最近、ネットを中心に激安タイヤが話題を集めています。でも、タイヤは「命」を乗せて走る重要な部品だけに、安価なタイヤを選んでも大丈夫なのでしょうか? そこで、今回は自動車ジャーナリストとして活躍する岡本幸一郎さんに、高級タイヤと激安タイヤの秘密について教えて頂きました!(タイヤの価格は参考価格。楽天市場で取り扱いのあるサイズから代表的なものを選んだ)

 

【プロフィール】

岡本幸一郎

日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌やクルマメディアにて原稿執筆のほか、映像制作や携帯コンテンツなどのプロデュースまで各方面にて活動中。

 

――最近インターネットで激安のタイヤが出回っているのを見かけます。なぜこんなに安い価格のタイヤが存在しているのでしょうか?

 

岡本幸一郎(以下:岡本) 確かに、ウェブで検索すると驚くような価格で販売されている「激安タイヤ」が見つかりますが、その多くは「アジアンタイヤ」と呼ばれるもの。中国、台湾、韓国、インドネシアを中心とした生産国が多いようです。現在、世界中の自動車に採用されているのは日本を中心にアメリカ、フランス、イタリア、ドイツのブランドが主流。しかし、自動車の発展途上の国、特にアジア圏でもタイヤが生産されるようになり、そのタイヤが激安タイヤとして日本へと輸入されているのが現状です。

 

――ということは、「激安タイヤ=アジアンタイヤ」ってことですね。同じタイヤなら安いほうが経済的に魅力だと思うのですが、性能的にはどんな差があるのでしょうか?

 

岡本 タイヤには見た目にはわかりにくいですが、最新のテクノロジーが詰まっています。例えば、いまでは200馬力オーバーのクルマが当たり前のように走っていますし、ハイブリッドや電気自動車などがエコに対するニーズが高まっています。そうしたニーズや環境変化に合わせて、大手タイヤメーカーは新製品を開発。単に性能を向上させるだけでなく、経済性、転がり抵抗も考慮したモデルを作っていきます。さらに、現在は大型コンピュータを使用したシミュレーション技術が発達し、素材配合からグリップ力、耐摩耗性、排水性、路面への攻撃性など、あらゆるものが解析され、商品にフィードバックされています。

 

高品質なタイヤほどこうした作り込みをしっかり行っており、高額になるのは当たり前と言えば当たり前。逆に価格が安いということはそうした部分にコストがかけられていないケースが多いのです。大量に生産すれば量産効果は出てきますが、それも限界があるもの。激安タイヤ=性能が低いと考えて良いと思いますよ。

 

――タイヤの進化は目覚ましいものがあるんですね。では、岡本さんが太鼓判を押す高性能タイヤを教えてください。

 

岡本 ミシュランの最新モデルとして登場したパイロットスポーツ4には注目しているのですが、まだサイズのラインナップが出揃っていなことを考えると、熟成を重ねたパイロットスポーツ3が良いタイヤだと思います。クルマのタイプを選ばず使えるオールマイティな適応力を持っていますし、ドライでのグリップ力はもちろん、ウエット性能の高さも大きな魅力。また、ミニバンのような背の高いモデルであればトーヨー・トランパスLuIIがおすすめです。アドバンのスポーツV105もバランスに優れたタイヤですから選んで損はないと思います。どのタイヤにも最新の技術が投入され、タイヤの“ねじれ感“が低減されていますし、接地圧のコントロールなど、細かな部分まで考えられています。

 

【高級タイヤの代名詞】

ミシュラン パイロットスポーツ3

価格例:1万6800円(1本/215/50R17 91Wの場合)、2万5620円(1本/245/40ZR18 93Yの場合)6万1560円(1本/255/40R20 101Yの場合)

スポーツ、セダン、ステーションワゴンまで幅の広い適応性を持つ。グリップ力、ウエット性能、耐摩耗性を高次元で融合したバランスに優れた高性能タイヤだ。

 

トーヨータイヤ LuII

価格例:1万2997円(1本/225/60R17 99Vの場合)、1万6067円(1本/235/50R18 101Wの場合)2万9472円(1本/255/35R20 97Wの場合)

ラグジュアリーミニバン用のLuII。タイヤシミュレーションを駆使したパターン・構造設計により快適な乗り心地と高い静粛性を発揮する。

 

アドバンスポーツ 105V

価格例:1万9000円(205/50ZR17 93Yの場合)、3万4700円(1本/255/40R18 95Yの場合)、5万4200円(1本/275/35ZR20 102Y RO1 XLの場合)

高性能なメルセデスベンツやポルシェの標準装着タイヤとしても採用。新技術「マトリックス・ボディ・プライ」により高い剛性感と共に俊敏なハンドリングを実現。

 

――価格と性能はリンクすることは理解できましたが、安全性には問題はないのでしょうか?

 

岡本 アジアンタイヤにもA/B/Cランクが存在すると考えてください。最低のCランクでは素材にゴムを使わず、粗悪なビニール素材が使用されているものもあり、構造帯にスチールベルトが入っていないものもあると聞いています。日本国内に入っている可能性は限りなく低いようですが……。

 

次に一般的に激安タイヤと呼ばれ、流通しているのがBランク。最低限の構造や技術によって生産されていますが、素材の耐久性が低く、生産技術の未熟さによってタイヤ自体が歪んでいて、ホイールへの装着時にバランスが取りにくいものが多いようです。

 

最後にAランクですが、これはクムホやハンコックがそれに該当します。現在ではモータースポーツシーンや自動車メーカーのOEMとして活躍しており、クムホはジープやメルセデスベンツに使用され、ハンコックはポルシェ、BMW、アウディなどの海外メーカーだけでなく、ホンダや日産、トヨタなどの国産メーカーにも新車装着タイヤとして使用されています。もちろん、両ブランドはアジアンタイヤではあるものの、その技術力も世界レベルに達しています。B、Cランクの激安タイヤとは一線を画しているので安心して選べるでしょう。そのぶん、割安感は少ないのですが。

 

【アジアンタイヤでもクムホやハンコックは実績があって安心】

クムホ ECSTA PS91

価格例:2万3500円(1本/285/35R20 (104Y))

スーパースポーツを対象に開発されたドライ、ウエット共に高次元でグリップ力を発揮するクムホの最高傑作。

 

ハンコック アンブランeco

価格例:9072円(1本/185/65R14 90H)、1万2852円(1本/215/60R16 95H)、1万2096円(1本/185/65R15 92H)

ハイブリッドモデルに最適な低燃費+「安全性、快適性、静粛性」を実現したエコタイヤ。環境対策対応。

 

――では、日本国内に流通している激安タイヤ(Bランク、Cランクのタイヤ)は実際に使用しても大丈夫なのでしょうか?

 

岡本 使うことはできても、車の性能をフルに発揮できるとは思えません。また、万が一のときを考えるとお薦めしたくないですね。実際に激安タイヤを経験するべきだと考え、ネットで購入した友人がいるのですが、タイヤをホイールに組み付ける時に作業者から「保証はできません」と言われたそうです。また、バランスを取るためにホイールの内側にバランスウエイトが山のように貼り付けられていたと笑っていました。実際に走った印象を聞いたとところ、街中で走る分には大きな違和感はないそうですが、集中豪雨の中では排水性が悪過ぎて、路面の水が抵抗になり真っすぐ進ますに怖い思いをしたそうです。結局、彼は買い直したそうです。

 

――なるほど。激安タイヤは安物買いの銭失いになることが分かりましたが、それはスタッドレスタイヤでも同じことがいえるのでしょうか?

 

岡本 スタッドレスこそ心配です。雪上や氷上では技術力の差は、ドライ路面以上に差が出ます。また、危険な路面で命を激安タイヤに任せるのはあまりお薦めしません。現在のタイヤはシリカが配合されているのですが、この素材の使い方によってウエット性能や低温時の性能が決まってしまうのです。日本ブランドのスタッドレスの場合、徹底したシミュレーションと過酷な寒冷地でのテストを繰り返すことで性能を向上しています。蛇足ですが、あのミシュランもわざわざ北海道でテストを行うほど、実は日本の冬環境は厳しい条件が揃っています。それを検証しているはずない激安スタッドレスタイヤを冬の日本で使うことは、自分だけでなく同乗者や周囲の人までも危険に晒してしまう可能性があると考えましょう。

 

――激安タイヤがそんなに危険だとは思いませんでした。やはり、アジアンタイヤは避けた方が無難ということですね?

 

岡本 いや、アジアンタイヤと括ってしまうと、クムホやハンコックも含まれてしまいます。この両ブランドは世界と比肩する技術力を持っていので安心してください。逆に聞いたことのないブランドは要注意だということです。最近ではネットでの情報収集が簡単にできるので、しっかりと検索をしてネガティブな情報を参考にしてください。逆にポジティブな書き込みは関係者によることも多いので気をつけましょう。最後にタイヤは値段で決めるのではなく、性能と安心を考えて選ぶことをおすすめします。高性能スポーツカーであれファミリーカーであれ、路面とつながっているのは唯一タイヤだけなのですから。安全と金額は天秤に掛けることはできないのです!