●536年はアイスランドの火山灰による地球規模の気候の悪化が

 ハーバード大学の中世史研究者マイケル・マコーミック氏は、人類史上最悪の年は536年であった発表した。詳細は、科学誌『サイエンス』に掲載された。

【こちらも】14世紀ヨーロッパを襲った「黒死病」、原因はネズミでなかった可能性

536年は、アイスランドで火山が噴火し火山灰が大気中に漂い、その影響で地球規模の気温低下が発生した。これに伴い、干ばつや飢饉が起こり、人類は生き残りに困難を要したとしている。また、その状況はおよそ100年に及んだともいわれている。

 黒死病が大流行した1349年、1918年のインフルエンザの猛威にもまして、人間にとって困難な年であったとされた理由は何であろうか。

●気候の悪化に拍車をかけたペスト

 536年、ヨーロッパから中東、アジアにいたるまで、世界は霧に覆われた。18カ月間も続いたこの不気味な霧によって、気温は1.5度から2.5度も下がり、中国では夏季に降雪まで記録したといわれている。作物は大きな損害を受け、人々は飢餓に苦しみ始めた。

 その状況を悪化させたのが、541年に大流行したペストである。ときのローマ皇帝の名をとって「ユスティニアヌスのペスト」と呼ばれるこの病気の流行で、東ローマ帝国では全人口の3分の1から半分が命を失ったといわれている。

●イタリアとスイスにまたがるニフェッティ峰の氷河を調査

 この謎の霧を解き明かしたのが、ハーバード大学のマコーミック教授であった。マコーミック教授率いる研究チームは、イタリアとスイスにまたがるプンタ・ニフェッティと呼ばれる山の氷河を分析し、536年にアイスランドで発生した火山の噴火による火山灰が、世界各地を覆い尽くしたことを明らかにした。大規模な噴火は、その後540年と537年にも発生、541年のペストの流行により状況はさらに悪化したと推測される。

 人口の減少に伴って経済も衰退し、人類がこの状況から脱出したのは640年頃といわれている。実に、100年以上危機的状況が継続したことになる。

 実際、この年に相当する氷河の層には、火山灰に含まれる鉛の成分が通常よりも多く検出されたという。