「レッドブル・Xアルプス」は、パラグライダーと足でアルプス山脈を縦走するレースです。世界のトップ選手たちのフライトには、改めて、パラグライダーは高いところから低いところへ飛ぶだけの乗りものではないことを思い知らされます。

飛べないときは足で稼ぐ「空の鉄人レース」!

 パラグライダーと自分の足で、ヨーロッパのアルプス山脈を縦断する“空の鉄人レース”、「レッドブル・Xアルプス」が2019年6月16日(日)、スタートしました。


「レッドブル・Xアルプス」では、パラグライダーでアルプス山脈を越えるほど高く飛ぶことも。写真は練習時の様子(画像:Felix Woelk/Red Bull Content Pool)。

「Xアルプス」はオーストリアのザルツブルグから地中海沿岸のモナコまで、アルプス山脈を縦断する世界最大規模のパラグライダー競技です。途中13か所の通過ポイントはドイツ、イタリア、スイス、フランスにもあり、ポイントを直線で結ぶと全長1138kmにもなります。前回の2017年大会では、優勝者でもゴールまで10日かかりました。

 パラグライダー競技では、「正確に風を読んで効率よく移動する能力」を競います。「Xアルプス」ではこれに加えて、上昇気流がなければ着陸し、パラグライダーを畳んでリュックのように背負い、次の離陸地点まで歩きます。空を飛んでは自分の足で山を登る、を10日間も繰り返す、まさに空の鉄人レースです。


2017年大会。飛行に適さない気象条件のときは、パラグライダーを背負って走る(画像:Harald Tauderer/Red Bull Content Pool)



2017年大会。急斜面からの離陸(画像:Vitek Ludvik/Red Bull Content Pool)。

 筆者(大貫 剛:宇宙・科学ライター)はパラグライダー歴20年のパイロットです。年数だけ見るとベテランですが、競技などではなくレジャーで週末に飛んでいるような感じです。その経験も含めて、パラグライダー競技について簡単に解説しましょう。

 パラグライダーは「高い山から飛んで、低い平地に降りる」というイメージの人が多いと思いますが、それはあくまで基礎的な飛び方。スポーツとしてのパラグライダーの醍醐味は、「上昇気流に乗って高く昇ること」にあります。

目に見えない風をどう捕まえる?

 長距離を移動しようとすると、この上昇気流を乗り継いで移動する必要があります。スキー場で、リフトに乗って山を登るのと、ゲレンデを滑り降りるのを繰り返すような感じです。高く昇ったら滑空して移動し、高度が下がったら上昇気流に乗ってまた昇る、を繰り返すことで、動力がなくても飛び続けることができます。

 スキー場と異なるのは、リフトにあたる上昇気流がいつ、どこに発生するのかわからないこと。地形や雲の動きなどから上昇気流の発生を予測し、的確に風を使って上昇する必要があります。つまり「風を読んで、風に乗る」のがパラグライダーというスポーツの肝で、これは競技でもレジャーでも同じです。


2017年大会、ゴールのモナコ上空にて。たどり着いた選手は31人中2人のみだった(画像:Sebastian Marko/Red Bull Content Pool)

 アルプスはパラグライダーだけでなく、様々なスカイスポーツにとって世界的聖地とも言える場所です。スイスのスイスフラン紙幣には、アルプスを飛ぶパラグライダーが描かれたものがあるほど、広く親しまれています。「Xアルプス」のコースはアルプス山脈を何度もまたいでいるので、上昇気流で最高5000m以上の高さを飛行しなければなりませんが、そのときの景色は格別です。

「もう一度盛り上げるため」参戦の日本人選手は大会最年長

 一方、スカイスポーツに共通する悩みのひとつに、観客から見たときのわかりにくさがあります。高度数百m、数千mを飛行するパラグライダーは地上から見ることが難しいので、競技の経過は無線で知らされる位置情報だけになり、リアルタイムで競技を見ることができないのです。


「Xアルプス」2019年大会より、3DCGのバーチャル映像で各選手の現在の様子をネット上でライブ配信するシステムを導入(画像:zooom.at/Red Bull Content Pool)。

 前回までの「Xアルプス」では、各選手の現在位置はGPSの情報をもとに、地図上で見ることができました。さらに今回からは、3DCGのバーチャル映像で各選手のフライトなどを表示できるシステムを整えました。いまどの選手がどこで何をしているのか、迫力あるバーチャル映像でアルプスの景色とともに楽しむことができます。


唯一の日本人にして最年長参加者の扇澤 郁選手(画像:Red Bull X-Alps)。

2019年大会、ザルツブルグをスタート(画像:Honza Zak/Red Bull Content Pool)。

2019年大会、初日の様子(画像:Harald Tauderer/Red Bull Content Pool)。

 今回の「Xアルプス」には、日本人の扇澤 郁(おうぎさわ かおる)さんが出場します。扇澤さんは現在59歳で、全選手中最年長。2007(平成19)年に初出場して以来、4大会連続で出場していましたが、2015年と2017年は出場しておらず、6年ぶりの出場となりました。このことについて扇澤さんは次のように話しています。

「レッドブル・Xアルプスはパラグライディング界では大変人気のある大会ですが、日本人が出ていない過去2大会は、日本でそこまで盛り上がらなかったので、(私が)もう一度盛り上げたいと思って出場を決めました」
 パラグライダーは、アジア版オリンピックとも言える「アジア大会」でも2018年に初めて正式競技になり、最初の金メダルを日本チームが獲得していますが、まだ日本ではあまりよく知られていないスポーツです。「Xアルプス」での扇澤さんの活躍で、人気が高まるでしょうか。

【画像】険しい山並みを縦走! 「レッドブル・Xアルプス」2019年大会のコース


オーストリアのザルツブルグをスタートしゴールのモナコまでを、パラグライダーと自らの足だけで踏破する(画像:Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool)。