バカでキレる子を量産する「ネット依存」の怖さ
■高校生のネット依存が世界で増えている
3年ごとに実施されているOECDのPISA調査は、世界各国の15歳の学校生徒を対象にした国際的な学力調査であり、その結果には世界的な関心が集まる。同調査では、学力テストに合わせて、就学上の状況調査として、生徒の生活や意識について直接生徒に聞く調査を実施している。
前回はこの調査から「いじめ」の国際比較をとりあげたが、今回は、「ネット利用」についての結果について最新の2015年のデータを見てみよう。
わが国ではスマホやインターネットついてはマスコミが携帯電話会社から巨額の広告料を得ていることなどによってプラス面に比してマイナス面が報じられることが少ないとの印象をもっているのは私だけだろうか。ところが、国際的には子どもへの影響を中心に「ネット中毒」が大いに心配されている。
世界保健機関(WHO)が、本年5月にオンラインゲームなどにのめり込み、生活や健康に深刻な影響が出た状態を「ゲーム障害」(ゲーム依存症)と呼び、精神疾患と位置付ける「国際疾病分類」を正式決定したのもそのためである。
まず、世界の高校生がどの程度、SNSやネットゲームなどネット利用にのめり込んでいるかのデータを見てみよう。
■「平日6時間以上」利用のネット依存(中毒)は高校生の何割か
OECD諸国の平均で、高校1年生がネットを使用している時間は、学校外、すなわち家庭で、平日が146分、週末が184分であり、2〜3時間に及んでいる。スウェーデン、英国、チリ、ロシア、ブラジルなどでは平日でも3時間を超えている。
PISA調査の報告書ではネット1時間以下を「低利用者」、1〜2時間を「中利用者」、2〜6時間利用を「高利用者」、6時間以上を「極端利用者」と分類している。
6時間以上は「ネット依存(中毒)者」としたかったが、医学的見地のオーソライズが当面得られなかったので、「極端利用者(Extreme Internet users)」という用語に落ち着いたのであろう。この記事では平日学外6時間以上は「ネット依存(中毒)」とみなすことにする。
■「家ではずっとスマホやPC」の日本の高校生は6.4%
1日24時間から、学校の授業の時間、家庭内での食事(朝食夕食)・入浴の時間、勉強の時間、睡眠の時間を引いた時間のうち、6時間以上を、スマホやPCを眺めることに費やしているのだから、相当なものだ。ほとんど「家ではずっと」状態ではないか。
この「ネット依存」の高校生の比率はOECD諸国平均で16.2%であり、調査対象国の中で最もこの比率が高いのはチリの19.5%であり、ブラジルの19.0%、英国の18.8%がこれに次いでいる。
地域的には先進国、途上国を問わずネット依存は全世界的に広がっている。ところが日本(6.4%)は、中国(4.0%)や韓国(1.9%)などと並んでネット依存の程度が世界の中では比較的低いことがわかった。韓国や中国などは日本以上にネット社会になっているのに、高校生の世界はまた別なのである。
この原因は、よくわかっていない。私見だが、儒教の影響下で紙に書かれた文書と比較してネット情報が一段低いものと評価されているからではないだろうか。また、「ネットばかりしていてはダメ」という先生や親の言うことに比較的こうした国の子どもは従う癖がついているかもしれない。
■ネット依存の子と「低い生活満足度」や「低学力」との関連
ネット依存は何が問題なのであろうか。この点を探るため、「ネット利用時間と生活満足度」また「ネット利用時間と学力」との関係を示すデータを図表2に掲げた。
生活満足度は、おおむねネット利用時間が増えると低下する傾向が認められる。「科学」のテストの成績で見ると学力はネット利用1時間以下よりは1〜2時間のほうが高いが、それよりネット利用が長くなると成績は落ち、特に6時間以上ではぐっと落ちる傾向が認められる。
以上の結果をさらに対象国47カ国に拡大して示した図を図表3に掲げた。ほとんどの国で同じ傾向があることが明確である。つまり、ネット依存の生徒は生活に満足しておらず、学力も相対的に低い。ネット依存生徒の生活満足度が際立って低いのはアイスランドであり、学力が際立って低いのは中国や台湾である。
日本は、ネット依存生徒の生活満足度・学力の両方が低い状態にあることがグラフから読み取れる。
幸せでないからネットに走るのか、それともネット依存が不幸を招くのか。また、学力が低いからネットに走るのか、それともネット依存が低学力を招くのか、については、さらに、突っ込んだ心理学的、疫学的調査が必要であろう。私には両面があるように思える。
■勉強ができる子はネット依存のリスクを知っている
デジタル社会における人間能力の開発を扱った別のOECD報告書でも、ネット利用がメンタルヘルスを害しているかもしれないという問題が大きく取り上げられており、これまでふれてきたPISA調査の結果が参照されている。
そこでは、さらにPISA調査のネット関連の別の設問の結果を引用して(図表4参照)、問題を克服するためにはネット依存の弊害に自覚的になることが重要だと指摘している。その部分を引用しよう。
「勉強のできる生徒は技術の極端利用(技術への依存)と結びついているリスクをよく知っており、コンピューターにどれだけの時間を費やすか、またいかにデジタル機器を使うかについてより自覚的である。PISA調査のデータは、高学力生徒はインターネットの接続が切れても気分を害すことが少ないのである。インターネットがつながらずに気分が悪くなる生徒は、数学、科学のテストで低学力の生徒が62%であるのに対して高学力生徒は45%と少なくなっている」(OECD Skills Outlook 2019, p.159)。
なお、引用の通りの一般傾向とは反対に、日本と韓国だけは高学力生徒のほうがネット不接続にイラつきやすくなっている。理由は不明である。
■青少年へのネットの長時間使用の禁止をすべき
以上のように青少年を取り巻く状況は深刻化しているので、何らかのネット依存対策が必要である。ネット利用も依存症に陥りやすいという点ではアルコールやたばこと同じである。アルコールやたばこは未成年には禁じられているし、特別の税が課せられているのに、ネット利用は、なぜ、野放しになっているのであろうか。他国の対策も参照しながら以下のような対策を検討すべきではなかろうか。
・青少年へのネットの長時間使用の禁止
・広告規制(青少年を煽(あお)るような広告の禁止。弊害の併記義務化)
・スマホ税を原資とした疫学的研究の促進、および病気としての認知
・学校における啓発活動の普及
なお、対策を考えるにあたっては、図表1の分析でふれたように日本や韓国など儒教圏諸国では高校生のネット依存の程度が格段に低い点なども大いに参考にしながら、さらに教育現場や家庭内でネット依存を根絶できるような働きかけが必要である。
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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)