電車は多くの場合、鉄道会社が電力会社から購入した電気を使って走ります。たくさんの電車が走っている大都市の鉄道路線では電気代も高額ですが、車両の数や走行距離の平均で見た場合、自動車に比べてかなり安いといえます。

一般家庭1日分の消費電力で走れる距離は?

 電車は線路の上に設置された電線(架線)などから電気を受け取り、車両の台車に搭載されたモーターを回して走行。鉄道会社は多くの場合、電車を運転するための電気を電力会社から購入しています。


電車は架線などから電気の供給を受けて走る(2017年4月、草町義和撮影)。

 鉄道会社が電車の運転に使う電力は相当な量で、電気代も高額です。国土交通省が公表している『鉄道統計年報』(2016年度)によると、関東大手私鉄9社の年間電力消費量(列車運転用に限る)は、27億7670万4896kWh(キロワット時)。その代価は388億3410万3000円です。鉄道の種類や線路の状況、電力会社との契約内容などによって変わりますが、1社平均では、1日あたり約1200万円の電気代を支払っていることになります。

 しかしこれは、関東大手私鉄の多くが長い編成の電車をたくさん運転しているため。『鉄道統計年報』を参考に単純計算してみたところ、関東大手私鉄9社が電車1両を1km走らせるのに使っている電力消費量は約2kWh。その電気代は30円前後になりました。

 一般家庭(3人世帯)の電力消費量は1日あたり15kWh程度(東京都環境局『家庭のエネルギー消費動向実態調査』などを参考に計算)と考えられるため、一般家庭1日分の電力で電車1両を7km以上、走らせることができるといえます。

自動車のガソリン代より安い? 高い?

 また、関東大手私鉄の初乗り運賃(3km未満から6km未満)は124〜165円(大人、ICカード)ですから、1kmだけ走るとすれば、1両に大人の客をひとり乗せるだけで電気代を回収できる計算になります。ただし、実際は電気代だけでなく車両や線路のメンテナンス費などもかかりますから、全体の経費はもっと高くなります。


電車の電力消費量はモーターの改良や車体の軽量化などで減少している(2018年2月、草町義和撮影)。

 自動車も車種や道路の状況、走り方などによって燃料の消費量や費用が変わりますが、仮にガソリン価格を1リットル145円とし、1リットルで15km走れる普通乗用車を使うとすれば、1km走るのに約9.7円かかります。金額だけをみれば電車の電気代より安いですが、電車1両で運べる人数(長さ約20mの通勤形電車の場合)は所定でも100人を軽く超えますから、ひとりあたりでは電車の電気代のほうが圧倒的に安いといえます。

 電車の電力消費量は、昔に比べ大幅に減っています。JR東日本が2014年、南武線に新型車両(E233系電車)を導入すると発表した際、従来の車両(1980年代に開発された205系電車)と比較して約7割の電力で走れるとしていました。

 これは技術の進歩によるもの。電気を効率よく使えるモーターや制御装置が開発されたほか、アルミなど鉄より軽い素材を使った車体を採用することで、少ない電力でも走れるようになりました。

 少ない電力で電車を走らせるための技術はいまも進化を続けており、将来的には電力消費量がさらに減るかもしれません。

【写真】架線がない路線を走る電車? JR九州「DENCHA」


JR九州のBEC819系電車「DENCHA」。架線がある場所でバッテリーに充電し、写真のような架線がない路線では充電した電気で走る(2017年5月、草町義和撮影)。