2018年にもっとも印象に残ったアスリートは誰か。冬季五輪で2大会連続の金メダルをつかんだフィギュアスケートの羽生結弦、移籍1年目のメジャーリーグで二刀流を貫いた大谷翔平らが、一般的には18年の顔と言うべきアスリートだろうか。

 サッカー界ではロシアW杯の日本代表チームであり、チームをベスト16へ導いた西野朗監督が、18年を象徴する存在になるのかもしれない。JリーグではJ1連覇を達成した川崎フロンターレ、リーグ戦と並ぶ3大タイトルをつかんだ浦和レッズと湘南ベルマーレ、さらにはACL初制覇の鹿島アントラーズの頑張りが評価されるだろう。

 タイトルこそ獲得していないものの、ヴィッセル神戸に加入したアンドレス・イニエスタのインパクトは鮮烈だった。日本サッカーの底辺拡大という意味でも、彼がJリーグでプレーする価値は5年後、10年後にさらに大きなものとなるだろう。育成年代にイニエスタのプレーを生で見られる経験は、日本サッカーの財産になっていくに違いない。

 取材現場に自分が立ち会ったなかで選ぶなら、ジャパンラグビートップリーグの神戸製鋼コベルコスティーラーズのDCことダン・カーターをあげたい。

 ニュージーランド代表として4度のワールドカップに出場したこの36歳は、オールブラックスが大会連覇を成し遂げた15年大会で主軸として活躍した。サッカーのバロンドールに相当する年間最優秀選手には、これまでに3度選ばれている。世界のラグビー界の生きるレジェンドと言っていい選手だ。

 地位も名誉も富も築いてきた男は、人間的にも魅力に溢れている。ジャパンラグビートップリーグのデビュー戦となった9月14日のサントリー戦後、DCは試合後の共同記者会見に出席した。TLでは試合後の記者会見に監督とキャプテンが出席するのだが、注目度の高さからマイクの前に座ったのだった。

 一つひとつの質問に対する答えが、とても丁寧だった。丁寧なので答えは長くなる。そのあとに通訳が入るので、DCの答えが明らかになるにはさらに時間がかかる。
必然的に受けられる質問の数が限られてしまうのだが、記者会見に物足りなさを感じるメディアは少なかった、というのが僕の肌触りだ。

 記者会見でDCが言葉にしたのは、日本のラグビーと日本人選手へのリスペクトであり、ラグビーへの濁りの無い思いだった。たった一度の、それも10数分の触れ合いで、DCは日本人メディアの心を惹きつけた気がした。少なくとも僕自身は、彼の言葉をもっと聞きたいと感じた。

 ひるがえってJリーグには、イニエスタがいる。ルーカス・ポドルスキも、フェルナンド・トーレスもいる。

 7月に開かれたトーレスの来日会見は素晴らしかった。日頃からサッカーを取材している立場の人間からすると、「いまさらそれを聞かなくても」と感じる質問もあった。それでも、トーレスは表情を曇らせることなく答え、自身のサイン入りユニフォームを会見に出席したメディアに抽選でプレゼントする、というサプライズまで用意していた。

 Jリーグを終えて帰国したトーレスやイニエスタらは、母国のメディアにJリーグについて語っている。その内容はポジティブなものばかりだ。

 日本では基本的に通訳を介したコミュニケーションとなるため、彼らの言葉を日常的に聞くのは難しいところがある。ただ、外国人選手だけでなくJリーガー全般の取材について、僕自身はクラブ側の配慮がちょっと強いかな、と感じる。

 プロとはプレーで見せるもの、語るべき場所はピッチと言われたりもするが、言葉で伝えるのも大切な表現手段である。サッカーやJリーグの魅力を発信する意味でも、選手が語る機会をより多く作っていくべきだと思うのだ。