ。いずれも今年6月に「通信料金の値下げ」を掲げて提供を開始した。ドコモは、これらにスマホと親和性が非常に高いアマゾンのサービスを載せることで、既存客の囲い込みや新規客の獲得につなげる狙いだ。
この日の会見でドコモの吉澤和弘社長は「新料金プランを多くのお客様に選んでいただくため、前のような端末値引きという競争ではなく、魅力的なサービスを付加して更に料金プランを磨き上げていくという必要がある」と、その狙いを話した。
大手キャリアの提供する携帯通信サービスは日常で使う限り、つながりやすさや通信速度などの品質には決定的な差はない。いわば水や電気やガスのようなインフラそのものだ。
これまでの競争の大きなカギは、料金水準や端末の値引きといった金額面によるところが大きかった。そのため、キャリア各社のテレビCMは料金を連呼しているものが大半で、サービスに焦点を当てたものはほとんどなかった。
それが足元で徐々に変わりつつある。総務省主導の法改正によって今年10月から過度な端末値引きが規制され、「0円販売」などの露骨な客取り合戦はできなくなった。また、ドコモは「ギガホ」「ギガライト」の投入で通信料金を値下げしたが、国内の人口減少で利用者数の伸びが頭打ちになる中、単純な値下げを繰り返していくのは限界がある。
そこでドコモが活路を見いだそうとしているのが、今回のような強者とのタッグだ。
人気の他社サービスとの組み合わせであれば、そのサービスを使う他キャリアのユーザーを呼び込む契機になる。さらに、アマゾンとの連携は単価を押し上げる効果も期待できる。キャンペーンによってスマホでプライムの動画や音楽を楽しむ人が増えれば、大容量の「ギガホ」を使う利用者の割合も増やせるからだ。
ドコモの目線の先にあるのは、2020年春に商用化を控える5Gだ。「超高速」「大容量」といった特徴を持つ5G時代には、動画サービスも超高画質になるだけでなく、視聴者の好みに応じて自由にその視点を変えられるなどの進化が見込まれている。吉澤社長は「サービスを融合したような形でのプラン、取り組みは5Gにもつながっていく」と構想を語る。
共通の敵を持つ「同志」
他社サービスと連携する動きは、通信キャリア業界で活発化している。
KDDIは昨年夏から、携帯料金に米動画大手ネットフリックスのサービスを組み入れたプランを提供している。ソフトバンクはグループのヤフーと連携して、ヤフーの通販やオークション、コンテンツサービスとの相互送客に積極的だ。また、来春にキャリア事業に本格参入する楽天モバイルは、親会社のEC大手楽天とのセット利用での大きな特典を打ち出してくると見られている。
手を組んだ両首脳。この組み合わせは「必然」だったようだ(編集部撮影)
ドコモもすでに今春からウォルト・ディズニー・ジャパンと協業して動画サービスを提供するなどしているが、他社がスマホ周りのサービスとの連携を強める中で、多くの利用者を持つ強力なパートナーとタッグを組むことが必要だった。今回のアマゾンとの連携は、大きなカードとなりそうだ。
ドコモは自前の通販サービス「dショッピング」を持つものの規模は小さく、アマゾンとの競合はあまり気にすることがなかったことも幸いしたようだ。
ドコモのある幹部は、ソフトバンクや楽天モバイルが自社グループの通販サービスがアマゾンと激しく競り合っていることを念頭に、「他社はアマゾンとは組みにくかったのではないか」と話す。共通の敵を持つ「同志」として、この組み合わせは必然だったといえそうだ。