世界市場における日本企業の凋落に歯止めがかかりません。なぜこのような惨状に陥ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアとして知られる中島聡さんが、先日行われた講演で自らが語った「日本企業が世界で通用しない理由」を記しています。

なぜ、日本企業は世界で通用しないのか

先日、日経BPのイベントでの講演しました。私の書物に掛けて、「なぜ、あなたの仕事は世界で通用しないのか」というタイトルでの講演を依頼されたのですが、問題は本人よりも組織の問題である場合が多いので、主にそちらの話をしました。つまり、実際の内容は「なぜ、日本企業は世界で通用しないのか」というタイトルが相応しいものです。

大きな理由として、三つを上げました。

ITのことが分からない経営者ゼネコンスタイルのソフトウェア開発ビジョンの欠如

最初の二つは、主に日本の大企業に当てはまる話ですが、経団連を見ても分かる通り、日本の大企業は、パソコンもまともに使えない「IT音痴」な人ばかりです。そんな連中が経営をしている限り、どう考えてもAmazonやGoogleと戦えるわけがなく、そこを治さない限りは、日本企業は沈んで行くばかりです。終身雇用制と年功序列の弊害です。

米国の場合、そんな企業はさっさと市場から消えてしまいますが、日本の場合は、多くの従業員を抱えた大企業は出来るだけ倒産させない、という日本政府の方針もあり、その手の企業がいつまでもゾンビ状態で生き残る構造になっているのが大きな問題です。企業の健全な新陳代謝が進まないのも大きな問題です。

二つ目は、ここでは何度も話している話題なので、説明は省略しますが、ITゼネコンと呼ばれる大手IT企業だけでなく、家電や自動車を作っているハードウェアメーカーまでもが、同じように「(理系の大学を出た)正社員が仕様書を書き、下請けの(安月給の)プログラマーがコードを書く」という根本的に間違ったソフトウェアの作り方をしているため、優秀なエンジニアが育たないし、良いソフトウェアが作れないのです。3K(きつい、給料安い、帰れない)と呼ばれるブラックな職場が出来る原因もここにあります。

三つ目は、日本の大企業とベンチャー企業の両方に当てはまる話ですが、「こんな世界を作ろう」「自分たちの存在目的は何か」というビジョン(=企業理念)に欠ける会社が多いため、良い人も集まらないし、ビジネスプランも定まらないのです。

ソニーやホンダなどの日本の高度成長期を支えた日本企業も、創業者が存在した時期は、しっかりとしたビジョンのあった会社でしたが、創業者がいなくなり、サラリーマンが経営者をするようになり、ビジョンも薄れ、売り上げやシェアばかり追いかける、面白くない企業になってしまいました。経団連の重鎮たちが、全員、起業経験のないサラリーマン経営者という体たらくなのです。

これは、日本企業だけに当てはまる話ではなく、米国の企業でも創業者がいなくなった後にビジョンがぶれてしまうケースが良くあります。企業にも寿命があるのです。

日本のベンチャー企業のスケールが米国のそれと比べて小さいのは、やはりしっかりとしたビジョンを持たない経営者が会社を率いているため、結局、日銭を稼ぐためのビジネスに走ってしまうのです。日本のITベンチャーの多くが、ガチャ、FX、仮想通貨などの「弱者から搾取するビジネス」に手を出しているのは残念でなりません。

ちなみに、プレゼンの途中で紹介したのが、2019年に卒業する大学生の人気ランキングです。

日本航空伊藤忠商事全日空三菱東京UFJトヨタ自動車三菱商事サントリー東京海上資生堂東日本旅客鉄道

ベンチャー企業でなくても良いので、せめて、リクルート、ソフトバンク、ファーストリテイリング(ユニクロ)あたりがランキングに入っても良いと思うのですが、そうならないところが、学生までが保守的な考えに囚われていることが良く分かります。

講演の後に、日経BPの記者に「2019年のIT用語を一つ選んでください」と言われたので、「なんちゃってAI」と答えました。最近のAIの進歩は素晴らしいと思いますが、それが一人歩きしているのを良いことに、大手のITコンサルタントが、AIをキーワードに色々な企業にIT投資をさせようと躍起になっているのが現状で、それに警告を与えようと思ったのです。

ITのことが分からない経営者が、日経新聞のAIに関する記事を読み、「うちの会社もAIを導入しなきゃいかん!」などと言い出したら、格好の餌食になります。「AIの導入」が目的でなく、まずは、企業が抱える「解決しなければいけない問題」があり、その問題が従来型の方法では解決できない時に、ツールの一つとしてAIがある、ぐらいに考えておく必要があります。

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